歌を歌っていただけですけど!? | ナノ


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頬の熱が冷めるころには四人目の生徒、釘崎野薔薇も合流し、私達は明らかに幽霊でも出そうな建物の前に立っていた。勝手に出てきた”黒”が食べるの?食べるの?と私の足元を走り回っている。保健室での一件以来、私の近くには最低でも二体の”黒達”が姿を現すようになった。最初は困惑していた私だが、”黒達”の必死の説得に受け入れざる得なくて、ココまでの道中、それを五条先生たちに説明すれば、彼らは二つ返事で了解と告げる。

最初、何も知らされていなかった野薔薇や伏黒が祓いかけたのは少しだけ驚いたけれど、話せば「まあ、そんなこともあるわよね。あ、私のことは野薔薇でいいわよ」と理解を示してくれて安心する。

私の足元で遊び始めた黒達の頭をそっと撫でつつ、五条先生の指示を聞いた。どうやら野薔薇と虎杖が二人でこの建物の中に入り、呪霊を祓ってくるという授業らしい。野薔薇が「ヨルはいいの?」と五条先生に聞く。



「ああ、ヨルはいいんだ。この中で一番規格外だし。あ、でも野薔薇、勘違いしないようにね、ヨルは今から傑と二人で課外授業だよ」
「え、二人…?」



虎杖の顔がぐりんとこちらを向いた。なんだか捨てられた仔犬みたいな表情浮かべている。なんだろう



「そう、二人。というか傑とヨルの術式は似てるからね。任務とか課外授業系は基本傑がヨル担当なの」



適材適所って奴だね。真面目そうな顔で頷きつつそう言い放った五条先生に夏油先生が笑った。そして私の横から移動し、虎杖の方へ行くと、何かを耳打ちする。その瞬間、虎杖が野薔薇の腕を掴んだ。え、どうしたどうした。女の子はもう少し優しく…!廃墟の建物に消えていく二人の背中を眺め、何が起きたかわからずに私は夏油先生の方を向く。私の視線を受けて夏油先生がにっこりと笑った。




「なんてことはないよ。私はただ、君らが呪霊を祓う時間が長くなれば長くなるほど、私がヨルに呪術を教える時間が増えるとだけ教えただけさ。さ、ヨル、こちらに、悠仁たちが帰ってくるまでの間、特定の呪霊をすぐに呼び出す特訓をしよう」



こっちこっちと手招きする夏油先生に近づけば、五条先生と伏黒の前に立たされる。え、ここでやるの?てっきり別の場所に移動するのかと思ったんだけど…。本日何度目かわからない困惑を見せる私をよそに、五条先生が夏油先生に絡みに行った。端から見てもそこそこの力で夏油先生の肩を叩く。



「傑〜。生徒揶揄うもんじゃないって〜。性格悪ぅ〜」
「ははは、悟ほどじゃないさ」
「え〜?」



スッと、私の授業をよそに戦闘態勢に入る大人、もとい教師二人。とりあえず空気を変えなければと私は手を上げた。



「特定の呪霊を呼び出すことならできますよ」
「おや。」
「五条先生には見せたと思います」
「ああ、アレね」



拍手を一つ。拍手を二つ。拍手を三つ。何気なく叩く。呪霊は出て来ない。出てくるような指示を出しながら叩いていないからだ。拍手の意味が分かっていないのか、不思議そうにこちらを見つめる三人に目をやって、次は出てくるような指示を出しながら私は拍手を三回叩き、口を開いた。三回の拍手は他の拍手よりも力の弱い呪霊が召喚される。その分数は多いけど指定する文字数は少なくていい。とりあえず一通りすべて見せるべきだと判断し、目を伏せた。



「レクイエム」



ズルリと闇の中から小さな丸い靄のような何かが飛び出し、消える。



次に拍手を二つ。



「これより歌うは『亡くなった子供』の歌、『シャボン玉』」



私の周りに無数の球体が浮かぶ。それはふわふわと上へ上へと昇り、はじけ、黒い雨を降らせ、誰かに当たる前に空気に溶けた。



最後に拍手を一つ。



「これより歌うは遊ぶ童の様子を模す様に見せたーー人売りの歌、『はないちもんめ』。」



一際大きく私の足元に闇が広がった。けれどそれをもう一度拍手を叩くことによって強制的に閉じる。不満そうな気配が足元から零れたが、それに肩をすくませて見せれば仕方ないと言うように薄れていった。

不意に夏油先生が「なるほど」と頷く



「そこらへんは完璧なんだね。口上は縛り?」
「いえ、口上は指定です。本当に強い子以外なら拍手三回、拍手二回、拍手一回でそれぞれのカテゴリーに分類された子たちが出てきます」
「すごいな。想像以上だ。」



よしよしと猫でも可愛がるように頭を撫で、私の手に飴を転がした夏油先生はゆっくりと目を細めた。



「うん、ヨルはしばらく術式禁止」
「!!!」



私よりも私の周りにいた”黒”の方が明らかにショックを受けたようなリアクションをして見せたのは言うまでもないと思う。

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