歌を歌っていただけですけど!? | ナノ


▼ 3

教室の窓を開ける。誰もいない。とぷんと、任務帰りにようやく自由に出てきてもいいとお許しを貰った”黒“の一体が私の足に巻き付いた。蛇のような姿をしたその”黒“の頭を撫でる。満足そうに舌をチロチロと出して”黒”は外の方に首を向けた。

私も”黒”の視線を追うようにして外に目を向ければ、遠めに二人の姿が見えてた。もう一度”黒”を撫で、そちらに足を向ける




「野薔薇、伏黒君」




ようやくたどり着いたその場所で、私はどこか泣いてしまいそうな二人に声をかけた。私の声に、野薔薇と伏黒が驚いたようにこちらを見つめ、なんとも言えない表情を浮かべた。泣き出しそうな、何か言いたそうな、けれど何も言えない自分に困っているような、そんな表情。その顔にちょっとだけ困ったように笑って、二人の間に腰を下ろす。少し図々しいかな。なんて考えながら、「ただいま」と二人に声かけた。

静かな沈黙。気まずそうな空気。私は何も口を開かず“黒”をつつく。少し擽ったそうに身をくねらせ、”黒“がとぷんとどこかに消えた。




「アンタ、聞いてないの?」
「…聞いたよ、夏油先生に。虎杖君のこと。」
「…そう」




悔しそうに、何かをこらえるように、野薔薇が唇を噛み、目を強く閉じた。
私は石造りの階段に視線を落とす。蝉の声がうるさい。隣にいる伏黒は何も言わず、ただどこか遠くを見つめ、何かを考えているようだった。


















どれくらい、そうしていただろうか。
沈黙を貫いていた伏黒が唐突に口を開く。誰に言うでもなく、でも、私達に言うように言葉を紡ぐ。




「暑いな」




空気を変えるように、変えたいかのように、下手くそすぎるソレに、私はちょっとだけ笑う。野薔薇が目を伏せた。鳴り響く蝉の泣き声にかき消されそうな声。それでも彼女は答える




「…そうね、夏服は、まだかしら」




その問いに、私も伏黒も答えなかった。答えなかったから、野薔薇も黙って蝉の声に耳を傾ける。
不意に、誰かが近寄ってくる気配に私は顔を上げた。私の動作につられるように横の二人も顔を上げる。




「なんだ、いつにもまして辛気臭いな。恵。お通夜かよ」




ざわりと、“黒達”が殺気立つような気配。まるで何も知らないお前が言うなと言わんばかりの感情。それを踵を鳴らすことで落ち着かせる。落ち着かせはしたが、”黒達”は影の中で私たちに声をかけた眼鏡の女性を見つめていた。まるで機会を伺うような”黒達”の行動に眉を下げる。

困ったな。こんなところで揉め事はあまり起こしたくないのだけれど…。




「禪院先輩。」




伏黒の声が横から聞こえ、禪院先輩と言われた女性の眉が跳ね上がる。そして少し顔を歪め、反論した。




「私を苗字でよぶんじゃぁー…」
「真希!真希…!!」
「あん?」




何かをいいかけた彼女を、誰かが呼び止める。後ろを振り返った先輩の視線の先に、大木からこちらをのぞき込むパンダ。

…?…なぜパンダ??

疑問を浮かべる私をよそに、パンダの手前にいた男子生徒がじっとこちらを眺めている。現実離れした光景に思わず伏黒を見たが、彼は何も言わず、慣れたようにそちらを見つめていた。パンダが禪院先輩に向けて話す。




「マジで死んでるんですよ!昨日!!一年坊が一人!!」
「おかか…」




先ほどまでとっつきにくい雰囲気を出していた彼女の空気ががらりと変わり、まるで引き攣る様な声音で彼女は汗をダラダラと流しながら、彼らに向けて一言一言、言葉に力を込めて吐き捨てた。




「は や く い え や !!!これじゃ私が血も涙もねぇ鬼みてぇだろ!!」
「実際そんな感じだぞ!?」
「ツナマヨ」
「なかなか、にぎやかな先輩たちだね…」
「ああ、まあ、そうだな」




ぎゃーぎゃーと一年放り出して騒ぎだした彼らの様子に思わず口を開けば、すぐさま返答が飛んでくる。野薔薇が私の膝に腕をかけながら伏黒に「何あれ?」と聞いた。
伏黒がどこか疲れたような顔で、先輩たちの説明を私たちに行う。彼の言葉をBGMに、私は野薔薇の髪に触れた。振り払われることはない。


伏黒の説明がひと段落したところで、次は二年の三人が私達の方向くと、どこか気まずげな禪院真希先輩が口を開いた。



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