PTAが怖いんだっ…! | ナノ


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先生の同級生や先輩、後輩で本性を知ってる人が学園に来る話











その人物は唐突に現れた。ある晴れの日、生徒の機嫌も上々で、教員に何か問題があったわけではなく、学園長も珍しく仕事をさばいていたある意味珍しい日に、その人物は訪れた。

ピンっと立った黒いイヌ科の耳。眼光が鋭く、まるで値踏みするかのように生徒を映す。

気の弱いポムフィオーレやイグニハイドの生徒たちは関わらないようにと道を開け、何かを察したサバナクロー生は尻尾を股の下に隠し、情けない威嚇をする。いつもならば喉の奥から地響きのように響き渡る「ぐるるるっ」という唸り声は、情けない犬のような「きゅーん、きゅーん」という世にも珍しい音である。彼らは威嚇だという姿勢を崩さなかった


「おい、そこの」
「は、はひっ!」


ああ、可哀想に。たまたま歩いていたオンボロ寮の監督生に目をつけたらしい彼が、声をかければ、小さな彼女は肩を震わせて向き合う。


「ああ、すまない。怖がらせてしまったか?君、あの人が気にかけてる監督生、とやらだろ?」
「あの人?先生方には大変良くしていただいていますけど…」


―――クロウリー学園長以外には。という副音が聞こえてきそうな答えに、先ほどまで人でも殺しそうだった青年が、その端麗な顔を輝かせ「そうか!」と楽し気に言う。


「では、ルイス、ルイス・エルヴァ寮長がどこにいらっしゃるか知ってるだろうか?」
「ル、ルイス先生、ですか…?」
「ああ!あの美しく聡明で、サバナクローのーーー」
「ペイン・シェパードッッッ!!」
「はいっ!寮長!!」


―――悪魔、と唇が動いたのを監督生は見た。けれどそれが音になるよりも早く、焦ったような声が廊下に響き、生徒たちが珍しいものを見たと言わんばかりに、こちらに駆けてくるルイス・エルヴァに目を向ける。いつものように日に輝く稲穂の髪と、海色の美しい瞳は健在で、なぜか今回は怒っているような印象を監督生に与えた

それに対し、嬉しそうに返事をしたペインと呼ばれる目の前の男は、こげ茶色をベースとし、先端にかけて黒く染まる尻尾を振って、大人しくその場に待機する。

ルイスがただ名前を呼んだだけで、ちょっと口を閉じておけという願いを理解したらしい。


「監督生ちゃん大丈夫!?見知らぬ成人男性に近寄られて怖かっただろう…」
「いえ、私はーー」
「寮長!お元気そうで何よりです!!俺のことを覚えているでしょうか!」
「さっき名前を呼んだでしょ?ちょっと静かに、ね?」
「はいっ寮長!!」


しぃ。っと人差し指を魅惑的な唇に当ててほほ笑んだ彼の目は笑っていなかったが、ペインと呼ばれる獣人は、嬉しそうに両手で口を押える。ちなみに元寮長という言葉にルイスは少しだけ顔を引くつかせたが、監督生に向き直ると真剣なまなざしで口を開く


「聞きたいこともあると思うし、ちょっと僕の応接室においで。ペイン、君もだよ」
「えっと、あんまり行きたくないなぁ、なんて…」
「君、寮長のいうことに逆らうのか」
「あ、いっきまーす」


いつもなら笑顔で堕としにかかるルイスより早く、こちらを威圧するように見た男の視線に監督生は白旗を上げた。下手に整った顔であるため、胸の中にいたグリムを締め付けるように抱きしめてしまった。「ぐぇええ」なんて可愛くない声が聞こえるが、そんなことより自分のメンタルが重要である


「ペイン。あまり虐めるんじゃないよ」
「申し訳ありません寮長」
「あと、僕はもう寮長じゃないからね」
「いえ、寮長は寮長です。」


この駄犬聞かねえなとルイスは顔に出さず、ため息だけを零した



―――応接室―――



「それで、先生。その人はーー…。」


俺と向かい合うようにしてし座った監督生ちゃんの言葉に、俺はちらりと俺の後ろに佇み、ご機嫌そうに尻尾を振る男へ視線をやる


「俺が寮長だったころに副寮長を任せていた犬の獣人、ペイン・シェパードだ。今はキングスカラーの国で近衛兵団副隊長をしていると聞いているが…」
「辞表を出してきました」
「・・・」


良い笑顔だな。駄犬。

褒めてくれと言わんばかりの顔を一睨みして、口を開く。ひとまず監督生ちゃんだけにはこいつのことを説明しておく必要があるだろうし、事情を知る人間は多い方がいい。

クルーウェルでもいれば楽なのだが、彼は今、出張に出ている



「ペイン・シェパードは俺の二つ下でね。キングスカラーが一年の頃に寮長をしていたはずだ。覚えてるか?」
「ええ。覚えていますよ」
「一年の頃にレオナ先輩って想像できませんね…」
「今より少しばかり素直でした。寮長は彼が入る前に卒業していましたし、当時の彼を知ってるのは俺だけってことになりますね。聞きたいですか?」
「興味ないな。」


本当に興味ないな。まあ、キングスラーもキングスカラーで最近は関りがない。廊下で擦れ違えば言葉を交わすし、コミュニケーションの一環で猫かぶりはいつまでやるんだ先生?と、挑発してくるが別に害はないのだ。今のところ。

それよりも


「どうしては今日はここに?」
「ああ、それはですね。俺、明日からここに非常勤講師として採用されているんですよ」
「―――…」
「先生、顔!顔!!ルイス先生がしていい顔じゃないです!!」
「寮長の補佐として精いっぱいお手伝いします!」


