歌を歌っていただけですけど!? | ナノ


▼ 4

―――以下、ちょっと可哀想な虎杖(※団体戦終了後の話)―――


「そ、外村…!」
「?」

団体戦終了後、己の術式について京都側数名と話し合いをしていたヨルは虎杖の声に顔を上げた。自分から話しかけたというのに、虎杖の顔色は少し青い。間違っても自分の好きな女に話しかける男の顔ではなかった。むしろどこか恐る恐るといった風な様子にますますヨルは首を傾げ、話し合いをしていた西宮や三輪、三輪の後ろにさりげなく隠れる真依に一言言って離れた。


「どうしたの虎杖k」
「俺っ…!別に尻とかたっぱとか大きくなくてもいいからっ…!!」
「・・・」


何の宣言を一体されているのか、呆然とするヨルと顔を青くしたり赤くしたり忙しい虎杖。その悲痛な声音に絶対安静であり、この場にいない人間(東堂や加茂、伏黒)以外の視線が二人に集中した。それに気づかず虎杖は普段の快活さはどこにやら、ヨルの両手を握って必死に言い募る。


「いや、あん時なんも考えてなかっていうか…!も、もちろん外村の背が低いとか思ってるわけじゃないけど…!!」


言わなくていい情報まで零している事実に果たして気付いているだろうか。


「俺っ、外村なら正直なんでもいいっていうか…!外村が俺の好みっていうか…!どんな外村でも俺はーーー、あ“っ」


ようやくここで気づく。自分がどこにいるのか。そして目の前のヨル(両手を握りしめられている)がとても不思議そうに首を傾げこちらを見つめている事実。固まる身体。ダラダラと流れる冷汗。そんな虎杖の後ろから五条がその肩を叩き、笑った。


「あ、ちなみにモニター室って音質悪いから特に何も聞こえてないよ」
「何の話ですか五条先生」
「男同士の話、かな」
「うわ…」
「だんだん容赦なくなって来たよねヨル」


五条を見るまなざしが生ごみを見るソレだった。

さて、なぜ虎杖がここまで焦っていたのか。それは一重に己の担任の何気ない一言だった。曰く「ヨルって東堂と悠仁の殴り合い見てたんだよね」
その言葉がどれほどまで衝撃的だったか、五条にはわかるまい。まさか好きな女の子が画面越しに見ているとは露知らず、脊髄反射で好きなタイプを答えた虎杖の気持ちなど。やらかした。これは早急に誤解を解かねばと走り出した虎杖の狂行。常に虎杖は恋に反射で生きていた。そしてそれが今回の悲劇を生み出す。それまでにしておけよ五条悟。すぐに状況を察知した野薔薇と真希が得物を構える。


「虎杖君」
「アッ、ハイッ」
「よくわからないけれど、なんで手を握るの」
「…!!」


―――鬼か。

シンプルすぎる回答。そして的確に思春期男子に特攻するセリフ。真っ直ぐすぎる好意を向けられているはずのヨル自身が虎杖からの恋情に気付いていない事実。というか正直ヨル自身も最近「アレ、もしかして虎杖って自分のこと好きなのでは?」と思ったりしているのだが、中身は成人女性。社会にもまれた人間。決定的な言葉がなければ信じることなどできない悲しい生き物。

京都組と野薔薇によって胸倉掴み上げられた五条が見守る中、虎杖が肩を震わせながらその手を放さず、真っ赤な顔で言った。


「そ、外村の、手が、す、すき、で…」


―――握っていたい。

少しでも、なんて。ヘラッと笑う犬系男子。甘酸っぱい青春の香りを感じ取って、京都の女子陣営は立ち上がった。教員である歌姫は自分の学生時代を思い出して泣いた。こんな男子居なかった。女の子はいつだって恋バナに飢えているのだ。

しかし内心穏やかじゃないのは勿論保守派の楽巌寺。目の前でラブコメが展開されるのは百歩下がって許す。というか呪術師同士のカップルが出来るのは大歓迎だ。普通なら。正直組み合わせがまずい。そんな各々の思惑など知らぬ中央の二人。

ふっと、ヨルが笑った。虎杖がその表情にほぅっ、と見惚れる。


「虎杖君さ」
「う、うん」


何を言われるんだろう。ドキドキと、虎杖の胸が高鳴る。――が、現実がそんなに甘いわけがなかった。どこかダメな子を見る様な、可哀想な子を見る様な大人の目をしてヨルが首を振る。


「あんまりそういうの、女子にしない方がイイよ…」


勘違いしちゃうから。そっとほどかれた手。立ち去るヨル。崩れ落ちた虎杖。パタンと、扉が湿られて数秒後、濁音すら混じる声音で虎杖は叫んだ。


「し“て”よ“っ”…!!」
「どんまい悠仁!次があるよ!!」


五条の頭を最初から最後まで見ていた夏油が殴る。反省しろ。お前が原因だろう。


prev / next









夢置き場///トップページ
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -