PTAが怖いんだっ…! | ナノ


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「ルイス先生今お時間ありますかな?」
「申し訳ありませんゼフェルさん。今から期末テストの採点なんです」



「ルイス先生実は家内からあなた宛てに手紙を預かっておりまして」
「個人的なお付き合いは誤解を生むので手紙等は受け付けていないんです」



「おおルイス先生。今日も美しいですなぁ。グレートセブンの一角を担う王妃すら、貴方の美しさには眉を顰めることでしょうねぇ」
「そんなことはありません。かの王妃の方が美しいに決まっています」



「ルイス先生」
「ルイス先生」
「ルイス先生」






「な、な、な、なんにあの豚野郎…!」
「いやぁー、ルイス先生良くブチギレないよなぁ」
「ルイス先生だからな。怒るという発想がないのかもしれないぞ」




横のエースと後ろにいるデュースに対しそれはないという否定を飲み込んで、私は横目でルイス先生に絡むダルマのような男に目をやった。PTAからの監視ということもあってルイス先生も下手に出れないのだろう。授業の邪魔だというのに一々先生の言葉を遮って聞くに堪えないような言葉を贈る。横にいるエペルが顔を顰めて教科書から顔を上げないのは遠回しにポムフィオーレ寮のモチーフにもなった美しさの象徴である王妃を馬鹿にされたからだろうなとあたりを付けた。珍しく合同授業だというのにこれでは数学の内容も耳に入らない。




「ゼフェルさん授業中ですので、できればお静かに…」
「なぁに、数学など大人になれば使われなくなるものです。それよりもルイス先生、我が息子が是非先生とディナーを共にしたいと口にしましてな」




あ、アイツっ…!!先生の担当教科が数学とわかったうえで…!!!

エースやグリムすら顔を顰めて男を睨んだ。仮にも自分たちが受けている授業を必要ないと宣いまるで無駄だと言わんばかりの口振り。何様だというのか。チラリと先生の瞳がこちらを向いた。そして男に一言何かを言うとこちらを見る




「今日の授業はここまで。始まったばかりなのにごめんね。教科書の58ページにある問題3を宿題にするからできる範囲で解いておいで。わからなかったところは次週に」




いつもなら我先にと帰ろうとする生徒たちが何か言いたげにルイス先生を見た。すると横から良く通る声が発せられる




「せんせーい。俺、授業もう少し受けたいんですけどー。そのオッサンのせいでぜんっぜん内容頭に入ってないんだわ」
「僕もですルイス先生。そもそも授業中に中断させるなんて…」
「はいはいはいっ!私もです先生!!」




良い事言ったエース!!胸の内でエースに感謝しながら私とエペルが言い募る。その過程で先生と目があった。空色の瞳が驚いたように瞬いて、次の瞬間面白い物を見たというように細められると、頬を赤く染め上げて笑った。それが合図だったかのように1年全員が授業の続行を望むと言葉を放つ。あ、相変わらず人心掌握がお上手ですねセンセイ…。




「と、いうことですのでゼフェルさん。僕は授業を続行しようと思います。教師として生徒に望まれる。これほどうれしいことも無いんです。だから、お食事は出来そうにありません」




授業は絶対夕食の時間までには終わるだろうにここぞとばかりに断った。先生素敵です。うっとりと先生を眺め、胸を高鳴らせていた時、横にいたエペルがなぜか肩を震わせた。




「どうしたのエペル君」
「あっ…、監督生サン。ううん。なんだからあの人と目があった気がして…。」




目が…?エペルの肩に触れつつ私もそっと目線を上げれば確かにあのダルマのような体系をした男と目が合う。エースに目をやってもエースはエースでデュースと喋っているせいか気づいていない。

何処かねっとりとした気色の悪い視線。そんな視線を残したまま男はヘラヘラ笑い教室から出て行った。


―――授業終―――


ルイス先生は授業のチャイムが終わるとともに授業を止めて「今日はありがとうね。みんなに五点ずつあげちゃう」とウィンクを私たち生徒に向けて放ち数多の死者を出した後、何事もなかったかのように教室から出て行った。なんでそんなことするんですか先生。うっかりときめいちゃったじゃないですか‥!!

