歌を歌っていただけですけど!? | ナノ


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―――京都姉妹校交流戦 
     一日目 団体戦 “チキチキ呪霊討伐猛レース”

勝利条件:指定された区域内に放たれた二級呪霊を先に祓ったチームの勝利

区間内に三級以下の呪霊も複数放たれており、日没までに勝利が決定しなかった場合は討伐数の多いチームに軍配が上がる。


「勿論妨害行為もアリなわけだ、あくまで君たちはともに呪いに立ち向かう仲間だ。交流会は競い合う中で仲間を知り、己を知るもの…」


ギリギリ


「相手を殺したり再起不能の怪我を追わせることのない様に。以上。開始時刻の正午まで解散」


まるで何事もないかのように五条を絞め上げながら交流会の説明をする夜蛾と、少しの冷汗をかきながら学長の肩辺りを叩いて降参を告げる五条。ちなみに五条の頭の上には見事なたんこぶが乗っていた。弟子を轢かれそうになった夏油による教育的指導(別名:悟、いい加減にしろ^^)の結果である。

その様子を見ながら歌姫はそっと生徒の顔を観察し、夜蛾や五条に向かって首を傾げながら問いかけた。


「東京校、ハンデ含めて一人多いけど誰が抜けるの」


一瞬の沈黙。この問いは京都にとっては結構重要だった。スッと、彼らの目線が一番出てほしくない生徒に向けられる。そして次の瞬間。味方であるはずの女子の手によって、残っていた京都側の高専男子はその頭を地面に押さえつけられた。女子とはいえ呪術師。力はそこそこ強い。一番被害が大きいのは女性陣の中でも力の強い三輪に押さえつけられたメカ丸だろう。


うごうご。ぬるん、ぬるん。
音にすればそんな感じの光景が京都組の眼下に広がった。


足元から生える触手のようなナニカや手のような黒い影が京都側にとって一番出てほしくない生徒、外村ヨルの脚をさすり、太股に巻き付いては締め付ける。いささか青少年には刺激が強い光景。そっち系のAVでも見させられているのかと言わんばかりのアレな展開。極めつけは彼女の身体を這う細く長い蛇だろう。ぐるりと彼女の胴体を服越しに、あるいは服の中に侵入しながら巻き付いて、頭は学ランの第二ボタンから覗かせる。つまり、胸部に預けるように頭を置いていた。

これが本当の胸枕。

それなのに東京側は何も言わないし、むしろ無関心だ。いや違うか、唯一あの宿儺の器である少年だけが顔を赤くしてオロオロとヨルを見つめている。では、その被害者(?)である本人はどうだろう。そっと京都組(女子)が顔を上げれば、ただスンッと表情を落としている。ソレは一体どんな感情なのか。


「そ、外村…?」
「?」
「あ、脚とか、ってか、“黒達”のそれ、いーの…?」


いいわけねぇだろう。京都組が男も女もそう胸の内で叫ぶ。


「昔からだし、いいよ」


―――いいのかよ…!


「え、でも、あ、えっと…」


何か言いたそうに口ごもる宿儺の器を内心で応援しながら、女子に頭を下げさせられている男子は思う。ちなみに東堂はすぐその場から離脱したので、実質残っている男子は加茂とメカ丸だけだ。

さて、そんな京都の様子は何のその、“いつものように”自分の使役する彼らを遊ばせていたヨルはふと思う。高専に来て、虎杖という存在がいるときにはあまりこういったことがなかったなと。基本的、ヨルの”黒達“は歌わなければ出て来ない。強い”黒”であればあるほどソレは顕著だ。だが、己の一部を出してヨル自身に触れることはできる。なぜなら彼らは常に彼女の近くに居るから。いや、近くにいる、と言うよりは彼女の傍に行ける窓をそれぞれが所持しているに等しい。彼女の存在を常に見続けることが出来る窓を、それぞれが持っているのだ。その窓を経由して力の弱い”黒“や小さな”黒“は彼女の傍にある闇、すなわち影を通じて出入りする。力が強かったり身体が大きな”黒“にはソレが出来ないから呼び出すときは扉を用意する。

時たまにその窓をブチ開けて出てくるときはあるが…。

だからこそこの状況は別にヨルにとって驚くことじゃないし、騒ぐことでもない。

そんなヨルの思考を知るはずもなく、虎杖の特に優秀というわけでもない脳がとある結論をはじき出した。


―――い、つもの、こと…。


それはつまり、自分が呪霊を視認できなかった時代もそうなのだろうか。その時代も彼女は”黒達“に身体を―――…!!


「うぉああああああっ!!」
「!!」
「ご、ごめん外村!!、俺っ…!おれぇっ…!!」


突然大声を上げ、その場にしゃがみこんだ虎杖にヨルは肩を震わせ、驚いた”黒達“はその手(?)を影の中にひっこめた。叫んだ張本人である虎杖はその顔を可哀想なほど真っ赤に染め上げ、両手で顔を覆う。

ーーー愚策である。

闇に包まれた視界の中、浮かび上がるのは先ほど見た光景。ついで中学の服を着たヨルが授業中、触手を身体に這わせる場面。なんならいたいけな幼女であった頃のヨルすら出てきた。そして出てきたヨル全員が全身に黒い影を纏わせている。これはヤバイ。これ以上は本能的に、人間的にヤバイ。年頃の男として大変だ。


「伏黒っ!!俺を殴ってくれ!!」
「巻き込むな!」


おもわず頼りになる同級生の名前を叫べば、同じ男として何か通じるものがあったらしい伏黒は全力で虎杖に対して拒絶を突き付けた。横に居る狗巻もゆっくりと首を振ったところで虎杖の頭に衝撃が走る。


「邪魔したな」


こてん。

虎杖の頭が力なく垂れ下がって口から魂を吐き出す。虎杖を薙刀の柄で殴りつけ気絶させた張本人、禪院真希が片手を上げるとそのまま回収していった。惚れる。妹である真依は片手で胸を押さえつつ鼻を鳴らし、「あら、もう少し眺めてても良かったけど?」と煽って見せた。効果はなかったが。


「あー。いいよ。ココで無様晒しても特がねぇ。あ、そうだ。ヨル」
「はい」
「お前、見学だから悟についていけよ。お前が出ると勝負にならん」
「わかりました」


ほっと、京都組の空気が緩む。それを感じつつ、五条の隣にいる夏油の横に立った。


「出たかったかい?」
「いえ、特に」
「そう」


ならいいけど。夏油がなにか言いたそうに目を向けて、首を振る。自分が言うべきことではないと判断したらしい。

ちなみに虎杖の担任である五条はただひたすら腹を抱えて笑っていた。生徒の悲痛な叫びがツボに入ったと後に語る。



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