▼ おまけ(IF)
―――主人公の性格が逆転した話―――
その日、ルイス・エルヴァは酷く機嫌が悪かった。その顔にいくら天使の笑みを浮かべていたとしても、彼はその日、機嫌が悪かった。というか今日の彼は運がなかったともいう。
朝からお気に入りのココアは切れていて、昼休みは物置部屋に引き吊り込まれ、放課後は食堂で告白。ルイスはイラついた。今日はどんだけ厄日なんだと。明日もこの調子ならまずいと考えた彼は幸福薬と呼ばれる一時的に運気を上昇させる魔法薬をもらうため、補講の行われる錬金術室の扉を開く。もちろん笑顔も忘れない。
「こんにちはー、実験中だろうけどお邪魔するよ〜」
「おい!しゃがめルイス!!!」
「え?」
―――パッシャン。
突然怒号のような声で叫ぶクルーウェルの言葉と頭からかぶる何かの感覚にルイス・エルヴァは何が起こったのかを正確に察したし、元凶である3馬鹿をその目にとめ、意識を手放した。彼が最後に思ったことはシンプルに一つ
―――ぜってぇ次のテスト難易度上げてやる
いつもいつも赤点ぎりぎりである奴らのことだ、難易度一つ二つあげるだけで悲鳴を上げることだろう。次のテストは一夜漬けで解決できると思わないことだ。
さて、魔法薬を被ってしまったルイスに対してクルーウェルは頭を抱えた。己の後ろで「はわわわわわ」と幼女のような反応を示す監督生と3馬鹿を下がらせる。
先ほど被ったのは人間の性格を正反対に変えてしまう薬だ。持続時間は三時間。しかも被ったのはあのルイス・エルヴァ。何が起こるのかわかったもんじゃない。
被害者である彼は、薬を被った体勢―――。つまりはドアを開けた状態から一ミリも動いていなかった。
何が起きる。その薄く開いた口から何が飛び出すんだ。身構え、彼らはルイスの行動に注目した。
…不意にルイス・エルヴァが顔を上げる。――そして。
「ひ、ひっどい!!!もうっ!気をつけなきゃダメだよ?」
まったく…。困った子たちだね。そうぼやき、懐からハンカチを取り出して己の髪を拭くと、十字架の耳飾りを揺らしながら魔法を一つ。魔法薬で濡れた服も髪も一瞬にして乾した、
そのあといつもの穏やかな顔で一人一人の額を小突く。あまりの優し気な声と仕草に3馬鹿は首をかしげて見せた
「あ、あれ?もしかしてあの薬失敗?」
「いつもの、先生だよな?」
「むしろ何時もより馴れ馴れしいんだぞ」
―――いや、成功している
クルーウェルと監督生の言葉が一つになる。ぽやーとしているルイスを見つめ、頷き合った。そもそもルイス・エルヴァという教師は猫かぶりである。もしも魔法薬が失敗していたとしたら、彼はそれはそれはいい笑顔で「気にしないで」と宣いつつ含みのある笑顔を見せたことだろう。それに、ルイス・エルヴァは異常なまでにPTAを怖がる性質故軽々しく生徒を小突くなどと言ったスキンシップを取りたがらない。「触れればセクハラ、頼めばパワハラ、叱れば体罰」を常に頭にいれているような教員である。
つまり、いまのルイス・エルヴァは素の自分をさらけ出し、PTAを恐れず、顔に見合った性格をした人物であるということが伺えるだろう。吐き気がしてしまう。いうならば綺麗なルイス先生(ガチ)である。
効果は三時間。それまでにこの男を守れるかどうかをクルーウェルは計算し始める。性格も反対ということはそういうことである。腹芸ができないルイス先生など生徒たちの格好の餌としか言えない。顔に似合わない腹黒さと強かさを持ち、なおかつPTAの恐怖心を軸としていたルイス・エルヴァだからこそこのNRCで教師活動ができていたのだ。
属性:悪・混沌から属性:善。
誰得なんだと監督生は思った。
――――ここから始まるドタバタ☆ルイス先生(光)を守れ!!ミッション
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