呪術師×特級仮想呪霊 | ナノ


▼ 1

 五条悟の家、五条家は昔から真珠が打ち上げられる不思議な海岸を保有している。その海は五条家の当主が毎月、花を捧げる決まりとなっていた。その話を聞いたとき、古臭いものが嫌いな五条悟は顔を顰め、実の親に苦言を申したほどだ。いつもならば五条の我儘を聞く両親も重鎮もその苦言だけは良しとしなかった。

 それは当主になった今でもそうだった。五条は当主となった今日。その海岸に家の庭で取れた花を投げ込む。昔、遠目で父が海に花を捧げるとき深々と頭を下げていたが、五条はソレをしなかった。する必要も感じなかった。どうせ海岸にいるのは自分一人なのだ。


「今代の当主は、随分と乱暴者だね」


 不意に、耳に届いた声に顔を上げる。女がいた。太陽に輝く海と空の色の尾をもつ美しい女がにんまりと、どこかうれしさを隠しきれないと言わんばかりに笑みを浮かべ、十数メートルも離れた岩に頬杖をついてこちらを見ていた。
 ここに女がいる衝撃よりさらに大きな事実を、五条の優秀な六眼が女の正体を五条に告げる。
 

「は…?呪霊…?」
「そう、呪霊。それも君がいま、花を捧げた相手。」


 それはつまり、五条家は数百年の間、呪霊相手に花捧げてきたって事だよな…?思わず顔を顰めてしまった五条に人魚は笑った。どうしてか、その笑みを見ると胸が痛む気がして五条は顔をそむけたが、人魚はまるで気にしていないように海の中へと波紋を広げ、沈む。
 思わず「あっ」と五条が声を出せば、数十秒後には顔を出して、先ほどよりも近い距離で五条を見ていた。その腕の中には色とりどりの宝石を抱いている。
 何がしたいのかと五条が訝し気に人魚を見つめれば、人魚は五条に似た青い瞳をキラキラと輝かせ口を開く。


「ねぇねぇ!君さ、呪術師でしょ?アイツの子孫なら!」
「あ?そうだけど、って、呪霊が俺に気安く声を―――」
「僕を殺してよ!お仕事でしょ?」
「あ”ぁ”ん??」


 思わぬ言葉に思わず柄が悪くなった。そんな五条を気にいた様子も無く、目の前の人魚はにこにこと笑って、腕の中にあった宝石や真珠を五条の頭上に向けて投げつけた。頭の上から落ちてくる石。言い方を変えれば宝石。幸か不幸か、すでに無限術式を身に纏えるようになった五条には痛くも痒くもない。でも一言申し上げなければ気が済まない


「おまっ!!石投げつけるとか正気かよ!?あぶねーだ、ろ…」


 そう、幸か不幸か。いや、まぎれもなく不幸なのことのなのだが、五条はその光景に目を奪われる。花吹雪のように落ちる宝石が太陽の光を受けて輝き、その隙間から見える、無邪気な笑みを浮かべた美しい人魚。この瞬間。最強と名高い五条悟は、本来倒すべきである特級仮想呪霊に恋をした。

 愛おしそうに細められる水色の瞳。
 楽し気に揺れる空と海の色をした尾鰭
 日の光受けて輝く白い肌に
 珊瑚の色をした愛らしい爪。

 人魚を構成するすべてが五条を惹き付けてやまなかった。そんなこと知らずに人魚が笑う



「ね、ね、ねっ!これだけあれば足りる?人間ってお金や宝石で仕事をしてくれるんでしょ??僕数百年間頑張って貯めたんだよ!これで殺してくれ…ふぎゃっ…!?」



 憎たらしいほど無邪気に人魚がその目をキラキラさせ言い募るのに殺意を覚えた。殺す気のない方の殺意である。思わず人魚のいる海の上に移動してその空っぽそうな頭を鷲掴んだ。色気など欠片も無いような声で小さな悲鳴を上げる人魚の頭に割と軽めかつ痛みを与える感じで力を入れれば、その細い手で抵抗をする。



「い、いったい〜〜!これ死ぬ!死んじゃわないぼく!?い、いや死にたいんだけど!!死にたいんだけどさ!!いたいのヤダな〜、なぁんて…あ”―っ!!力、力こめないで!ごめんなさいいっ〜〜〜!」
「どこの世界に自分から金詰んで殺してくれと強請る呪霊がいんだよ!」
「ここにいまー、あ”−−ッ!ごめんなさいごめんなさい!!いたいの嫌ですーーーっ!!」


 ぱちゃんぱちゃん。
 美しい尾鰭が水面から出て暴れるようにうねる。勿論無限を持つ五条には水が跳ねても届くことはないので、気にしなかった。

prev / next









夢置き場///トップページ
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -