PTAが怖いんだっ…! | ナノ


▼ 3

素晴らしいの一言だった。

美しい稲穂の髪を風に揺らし、優し気に瞬く海色の瞳をゆっくり細めて、形の良い唇が聞き惚れてしまいそうな美声を放つ。


ゴーストの姫が歌うデュエットに合わせ、姫の難題に対する答えに理想的な回答を述べ、求められる所作を完璧にこなして見せる。彼が微笑めば室内に太陽が差し込み、彼が歌えば何処からともなく駆け付けた小動物たちが周りを囲む。それはまさに主人公であり、ヒロインであった。


人として完成された美。人間として二物以上に与えられる才能。浮かべられた微笑みは天使のように柔らかいというのに、ゴーストの姫から、じゃあ力を見せてと言われ、ゴースト兵に見せた剣術は鬼だった。実体がないはずなのに殺されるかと思ったとはそのゴーストの言葉である。




「男の人は剣術だけではダメよ。家事はできるの?」
「勿論です。お望みであれば料理の腕を振る舞って見せましょう」
「あら、じゃあ見せて頂こうかしら」




完璧なフルコースを作り上げ、デザートにと振る舞われたのはホワイトチョコレートで作られたティラミスだった。プロにでも作らせたのかと言わんばかりの出来に姫は頬を引きつらせた。




「りょ、料理が上手くても学がなければ困るわ。私は一国のーーー」
「おい、ゴースト」
「お黙りになって、失礼な方」
「ルイス先生は学園の綱渡し役として、国の重要なポストの人間と日々会話(交渉)をされている方だ。そんな人間が馬鹿なわけないだろう馬鹿にしているのか貴様」
「くっ、くぅうううっ…!」
「ぺ、ペイン先生、あまり女性に過激な言葉は…」
「申し訳ありません!」




余計なこと言ってんじゃねぇよ。そんな言葉をレオナとジェイド・リーチは確かに聴いた。ルイスの前に立つゴーストの姫君は唇を噛んで、悔しそうな声をあげた。それでも彼女は顔を上げ、毅然と言い放つ




「そう、男の人は家事の腕も、学も必要よ、でも人望がなくては…」
「皆―。先生のことが嫌いじゃない人は申告してくれると嬉しいなー??」
「「「「はーいっ!」」」」
「貴方のことが嫌いな人間がいるわけありません」




ルイスはゴーストの姫にしか見えぬようにちょっとドヤって見せる。縛られているはずの花婿すら全力で「ルイスせんせーい!!」「流石リアル二次元キャラ!!」「監督生と拙者の推しが今日も強か!!」と叫ぶ。

ピキッ、ゴーストの姫の額に青筋が浮かび、腕が振り上げられる




「女としてっ!負けた気がするからいやっ!却下!!!!!!」
「えっ…、うわっ…!?」




振り上げられた手が陶器のように美しい頬を打つ紙一重のところで、ルイスが躓き、涙を浮かべた瞳で、そっと空ぶった姫君を見つめた




「そんな、酷い…。僕はやれと言われたことをやって見せただけなのに…。」
「ッ!!」




確かになと思わずゴースト兵たちは頷いた。




「完璧なデュエットも、料理の腕も、人間性だって証明して見せたのに、酷いっ」




ポロリと流れる真珠のように大粒の涙を、天使のように儚げな青年が流す。完全に部屋の空気が凍り付く。ふるふると、自分か弱いですと言わんばかりに身体を震わせる彼の姿、手を振り下ろした態勢で固まるゴーストの姫。まるで彼女がルイスを虐めているようにすら見える光景。

今までの流れと、ルイスの本性を知らない者たちは同情した。生徒は「ルイス先生。身体を張って俺たちを助けようと…」と思ったし、ゴーストたちも「うちの姫様ちょっとやりすぎなんじゃねーの?あの人間泣いちゃってるよ」と憐れんだ。


本性を知っているレオナとジェイドとペインはギリギリ騙されなかった。


騙されなかったが、正体を知っているからこそ、彼らには姫とルイスのやり取りがキャットファイト()に見えてしまった。ちなみに誰が勝ってしまうかわかるキャットファイトである。せいぜい十数年悪意に晒されることの少なかった身分で生まれて死んだ女と、数年間猫を被り続け、他国との交渉時に掌で転がして見せるほどに腹芸の上手い教員。勝敗なんて火を見るより明らか。その証拠に、この部屋の流れはルイスが握っているようなモノだろう。


上手く、あの姫を悪者に仕立てた。自分をか弱いものに見せ、守るべき庇護対象としてゴーストたちにすら認知させた。その手腕は中々のモノだし、同時にゾッとする。たとえ本性がわかっていても、自分たちはあの男に抗えない。惚れた弱みだ、恐ろしい。これだから自分の顔の価値を知ってる男は怖いのだ。




「自分より、顔のいい男は、正直いやよ」
「酷いっ、僕のこの顔は生まれつきなのにっ…。」




今さりげなく、自分はお前よりも整った顔で生まれただけなのにと煽ったな。涙を空気にとかし、まるで悲劇のお姫様のように顔を覆って部屋から退場したルイスに、数名は同情、本性を知っている三人は「ああ、一旦、撤退して作戦を練り直すんだな」と確信した。まったくもって頼りにしかならない味方である。

それまで、自分たちは床の上で転がっているしかないのだけれど(一名は変な体制で待機)



〜数分後〜ルイスとすれ違うように入ってきた第二陣までもが平手打ちの餌食になった(あとは原作通り)




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