歌を歌っていただけですけど!? | ナノ


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「交流戦?そういえば言ってなかったね」
「ですよね」




聞いてませんもん。本日、五杯目のラーメンを啜りながら、私は夏油先生に目を向けた。七杯目ラーメンにニンニクを潰しながら入れる夏油先生は「ははは」と笑ってごまかそうとしたが、誤魔化されるわけにも言わず、ジトっとした目で見つめる。




「まあ、ヨルには関係なかったしね…」
「そうなんですか?」
「そうそう。人数的に溢れてたし、参加が決まってたのは恵と野薔薇の方だったから。まあ、来年に向けて見学くらいはしたさ。仮にもまだヨルは四級だからね」




そっと寄せられた餃子を一つ貰いつつ、そんなものかと首を傾げる。




「私としては君が四級からスタートというのは少々物申したいけれどね。上は君に上がってきてほしくないんだろう。階級が高くなればなるほど上層部に物申せるようになる。大人っていうのは汚いねぇ」
「え、ご自分のことですか?」
「ははは、コラコラ」




にこにこと笑っているはずなのに笑っていない。思わず「すみません」と口にすればもう一つ餃子を皿の上に置かれる。それを迷わず口に含みながら、ふと、虎杖のことを思いだした。


私達がこの高専に編入して、一か月が経つ。この一か月、私は夏油先生の元で修行ばかりだったから彼と話すことはほとんどなかった。だけど…。




『おかえり外村!任務お疲れ!』
『ケガしてないでしょうね?』
『コレ、休んでた分の授業内容』




帰還した私に、伏黒や野薔薇と一緒に声をかけてくれる姿を思い出し、箸を止めた。

―――もう、その声を聞くことがなくなるのか…。

不意に、そんな、なんとも言えないような感情が零れる。

『納得のいく死なんて迎えられない』

夏油先生や五条先生にそう言われていたのを唐突に思い出した。虎杖は、納得して死ねたんだろうか。ああ、そうだ、彼は死んだのか。昨日、夏油先生から伝えられた時はあまり現実味がなくて、何となく他人事だった。でも、今日、教室に入って、野薔薇たちを視界に入れて、ようやく実感した。そう、もう、いないんだと。

…寂しいと思う。なんだか、鼻の奥がツンとした。死んだと聞かされた時、平気だったくせに。普通に眠れたくせに。今になって、なんだかよくわからない感情があふれ出す。

スープの中に沈んだ麺を箸で救い上げ、口元に運び、喉奥に流し込む。味がしない。さっきまでおいしかったはずなのに、味がしない。

そっと、頭を撫でられた。右上から、夏油先生の声が落ちてくる。




「薄情だと思ったけど、ヨルは、後から来るタイプなんだろうね」
「そう、なんでしょうか…」
「そうじゃなかったら食事中に泣かないだろう?」
「ニンニクがキツかったのかも…」
「君がニンニクを入れたのは二杯目だろうに」




ポロポロと零れる涙に変な感じがする。”黒達“が見えないのを良いことに、私の頬や髪や手を撫でた。足元から伸びる手だなんて、なんだか不気味だ。そのはずなのに涙はますます溢れてくる。今日は、美味しく食事が出来そうになかった。ぐすっと、鼻が鳴る。




「今日は帰ろうか。帰り道に美味しい饅頭屋がある。そこで何か買って、恵たちと分けるといい」




手を引かれる。会計をして、夏油先生のいう饅頭屋に寄って、私はそのまま帰路に着いた。









「もしもし、悟?」
『え?何何?なんで傑そんなに怒ってるの??』
「今から悠仁と君を一発ずつ殴りに行ってもいいかな?」
『やだよ!!』『俺ぇ!?』


事の経緯を聞いた五条が無限を解除した状態でしっかり殴られ、免除されたはずの虎杖は自分からボディーブローをキメられに行った。



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