歌を歌っていただけですけど!? | ナノ


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―――交流会 当日―――


おはようございます。と、集合場所にたどり着いた野薔薇と一緒に二年の先輩に頭を下げた。私達の様子に、真希先輩がゆるりと片手を上げて応じる。そして野薔薇を見ると首を傾げ「会場はココだぞ」と呟いた。野薔薇の怒号が響く。




「去年勝った方の学校でやんだよ」
「勝ってんじゃねーーよ!」
「理不尽では…?」




思わずそう口に出しつつ、頭を抱えて唸る彼女の肩を叩いて、手を差し出せば野薔薇が不思議そうに私を見つめた。




「?、なによ、その手は」
「荷物、邪魔だろうから預かるよ。”黒“の中に入れておけばいいでしょ?」
「…っ、ヨルッ…!」




渡されるキャリーを足元の”黒“の中に沈めながら、出てきた子の手を握る。…。握ったはいいが離そうとしない。遊んで、もっと褒めてと幻聴が聞こえてきそうなその子のをもう一度握った。スッと、満足そうに離れていく手にほっと目を細め、手を引いた瞬間、足元の闇が一気に広がって多種多様な手のようなモノや触手みたいな何かが勢いよく飛び出てくる。野薔薇が私から距離を取り、先輩方が「おおう…」「こんぶ…」「すげーな」と呟いた。

不意に、“黒達”の手が私ではなく、違う方角に向く。なんか闇から伸ばしたその部位に目を生やした子もいる。ちょっとソレは不気味だね。しゃがみ込みながらそのうちの一つをちょんと突く。へにょへにょんと嬉しそうに揺れた。器用な子だ。




「おい、ヨル。何遊んでやがる。お前が痛い目見せた奴ら、来たぜ」
「興味ないですね」
「こらこら…」
「ツナマヨ」




そんなことよりも”黒達“を構っていた方が百倍有意義だ。そう言いながら私は、「私も私も!」と主張する”黒達“を突いた。突かれた彼らはソレはもう嬉しそうに足元の闇から出る一部を溶けさせて沈んでいく。楽しそうで何よりだ。

狗巻先輩とパンダ先輩の呆れたような声に目線だけ、京都校の生徒に流す。全員が何かを言いたげにこちらを向いていた。ああ、違うか。何か言いたいんじゃない。ありえないものを見る目でこちらを見ているんだ。というか、信じたくないものを見るようにこちらを見ている。最後に動物のような前足とハイタッチして、私はしぶしぶ立ち上がる。

とぷん。

”黒達“全員が姿を消した。
何とも言えない空気。そこにパンパンと乾いた音が響く。京都校の生徒が来た方向からの音に目を向ければ、どこか呆れたような顔をして、和服を身に纏った女性が坂の向こうから顔を出した。恐らく登ってきたのだろう。少し息が上がっている。

傷がある。大きな傷が。それでも美しいと感じる彼女の顔には呆れが浮かんでいて、さらに私の姿を視界に捉えると、思いっきりため息をつく。




「はいはい。ココで喧嘩しないの。まったくこの子らは…。はぁ。で、あの屑共は?」
「悟は遅刻だ」
「悟(クズ)が時間通りに来るわけねーだろ」
「誰も屑が五条先生のことだとは言ってませんよ」




流れる様な返答だった。不意に東京校の生徒が私を見る。




「傑(もう一人の屑)はどうしたヨル」
「あ、もしかしてクズが担当だってわからなかったか?」
「あの人、外村には綺麗な部分だけ向けようとするんで」
「何となくそんな気はしてたけど、夏油先生なら五条先生のところにいってくるって言ってたよ」




スマホの画面を見せようとしたところで真後ろから勢いのいい、何かを押して走る様な音が聞こえるとともに、ひょいっと体が浮き上がる。「えっ」と自分の声が口から洩れて、私を抱えるように出現した巨大な腕を見上げた。真っ赤なその腕はおそらく「目隠し鬼」の曲に付属する”黒“だろう。掌に私を乗せるような形で上に持ち上げた”黒“の行動の理由を測りかねていた時、集合場所に声が響く。




「おまたーーー!!って、ヨルごめーん☆轢きそうになったけど轢いてないからセーフだよね!!」
「生徒轢こうとした時点でアウトに決まってんでしょ馬鹿なの?」
「なんだよ歌姫。海外のお土産が自分の分だけないからって拗ねんなよ」
「いらねぇよ!!」




