歌を歌っていただけですけど!? | ナノ


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ここ最近、虎杖悠仁は不機嫌だった。拗ねていたと言っても過言ではないのだが、彼の名誉のためにあえてこの表現を利用しよう。彼は不機嫌だった。


「あっ、外村おかえr――」
「ヨル、ココのリップはコスパ良いからオススメ」
「ヨル、次の休みは一緒に買い物行こう」

「そ、外村、今日の放課後俺とーー」
「ヨルー!夏油様が食べ放題連れて行ってくれるってーー!!」
「ヨル。夏油様が挑戦したいデカ盛りパフェがあるって言ってたよ」

「外村!合同授業のペアーー」
「ヨルー!一人余りだからうち等のトコおいでよ」
「五条先生、夏油派で組みます」


最近、虎杖悠仁は彼が思いを寄せる少女との会話を満足に行う事が出来ていなかった。それは一重にあの双子のせいだ。任務で帰ってきた彼女に声をかけようとしても被せられ、放課後、(彼のなかでは)デートに誘っても有耶無耶にされ、授業中ペアを組もうと誘おうとしても奪い取られる。ヨルに振るはずだった手が虚しく空を切り、虎杖の肩を伏黒が叩いた。


「ペア、俺でいいか?」
「う“ん”っ…」


悔し涙が頬を伝う。自分はあの双子の少女たちに何かしただろうか。今だけ伏黒の優しさが痛かった。ちなみに夏油組の双子は純粋に自分たちの後輩を可愛がっているだけで、故意はない。純粋にタイミングが悪かった。


「外村!」
「?」


だからこそ、虎杖はヨルが一人で廊下を歩いているときほぼ条件反射で声をかけてしまった。周りに先輩もクラスメイトも担任もいない、純粋に二人だけの空間。それに気づいたとき、虎杖の心臓が激しく音を立てて鳴り響き、虎杖はもう一度震える声で彼女のことを呼んだ。


「そ、外村っ…!!」
「どうしたの、虎杖君」


死にそうな顔して。

その腕の中に可愛らしい少女の姿をした”黒“を抱き上げたままのヨルが振り返る。久しぶりの会話。ソレに感動しながら虎杖はヨルを見る。そしてヨルも虎杖を不思議そうに見つめた

夕焼けに染まる廊下。対峙する二人の男女。人気のないその場所で、虎杖は軽く目に涙を浮か、あまり回らぬ頭で口を開く。


「俺もっ、俺も外村と一緒に買い物とか、行きたいんだけどっ…!」


俺もってなんだよ。思わずセルフツッコミが入ってしまったのはご愛敬だろう。自分で言葉にしたくせにますます混乱する虎杖に気付かぬまま、ヨルは小さく首を縦に振った。


「いいよ」
「えっ…!」


思わず顔を上げる。色よい返事が貰えるなんてと虎杖の顔が喜びに染まった。


「伏黒君とか、野薔薇とか、いつ誘う?」


…違う。そうじゃない。

そうじゃないのだと叫べたらどれほどよかっただろう。虎杖はヨル自身の手によって絶望に叩きつけられた頭で思う。けれどヨル自身、別に悪気があってそんなことを言ってるわけじゃない。当たり前のように友人である野薔薇や、クラスメイトである伏黒を誘おうとしているだけ。

ぐっと、眉間にしわが寄り、言葉を探すように目線が彷徨う。

ココでいつものように笑い飛ばして、本来の目的を捻じ曲げて、「釘崎と伏黒ならこの日暇だったよ」なんて言いながら話を繋げるのは簡単だ。

―――でも違う。俺は…。

ヨルが、不思議そうに虎杖を見ている。その事実に今の自分がどれほど格好悪いのか、卑怯な逃げ方をしようとしているのか自覚させられそうだ。男になれと、思い出の中にいる祖父が叱咤を飛ばす。

虎杖がそんな思考に意識を向ける中、ヨルが聞こえなかったのだろうかと心配し、もう一度同じ言葉を紡ごうと口を開く。


「虎杖君?野薔薇と伏黒くんは」
「俺はッ!!!」


突然の大声に、ヨルが息を飲む。彼女の言葉を遮る様に、そう叫んで、虎杖は顔を上げた。

―――赤い…?

その顔を見た時、ヨルの胸にその言葉が浮かぶ。夕焼けに染まり赤いわけじゃない。そう理解する前に、目の前の彼は制服の裾を掴みながら言葉を一気に叩きつけた。


「俺はッ、外村と二人だけで遊びたいっ!――、釘崎とか、伏黒とか、先生たちが居てもぜってぇ楽しいけど。でも俺は、外村と。外村とだけで、今回は一緒に行きたい…。」


自分の想いを、初めて正直に告げ、彼はヨルを見つめる。スッと、自然に背筋が伸び、掌を天井に向けながら虎杖の手がヨルに向かって差し伸ばされる。覚悟を決めた様に虎杖が腰を曲げ、少々早口で言葉を紡いだ。


「まだ、言葉にすんの自信なくてできないけど、外村。俺と、デートしてください」


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