歌を歌っていただけですけど!? | ナノ


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「美味しい…!」
「ふむ。コレはなかなか…」




お口の中に広がる幸せの味…。そんな声が聞こえてきそうなほど、幸せそうな顔をして食事をする二人の男女。その二人組を店内の人間はありえないものを見る様な目で見つめた。横に積み重なる大量の皿皿皿。たっぱの大きな男の方ならともかく、平均的な身長をしている少女、外村ヨルの身体のどこにその量が入るのか…。食事を摂る二人の箸使いは非常に巧みで、幼少期に施されたであろう親の努力が滲み出る。その事実がさらに人目を引いた。

そんな男女二人、一見兄妹のような二人が食べている料理、それはこの店のチャレンジメニューである。任務が終わり、小腹が空いたとぼやく二人が街を歩いているときに見つけた、地元で愛されるお好み焼き店。何気なく暖簾をくぐった二人を待ち構えていたのは『負け知らずのデカ盛り鉄板焼き!!』といった力強い文字。その横に掛かれているルールは以下の通りだった。

・二人まで同時に挑戦可能
・30分以内に食べ切れれば一人五千円。二人で一万円を贈呈!
・食べきれなければ一万円支払い

という文字。小腹が空いていた二人は丁度二人だという事もあって、チャレンジメニューを注文した。

…さて、最初っから目を通している画面前の皆様にはもう何となく落ちが見えているだろう。そう、横に積み重なる『大量の皿』。すべてチャレンジメニューの皿である。小腹が空いたとはいったい何だったのか。はたまた『負け知らずのデカ盛り鉄板焼き』とは彼らにとっては何だったのか。おそらく餃子一個くらいの感覚なのかもしれない。彼らは(胃袋が)狂っている。

もぐもぐと幸せそうに食べる姿が腹立だしい。普通の人間なら腹がはち切れてるに違いない。ただでさえ一枚目をきっちり10分で食べ終わったとき、初めての敗北を経験した店主は真っ白に燃え尽きたのだ。そんな店主に追い打ちをかけるようにして、二人はどこか楽し気に目を輝かせて言い放った「後10枚」――と。それ以降彼らはずっと食べ続けている。小腹とは一体何だったのか。皿が15枚目を突破する。




「もうっ、もう勘弁してくださいっ…!!」




店主は気絶。副店長が泣きながら二人に土下座した。もはやパワハラである。けれど二人は別に土下座をしてほしいとか思ってなかった。純粋にコスパがいいのが『負け知らずのデカ盛り鉄板焼き』だっただけである。慌てたようにヨルが駆け寄ってその肩を撫でたが逆効果。副店長の心が折れた音を聞いた他の店員に金を握らされ、二人は店から追い出されてしまう。出禁になった瞬間であったのは言うまでもない。




「あと、五枚はイケましたね」
「そうだね。…ヨル」
「はい?」
「軍資金も手に入ったことだし、何より任務成功で懐もあったかい。ケーキでも食べに行こうか」
「えっ…!」




勿論喜色に溢れた「えっ…!」である。ぱぁっと輝いた弟子の顔に傑は「奢ろう」と決意した。何気に初めての弟子、可愛くないはずがない。しかも自分と同じくらい燃費の悪い子である。これで良く今まで生きて来れたなと感心してしまった。彼女を育てた親御さんには感心するばかりだ。ちなみに彼女が高専に編入するとなったとき、彼女の両親はまず、娘の身を心配した。そして次に娘の胃袋を満足させるレベルで大量に食事を食べさせることが出来るのかと心配した。仕方ない。燃費が悪いのだから。




「どこに行きたい?おすすめはあるかな?私はこういうのに疎くてね…」
「わ、私も疎いんですけど…。あ、あのお店とかどうですか?落ち着いた雰囲気の…」
「ではあそこに」




カランと、どこか涼やかな音色をたてて彼らは喫茶店に入った。



―――――――――――――――
〇チャレンジメニュー始めました
・挑戦者一名
・デカ盛りパフェ(10人前)
・30分以内完食のお客様に限り
 景品贈呈
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―――その日、その地域周辺の店舗はことごとくチャレンジメニューを改案、または取り下げという措置を取ることとなるのだが、それはまた、別の話である。




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