転生者を送り続けてたらしばかれた | ナノ


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「はい、ここが棗の寮室ね。」
「神域持ってくるのは有りか?」
「え、無しだよ何言ってるの」


 そんなことしたら結界が反応してアラームが鳴るからね。なんて説明するのさ。そう言った男は部屋の端に置かれた俺の寝床に腰を下ろす。部屋に目を通した限り座敷の俺の部屋位の大きさか。まあ、人間が住む分には申し分ない広さなんだろうな。寝床と、机と、棚。床は木でできていて落ち着かない。


「畳が欲しい…」
「流石日本の神様」
「正確には日本地区担当ってだけで日本ってわけじゃ…」


 いやでも、そうなのか?首を傾げ、壁と一体化していたらしいクローゼットに手をかけ、そっと開けばハンガーにぶら下がる服。なんだこれ


「あ、ソレ棗の制服ね」
「制服…」
「ちなみに袈裟じゃないよ。軍服をもとにした学ラン。かっこいいでしょ」
「身に着けることが出来れば何でもいい」
「女物でも?」
「…」


 そこまで何かを捨てさせるような返答が出てくるのは予想外で、思わず口を閉ざす。振り返らずともわかった、今、五条はさぞかし楽しそうに笑っているだろう。癪だった。


「…マント?」


 クローゼットの制服に触れている最中で、肩にかかっているような布にそう零せば、後ろからもはや爆笑に近い笑い声。口に出さなければ良かったと後悔しながら、後ろを振り向いた

 予想通りの言うべきか、男が腹を抱えて笑っている。楽しそうで何よりだ。でも殺意しか沸かない。俺の沸点が低いのか、この男自身の煽り性能が高いのか。どちらかなどは別に気にしないが、あまり笑われているのは気分が良くなくて、舌打ちを零す。


「制作陣営最高っ…!本当に付けたんだマント…!本当に付けたんだwwww」


 これもこいつの注文だったか。呆れを通り越して諦めに近い感情。口元を押さえながら、着てみてよと言う五条に顔を顰めて見せながらスルリと袈裟を脱ぐ。身に着けるとき少々時間を取られる七条袈裟だが、脱ぐときはほぼ適当だ。畳み方は知らない。いつも兎がどうにかしていたし。
 そのまま空衣(うつぼ)に手をかけて足元に落とすと、長襦袢の紐を解いて、ふと気づく。


「五条。お前、部屋から出ろ」
「えーっ」
「何が、えーっ、だ。男の着替えを除く趣味でもあんのか」
「神様細いね」
「話を逸らすなアホ」


 首だけを後ろに向けて、思わず前を直す。男に見られながら着替える趣味は持ち合わせていない。


「棗って下着どんなのつけてるの?ふんどし?」
「生徒になるであろう男にセクハラとは良い度胸だな五条。ふんどしなんぞ数千年履いたことないわ。童(わらべ)の頃は、身に着けていたが…」


 少し言い辛く、目を背けてそう言葉を零し、指を鳴らした。そうすれば服装が長襦袢からクローゼットに吊るされていた服装へと変わる。本来は着替えごときで神力を使うことはない。けれど今回は別だ。何を言ってもこの男は部屋を出ていかないだろう。さすがにそこまで羞恥心を捨てることはできなかった。


「えっ、今のどうしたの!?」
「誰が教えるか。ったく。人の着替え覗こうとしやがって」


 驚いたように目を隠していた布を押し上げ、俺を凝視する男にそう吐き捨てた。適当に神域と繋げ、脱いだ袈裟と長襦袢等を押し込む。流石に俺一人が通れるほど神域の入り口を広げることはできない。たかが数十センチ開いただけで、刺すような視線が部屋中から俺に流される。おそらく結界を維持している誰かが異変を感じて俺を見ているのだろう。
 制服の襟元を直し、袖口のボタンを締め、俺はクローゼットに背中を付ける。と目の前の男に問い掛ける



「で、だ。五条。ここに数人いるみたいだな。問題事(転生者)。片付けなくていいのか?」
「無害なのもあるからね。見るだけで充分とか、ただ救いたいとか。まあ、実害があるのもあるから、それはどうにかしてほしいかな。」
「ふーん。じゃあ、どうにかしに行こう。」


 困っている人間がいるのなら、問題は早めに片付けるに限る。そうだろう?同意を求めるようににっこりと笑みを浮かべて見せ、俺は五条にそう言った。それに、現来神とは困った人間に求められれは弱い生き物。それはもちろん俺も同じこと。


「五条、先に言っておくがその鎖がある限り俺はお前に逆らわない。でもーー」


 俺の寝床に座る男に近づいて上から見下ろし、顔を近づけ、耳元で囁いた


「乞われ願われ傅くなれば、俺は俺の好む人間の願いを叶えるぞ。性分だ。たとえそれがお前の望むことでもなかったとしても」


 ソレが神の特権という物だろ?顔を上げ、得意げに微笑んで見せた。そうすれば五条が楽し気に喉を鳴らし、俺の首に巻き付いた鎖(チョーカー)に指を差し込んでから自分の方へと引き寄せる。下手すれば唇すら当たりそうな距離。視線が絡み、五条が口を開く。


「俺の意に沿わないときは、繋がった鎖で縛ってあげるよ。棗。俺も鬼じゃない。いろんなことを許してあげる。ある程度、自由にさせてあげる。その薄い唇で生意気な言葉を紡ぐのも、どこまでも傲慢に、どこまでも高潔に輝く目で俺を見下すのも、細い手足で俺の手を払うことも赦してあげる。でもね、−−逃げることだけは赦さない。それだけは覚えておいて」


 ゾッとした。その気迫に、その言葉に、その目に。思わず後ろに下がろうと身を引けば、するりと鎖(チョーカー)から指が抜け、その代わりに鎖が伸びる様な振動と音が聞こえてそれ以上後ろには行けなかった。


「言ったろ。逃げることだけは許さないって。−−でも僕はやさしいからね。今日はココまででいいよ」


 握られた鎖からゆっくりと指が離れ、空気に溶ける。それと同時に感じていた圧迫感が消えて、思わず床に座り込んだ。
 頭部に感じる手の感触。頭を撫でられているのだと気付くのに時間はかからない。


「さ、学内を案内するよ。問題事(転生者)はその時に観察しようか、棗」
「−−わか、っ、た」
「うん」


良い子。

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