ドッドッドッドッドッとせわしなく動く心臓を服の上から抑え込んで私はエペルに声をかけた。少し青ざめているように見えた顔色は戻っていて、とりあえずホッとする。




「エペル。一緒に鏡舎まで行かない?」
「監督生サン…。うん。」




じゃあ決まりだね。立ち上がり教科書をカバンに詰め込んでグリムに声をかけようとしたがグリムの姿がない。どこに行ってしまったんだろう。まあ夕飯の時間には帰ってくるかな。部活があるらしいエースたちは先に教室から飛び出していってしまった。

エペルが鞄を手に取って両腕で抱える。う“っ、女子力が…!!

男物の服を身に纏っているとはいえ心にクるものがあるなぁ。こう、さまざまと女子力の差を男の子に見せつけられると。一人勝手に傷ついてエペルの横に並べば不思議そうにこちらをのぞき込まれた。ごめん、エペルは悪くないんだ。廊下を出て近道だと教わった人気のない場所を歩くと不意にエペルが歩くのを止めた。それに習って私も足を止めて前を見る。




「あっ…」
「ははは、待っていたよ君たち。」




小さく声が零れた。あの、ダルマのような体系をした男が腹の贅肉を揺らしながら此方に歩いてくる。一歩一歩男が私達に近づけば近づくほど生理的嫌悪が湧き上がり、思わず私は身を引いた。

トンっと背中が肉厚のある何かに当たる。

嫌な予感を胸に後ろを向けば私やエペルよりもしっかりとした体形の男が二人、道を塞ぐように立つ。逃げられない。そんな文字が頭を横切った。顔から血の気が下がる音がしてして緊張しているのかキーンっと耳鳴りが響く。

冷汗を流す私とエペルに向かって男が声をかけた。




「随分可愛らしい顔立ちの生徒じゃないか。一見女に見えてしまった。それにしてもこの学園はルイスを始め美しい生徒が多くて私は嬉しいよ」




連れていけ。冷たくそう言い放たれ、とっさに肩に置かれた手を振り払うべく身体を捻るが間に合わない。ならせめて叫ぼうと口を開いたけどそれもハンカチで抑えつけられる。人気のない薄暗い廊下。残っている生徒なんて図書館で勉強している生徒か部活でグラウンドを走り回ってる部員くらい。

こんなことなら近道なんてしなければ良かったと涙が浮かぶ。ずるずると抵抗する身体を抱え込まれ、そのまま誇りかぶる室内へと連れ込まれた。乱暴に室内に投げられて先に入っていたダルマのような男がこちらを見下ろしている。最後にエペルを抱え込んだ男がエペルを私の方へと投げ入れた瞬間。声が、聞こえた。




「うちの生徒に何してくれてんだクソ共っ!!!!」




室内に入ろうとドアの縁を掴んでいた男が身体を『く』の字に曲げて室内の壁に叩きつけられる。ダァンッと派手な音が響くと同時に横に積み上げられていた机やイスが男に降り注ぐ。うっわ、痛そう…。場違いな感想。でもなぜか恐怖に震えていたからだから力が抜けて、ハッと気づく

さっきの、声って…。

開け放たれた扉の方へ目を向ければ薄暗い部屋の中で輝く両耳のイヤリングが見覚えのある顔を映し出す。いつも学校内で優しく細められた瞳が挑戦的に爛々と輝きこちらを見据えていた。ああもう、本当にかっこよすぎじゃないですか?ルイス先生。

情けなくも目尻に溜まっていた涙がツゥッと頬を伝って地面に落ちた。それを合図にしたかのようにルイス先生が動く。今だ呆然と先生を見つめていた一人のガタイのいい男の懐に入り込むと足払いを仕掛けると目にもとまらぬ速さで、まるでサッカーボールをコートに蹴り込む様に男の背側に足を回して壁に蹴り飛ばした。再び痛々しい音が響いて机とイスが男になだれ込む。先生が男を蹴り飛ばした体勢を少し維持したからこそ何が起こったか理解できたけど、先生やってること規格外すぎじゃないですか…?一応魔法使い的なアレですよね先生。肉体言語に訴えてませんか??