頭を押さえた。また頭痛の種が増えるのか。そもそも俺は暴走するであろうこいつのストッパーを務めなければいけないのか。いや、仕事ぶりは有能だと知っている。だからこそ当時は副寮長として据え置いた。有能だからこそ卒業して数年で近衛兵団副隊長まで上り詰めたのだろう。知っている。

けれど此奴は俺のこととなると周りが見えなくなるタイプだ。

たしか、似たようなタイプが今年のディアソムニア寮にもいたな。一年のセベクとかいう…。


「俺の教科は数学と召喚術だぞペイン・シェパード」
「先日、数学会に論文を提出し、最優秀賞をいただきました!召喚術において、ナイトレイブンカレッジ在学時に『優』以外の評価を取ったことはありません!」
「めっちゃ有能じゃないですかルイス先生」
「宝の持ち腐れなんだよなぁ…」


チートだろこいつの存在。よくもまぁ、兵団も手放したなと思う。俺はいらないが。一日中寮長!寮長!と纏わりつかれてみろ、本当にウザいぞ。手持ち無沙汰になり、後ろにある書類を出せという意味を込め、手を後方に差し出せば、ほどほどの重圧が掌に収まった。

明らかに書類の重みじゃないなと目線を後ろにやれば、人の掌に顎を乗せてご機嫌に喉を鳴らすペイン・シェパード(と書いて駄犬と読む)


「・・・」
「撫でてくださらないんですか?昔は俺たちに『手を差し出されたら顎を乗せ喉を晒せ。可愛がってやる』と言ってくださったでしょ?」
「先生ってどんな学生だったんですか」
「ごく一般的に規則を守った模範生だったよ」
「逆らう者は片っ端から調教され、寮に自分の王国を築いた素晴らしい指導者であらせられました。」
「主張と真実真逆ですけどルイス先生」


そうだな…。そんなこともあったな。

身をかがめたまま、喉をさらけ出すペイン・シェパードの首筋に指を這わせ、擽り、その髪を撫でつける。地鳴りみたいにグルグルと喉が鳴る男の何が楽しくてこんなことしなければいけないのだろうか。

昔の調教が行き過ぎてるのも考え物だな、本当に。


「というか、ペイン先生?ってレオナさんが入学時に寮長だったんですよね、顔見知りですか?」
「あんな若造知りません」
「いま知ってるみたいな口調だったような…?????」


そうだな、多分顔見知りだな。というか王族なわけだし、近衛兵とはあらかじめ顔を会わせているはずだ。

手を膝の上に戻して、俺は少しだけため息をつき、口を開く


「それで、ペイン?お前、王様からなんて命令受けてきたんだ?」
「――ッ」
「どこまで嘘でどこまで本当かは知らないが…、ペイン。お前、俺に嘘ついて五体満足で生活できると思ってんのか?」


いきなり空気が変わったことで、先生?と監督生ちゃんとグリムが不安そうにこちらを見つめている。そもそもおかしいんだよ。仮にも副隊長ともあろう奴がそうホイホイ抜けられるはずもない、国家機密を漏らさぬようにという契約でも交わしたならまだしも、こいつの言い方は何か引っかかる。

考えなくてもわかる。こいつは多分『何かの任務』を命じられてここにいるし、学園長もそれを知っている上でこいつをこの学園にいれた。任務が何かまではわからないが、どうせキングスカラー関連だろう。

呼吸が一瞬止まって、身体の硬直が見て取れるようにわかる。ビンゴだな。

相手の指先が僅かに動く、それを視認して相手より早く動いた。座っていたソファーに膝をかけ、ペインのネクタイを掴むと目を合わせる

俺の魔法石である両耳を飾る十字架のイヤリングが青く輝きだした。そのまま、ユニーク魔法を行使しようと口を開きかけてやめる。わずかに見えた熱っぽい瞳。ああ、そうか此奴はどこまでもーーー。


「―――俺に、隠し事ができると思ってんのか?ワ・ン・ちゃ・ん?調教され直したくなきゃ、わかるな?」
「は、はい、寮長…!」
「はぁ?犬が人間様の言語発してんじゃねぇよ。返事は、どうするんだ?」
「わんっ!!」
「よろしい。」


じゃあ監督生ちゃん俺はちょっと一時期飼い主を勘違いした駄犬を躾けるから、十分後にまたおいで。と言い、笑顔で追い出した。

さて、躾の時間だな。10分で全部吐かせるつもりはないが、どこまで昔に戻せるかは俺次第だな、頑張るか




登場人物

ルイス・エルヴァ
 元サバナクロー寮寮長であり、サバナクローの悪魔と言う異名を持っていた。ペインの登場には本気で頭を抱えたが、勘がいいのでいろいろ察する。今回の行動理念としてはレオナも一応生徒→生徒に面倒なことが起こってる→何かあったらPTA→よし、吐かせよう。という思考回路。この後本当に非常勤講師となったペインに吐血する。


ペイン・シェパード
 シェパードの獣人。ルイス寮長時代の副寮長。すごく有能。(ルイスに言わせれば宝の持ち腐れ)嘘は兵団副隊長辞したところだけ。ルイス寮長ガチリスペクト。23歳。数年ルイスと離れている間に、優先順位が王様>ルイス先生になっていた(当たり前)。しかし、10分間のお話合い(と書いて調教と読む)王様<ルイスに戻る。若干被虐の資質がある。非常勤講師はガチでなった。ルイス先生に対する同案拒否恋愛ガチ勢だが、ガチ恋勢かを態度に出さない程度には隠すのが上手い。



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