五条先生が私の居た場所に押し車を止めた瞬間、思わず巨大な腕だけを地面から生やし、私を上に逃がした”黒“に抱き着いた。ありがとう。君のおかげでケガしてないよ。下の方から歌姫と呼ばれる教員が私に向かって「アンタもなんか言ってやんなさい!」と叫ぶ。




「五条先生…」
「んー?」
「さ、最低ですね」
「僕はヨルから始めてゴミを見るような目で見られたよ」




ところで上に居たらスカートの中身見えちゃわない?前みたいに。




「今日も黒レース?」
「ブッ…!」
「なっ…!?」
「ほぅ…」
「おかか…!!」
「・・・」




東京の高専男子だけでなく京都の高専男子も”黒”の掌の上に座る私を見上げた。いっそ素直でよろしい。
唯一伏黒だけがサッと視線をアスファルトに投げたのを見て、私の目は死んだ。先生の持ってきた白い箱のような何かが抗議するようにガタガタ揺れ、歌姫先生が顔を赤く染めると五条先生に殴りかかる。それを予想していたのか、五条先生は歌姫先生の攻撃を無限で防いでいるようだった。
私は、今だ私を見上げる高校生男子に思いっきり顔を顰め、声をかけた。




「いつまで、見上げているつもりですか」




その言葉を皮切りにハッと我に返った彼らを横に居た女子が沈めた。詳しく言うなら野薔薇がトンカチでパンダ先輩を殴り、真希先輩が狗巻先輩のみぞおちに拳を叩き込む。京都組も似たような感じである。




「まあ、見上げてもスパッツを履いてるので見えませんけど」
「いやぁ、皆イイ感じに男の子だねぇ。さて、女子から制裁を受けた東京都の皆はコチラ!!」
「お前が原因だろ…」
「こ“ん“ぶ”」
「反省しろ馬鹿ども」
「むしろなんでパンダ先輩は反応した」




そっと地面に下ろされながら、私も箱の方に目を向ける。先ほどまでガタガタと動いてた割に、今はウンともスンとも言っていなかった。思わず目を細めてソレをじっと見つめた瞬間、なかなか派手な音を立てて蓋が開きーーー…。




「故人の虎杖悠仁君でぇーっす!!」
「はい!!おっぱpぐぇっ…!!??」
「ちょっ…!?”黒“!?」




言わせねぇよと言わんばかりに虎杖に対して飛び出した”黒”数体に思わず叫んだ。生きていたことを知っていたはずの”黒“がなぜ彼を攻撃しに飛び出したのか。困惑して五条先生の方に顔を向ければ、小動物系の”黒達“が、五条先生に対し、ぶつかり跳ね返りぶつかりを繰り返していた。多分”黒達”は攻撃しているつもりなのだろうが、完璧に遊ばれている。五条先生に完璧に遊ばれている。可哀相になって、思わず回収に走った。




「ちょっ、こら、雪兎と子狐…!」
「あれ、もういいの?」
「あんまり遊ばないでください。こら…!”黒“、君らも虎杖君から離れて…!!」




複数体の”黒“に押し倒された虎杖の傍によって拍手を一つ打てばたちまち”黒”は消える。しかし、消えた瞬間から私の足元に闇を生み出し、身体の一部だけを出して虎杖にちょっかいをかけているのだから笑えない。”黒“が消え、どこか呆然と私を見上げる彼を見下ろす。虎杖と目があった。彼が何かを言いかけるように口を開く。

ガンッ

虎杖が私に何かを言う前に、先ほどまで、虎杖が入っていたであろう箱を、野薔薇が蹴り上げた。驚いたように虎杖が箱から飛び出して、地面に正座する。正座した本人もなぜ自分が正座したのか分かっていないかのように目を丸くし、顔を上げた。私も顔を上げ、野薔薇たちの方を向く。




「なにか言うことあんだろ」
「えっ」




野薔薇が、グッと何かをこらえる様な顔で虎杖に吐き捨てる。

それは泣く一歩手前の顔だった。唇の内側を噛み締めて、睨みつけるように虎杖を見据え、言葉を待つ。伏黒が驚いたような、どこか困ったような顔をして視線を彷徨わせ、虎杖が野薔薇の表情を正確に読み取る。そしてちょっと涙を浮かべながら、




「生きてること、黙っててすんませんでした…。」




ほんとにな。頷く私と”黒“ついでに伏黒。袖口で涙を拭った野薔薇と私達がそれぞれ一発ずつ、虎杖の頭を軽めに叩く。おかえり、と、口には出さなかったけれど伝わっているだろう。三人の顔はどこか晴れやかで、私も少しだけ笑う。

ほんと、生きててよかった。



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