自分より一回り大きな男を二人も短時間で蹴り飛ばし一発KOに持ち込んだはずなのにルイス先生は汗一つ流さず涼しげな顔でこちらに視線を寄越した。そのまま自分の胸や肩からごみを払うような動作をしながら此方に足を向ける。コツ、コツ、と踵が床と触れ合うたびに鳴り、冷汗をダラダラ流すダルマ男の前に立った。


さり気無く私とエペルの間に立ってくれている。…エ ぺ ル ??そうだった!!エペルって先生の本性を知らなかった!!バッとエペルの方を向けばキラキラと輝かせて食い入るように先生を見るエペルの姿。なんか大丈夫そう…。

ほっと私が胸をなでおろしている横で男の前に立ちふさがった先生が男に声をかける




「それで、ゼフェルさん。これは一体どういう事でしょう?」




こてん。

可愛らしい天使のような皮を被ったままルイス先生は腰を抜かしたまま彼を見上げる男に向けて首を傾げて見せる。そんな先生の問いかけに男がどこか喘ぐように、弁解するように口を開いた




「ちっ、ちがうんだよルイス先生!私はそこの二人に連れ去られそうになった二人を助けようとだ『ダァァアアンッ』ひぃっ!!」
「―――、グダグダ良く回る口だな豚野郎。俺はンなこと聞いてねぇんだよ。家畜風情が人間様の言葉に一々意義唱えんな。聞かれたことだけ答えろ。人の言葉分かるか?ん?」




弁解すら許さぬと、へたり込む男の股間スレスレの床に向かって脚を叩き落した。派手な音が響き元々青かった男の顔がさらに青くなる。何あれ怖い。にっこりと微笑みを浮かべる顔は相も変わらず愛らしい笑みが浮かぶのに、その形のいい蠱惑的な唇から零れる言葉は可愛くなかった。

不意に男が喚いた

それは現実から目を背けたる様な仕草だ。自暴自棄になったかのように男が叫ぶ。



「人間だと…?馬鹿を言え!貴様は悪魔だろう!!ルイスはどこへやった?あの従順で控えめな私の男をどこへやった!!貴様は誰だ!ルイスが私にこんなことをするはずがない。彼はお前のような悪魔と違い神に愛された者らしく清らかなーーー!!!」
「夢見るのも大概にしておけよ豚野郎」



ーーー俺は俺のモノだよ

先生が男の襟首を掴み顔を近づけた。私の方からは完全に死角で先生の表情は読み取れない。けれどその声は酷く冷ややかで聞いている此方が身を震わせるほどに無慈悲だ




「お生憎様、お前の言う“ルイス先生”は偽りでな、こっちが本性なんだわ。残念だったな?、まあ、この世界のどこにこの顔で中身まで清らかな成人男性がいると思ってんだ?外面って言葉知らねぇの?そもそも俺はお前のこと出会った当初から大っ嫌いだったんだよ。何が女神だ何が愛らしいだ。媚薬盛られそうになるわセクハラ受けるわ授業の妨害だけならまだしも良くもまぁ俺の目の前で俺の担当科目馬鹿にできたもんだな。脳みそにしわ入ってないんじゃないのかと本気で心配になったよ。」
「ル、ルイス…」
「この五年間俺はな、自分に酔ってるお前にも、お前の産んだ子豚にも、お前の家内である雌豚にも言いたいことが一つあるんだわ」




豚野郎…。じゃなかった、ダルマ男が苦しそうに先生の名前を零した瞬間に先生は男の襟首から手を離した。重力に逆らうことなく男が地面にみじめに崩れ落ちる




「俺に言い寄る前に、自分の姿を鏡で見たらどうだ?恥ずかしくないのか?この俺の傍に豚のように肥え太った自分がいるってのは」




まあ、豚箱に鏡があるかどうかは知らねぇけど。

その言葉を最後に先生がイヤリングに触れると男の身体は拘束され、壁に叩きつけられ、イスと机に押しつぶされて気を失った男たちの身も拘束される。ダルマの方に関しては目と口もシッカリ塞がれていた。




「さてと、大丈夫かお前ら」
「せ、せんせぇ〜〜っ!かっこよすぎて惚れちゃいそうですっ!」
「遠回しに死ねって言ってるのか?」
「あ〜〜〜っ!そんなところも好き!!」

「せ、先生!すごく、強いんですね!あと、口調…」
「こっちが素なんだ。内緒な?」
「はいっ…!」
「…俺が言うのもなんだが、俺の素を知って唖然としなかったのは監督生とハウル。お前だけだよ。今年の一年生メンタルどうなってるんだ?」




ジャックに至っては驚く暇がなかっただけだと思います。そんなことを言う暇もなく到着した学園長とクルーウェル先生によって男たちは引っ立てられる中、先生が小さく「酒飲みたい」と呟いたのを聞いてしまった。先生、意外とお酒大好きですよね。




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