歌を歌っていただけですけど!? | ナノ


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「えっと、どちら様、でしょうか…」




”黒”を抱きしめて何とか絞り出した声。その声に片目を前髪で隠した彼と、奥の方でカレンダーを捲っていた女性がこちらを向いた。私の声に、二人はアインコンタクトを取って、私の横に女性が、ちょっと前に男の子が立つ。




「実は僕らもわかって無くて、死んだと思ったら引っ張られるような感覚がしたから…」
「そうそう、私もなんかそんな感じ」
「は、初めてのパターンだ…。というか、死んだ…?」
「うん。僕も母さんも死んでるはずだよ。ところで君…」
「?」
「そのボタンって、悠仁と同じ学校の生徒だよね?」




突然出てきた名前に思わず腰を上げかけた。最近死んだ同級生の名前。それをなぜ彼が知っているのか。そこまで考えて冷静になる。良く考えろ。任務先で仲良くなったパターンかもしれない。そこまで考え、さらに頭を回す。
彼らは今までの”黒”たちと違い、最初から人の形を取っている。付属する歌は「あめふり」だろう。そして、彼らは二体で一つの歌に付属していて、私がたった今召喚した。確認するように、私は口を開く。それは単純な疑問だ。




「いつ、虎杖君に会った?」
「−死ぬ直前まで、僕は彼の傍にいたよ」
「私は私が死ぬ数十分前に顔を合わせたね」




要領が得ない。眉を顰め、さらに質問を重ねる。




「君らが死んだのは、いつ?」
「――っ」




順平と呼ばれた彼が動揺した。反応を見る限り、おそらく死んでから彼の中でそんなに時間は経ってない。答えるべきか迷うように、彼の視線がさまよい始める。ああ、ほんと、彼らは私の”黒達“とはずいぶん違うようだ。私の”黒達“は私が聞けば何でも答えようとする。分からなければその答えを探そうとする。けれど彼らにはソレがない。

―――”黒“でありながら”黒“じゃない。

意味が分からない。眉を顰め、少しだけ言葉を強めた。




「言い方を変える。“お前たちが死んだのは何日前?”」




指が動いた。別に難しい質問じゃないはずだ。少なくとも、彼にとっては。

居心地が悪そうに腰を引かせる彼には悪いけれど、逃がすわけにもいかない。というか、逃がすなと本能が強く訴えている。不意に、横の女性が大きく体を縦に伸ばしながら言った。




「なぁに言いにくそうにしてんのよ、順平。この子にとってこの質問は意義があるモノなんじゃない?そうでしょう?」
「そう、ですね。私の中では。少なくとも」
「なら答えてあげなきゃ。私が死んだのは今年の九月上旬くらいよ。アルコール入ってたから正確な日付は覚えてないけど」
「九月の上旬??」




今年…??しかも九月…??

スンッと、私ではなく“黒達”の気配が静まったような気配。思わず足元を見た。普通に影がある。いつものような異変はない。
彼らが死んだ日付を聞き出し、その日あった特徴的な呪術関連の事件を先生に聞こうと思っていた私にとって、その情報は思った以上に衝撃が強かった。




「そ、うだよね。ごめん。警戒して。僕が死んだのは母さんが死んでから数日後なんだ」
「え!?そうなの?」
「うん…。」
「はー…。親子そろって何が起こったのかしら。ねえ、君知ってる?」




あ、私名前知らないわ。名前何?

やけにフレンドリーに話しかける女性に向けて曖昧に笑って見せる。話せば話すほど普通の人間にしか見えない。




「外村ヨルです。男の子は順平君ですよね。貴方は?」
「吉野凪よ。よろしく」




何処から取り出したのか分からない煙草に火をつけて笑う凪さんに、とりあえず今の現状を説明しようと口を開きかければ、肩が叩かれた。後ろを振り向く。七子がいる。珍しい。歌を歌っていないのに出てくるなんて。




「私たちが説明する。だからヨルは五条悟に確認すればいい」




次の瞬間、二人の足元からグルリとタコの足のようなモノが這い出て、拘束する。

とぷん

二人と私が悲鳴を上げる暇すらなく、闇の中に落ちていった彼らに思わず困惑に満ちた声を零した。




「えええ…」




と、とりあえず…。と、震える右手で何をトチ狂ったのか五条先生に電話した。いつもの私なら夏油先生一択だっただろう。数秒のコールの後に、五条先生がどこか楽しそうな声音で電話を取る。




『もしもーし。あ、ヨル珍しいね!!どうしたの〜??』




アマテラスごっこはもういいの?なんて、人の心の傷抉る様な言葉に思わず通話ボタンを切りかけた。この人マジで性格悪いな。なんて。今更なことを思いながら電話越しに問いかける。




「せんせい」
『あれ?流された??』
「虎杖君、生きてるって聞いたんですけど」
『ええ〜?どういうこと〜?』




どこかすっとぼける様な先生の声。
まあ、生きてる事実を隠してるわけだし、そんな反応するよね。自分でも驚くほど冷静に物事を考えながら、先ほどあったことを電話越しに説明してみせる。途中まで肯定も否定もしなかった先生が黙り、少しの沈黙。もうソレが答えなんじゃないかと呆れながら先生の答えを待った。そして確信する。虎杖は生きてる、と。

時間にしてみればおそらく数秒。

スーッと息を吸い込む様な音。




『ヨルのソレ、ズルくない?』
「私が一番びっくりしてますよ」




そもそも「あめふり」は、今まで歌っても呪霊が宿ることがなかった、呪霊を付属させることが出来なかった歌だ。その事実を思い出しながら、下を向く。

…私は、自分の能力について知らないことが多すぎる。

自分でも自覚するほど深すぎるため息が口から勝手に出ていく。
そんな私の様子に何を思ったのか五条先生が、「これ、恵たちには内緒ね」と、前置きを置き、虎杖の状況を説明した。正直滅茶苦茶だなと思ったし、五条先生にもそうぼやいたが、彼はちょっと間を置いて、「君も人のこと言えないけどね」と言う。




『思ったより、ヨルは冷静だよね』
「後から来るタイプなんです」
『そっかぁ。傑もなんかそんなこと言ってたな』




あんまり無理はしないように。なんて教師らしいことを言って電話を切られた。そしてふと思う




「夏油先生に、連絡すればよかったな」



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