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「おい」
「おお、お帰りなさいませレオナさま。如何なされましたかな?」
「いや、聞きたいことがあるんだが、その、お前ルイス・エルヴァっていう教員しってーーー」
「すみませんレオナさま。少々腹の具合が」
「え、あ、ああ。」
その名前を聞いた途端、顔を青くしてそそくさと離れていく宰相に、レオナは首を傾げた。腹が痛いっていう割には頭を押さえていたな。後で果実でも送ってやるかと頷く。
―――結局、彼が宰相からルイス・エルヴァの話を聞くことはできなかった。
ルイス・エルヴァの話を聞こうと声をかけるたびに「腹が‥」「頭が…」「ちょっと仕事が…」という風に逃げていったからだ。 普通の人間なら避けられていると気づくだろうが、レオナは気づかなかった。
そして何も知らないまま学園に帰ってきてルイス・エルヴァの研究室に突撃した。こうなれば本人に聞く方が早いと思ったからである。
―――ガラリ
「すまん監督生。ここの計算、少し直してくれ」
「はい!先生!」
「あ“―、悪いな、ったく、問題ばっか起きてやがる…」
「渦中にいるのがグリムですねすみません」
「気にするな。あれはそういう獣だ」
そこで彼が目にしたものは乱雑に髪をかき上げていつもとやや違う口調のルイス・エルヴァだった。こちらに気付いたのかチラリと目線を投げられるが、それも一瞬で、すぐ近くにいた監督生と言葉を交わす。
きらきらと輝く海色の瞳はそこになく、どこか疲れを彷彿とさせるような色。トントンとリズムよく机をたたく指先は明らかにイラつきを押さえているように見えるし、何より口調が別人のそれだった
―――パタン
研究室の窓を閉じる
レオナ・キングスカラー、20歳。初めての現象に言葉が出なかった。
????とたくさんの疑問符が浮かんでは消えて浮かんでは消えていく。俺は今なにを見たんだ?と自分に問い掛けても、変えてくる答えはない。誰だアレ、という感情はなく。部屋の中にいた人間が間違いなくルイス・エルヴァだという確証もある。
ただ言うなら、彼の知っているルイス・エルヴァはいつもホワホワ笑っており、穏やかな口調の人物で、時たまに意志の強い反抗的な目と、突拍子のない行動をする教師である。…上記二つがすでに当てはまっていなかった。
大きく息を吸い込んで、レオナは決意する
―――寝るか
多分寝ればどうにかなってるだろう。後は未来の俺がどうにかする。
図らずも現サバナクロー寮長と元サバナクロー寮長の思考回路は似ていた。
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