PTAが怖いんだっ…! | ナノ


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「ルイス先生、どうしてでしょう…。貴方を見ると、僕の胸が少しだけ苦しくなるんです…」
「それは新手の病気かもしれないね。保健室に行っておいで」






我ながら全速力で保身に走った言葉だったと思う。






 どうもどうもこんにちはルイス・エルヴァ(25)です。趣味は読書、特技は昼寝という自分でもどうかと思う程度にはちゃらんぽらんな教師である。担当科目は数学だが、個人的には数学よりも古典のほうが好きだったし、そっちの担当になりたかったのだが、お生憎様、人生そううまくはいかないもので、予備でとっていた科目、つまりは数学の方でこの学校に採用された。良くも悪くも生徒・教員共に自由な性格であるここは居心地もよく、俺もいいところに就職したなと考えていた。今、この瞬間までは。

 頬を赤めらせて、こちらをそっと伺いみる少年に思わずひきつった声で絞り出したのが上記の言葉だった。

 人生とは、いかに楽に生きるかだと、俺は思っている。そのため、俺は基本的に生徒を叱らなかった。散々、鞭、ムチ、むち、みたいな面白おかしくもそこら辺厳しい先生方が多いのだから俺みたいに緩い教師がいてもいいだろうと思ったし、叱るということは存外体力を使うのである。だからこそ、生徒達には懐かれているという自覚はあるし、なんなら教員の中で一番やさしいのではないだろうか。まあ、俺はこんな俺のありさまをやさしいとは思ってもいないが。

 もちろん、度が過ぎれば注意もしたし、罰則も与えた。授業に出ない生徒ならば単位はやらなかったし、補講もしない。勉強に関しては本人の責任だとも思っている。




「で、でも、病院に行ってもなんともなくて…」
「ならば心の病気かもしれない。校長に頼んで、その、精神科を紹介してもらおう」




 実逃避をしていた俺を容赦なく引き戻す言葉に内心では舌打ちをしつつ、優し気に微笑んで見せれば、ぽぅっと惚けた様な生徒の顔に、「ああ、しまった」と思う。男子校故か、こういう生徒は一定数いた。俗にいう男に恋情を持ってしまう可哀相な生徒のことだ。男子校だからこそ、見目のいい人間はある程度優遇されるし、そんな人間にやさしくされれば嫌な人間はいないだろう。だからこそ、俺はその特性を活かして、そういう優し気な教師を演じてきた。にっこりと微笑み、優しい言葉をかけさえすれば彼らは存外、よく言うことを聞く。

 昔、俺みたいな教員がいたらしいが生徒に手を出して退職していった。阿保である。勿論、見た目がそこら辺の女の子よりもかわいらしいのが多いことを認めよう。男だが。

 それでも…、それでもである。男だぞ。しかも学生。その教員は知らなかったに決まっている。生徒の後ろには親、もといPTAと呼ばれる組織がいつでも付いていて、俺たち教師が問題を起こせばすぐさま飛んで行き、スパッと首を切ってしまうのである。無論物、理的にではなく社会的に。

 たとえ生徒がいくら俺たちを好きでも俺たちはその想いに答えることはできないし、社会的にソレは許されない。寮生活。ストレスがたまることもあるだろう、青春真っ盛り、恋をしたいお年頃だろう、それはそれは大変結構。けれど俺たち教員には関係ない。

…本当に、PTAは怖いのだ。




「違います先生っ!僕は先生のことが…!」




 あ、やばい。自分の身に迫る危機に、その子の口を手で塞ぎ、困ったようにほほ笑んだ




「ごめんね。でも僕、もう結婚してるから」




 クッソ出鱈目であった。もちろん結婚なんてしていないけれど、俺や俺のように見目のよい教員は校長から偽の指輪を渡されていることが多い、もちろん中には本当に結婚している人や、動物に対する愛が強すぎて生徒が自ら身を引く場合があり、必要ない教員もいる。
 するりと手に付けていた手袋を脱いで見せれば、その生徒は顔を青くして、泣きながら去っていった。罪悪感がすごい。正直ああやって迫ってくるのが女の子なら俺は頷いた自信がある。女の子に飢えているのはこちらも同じこと。生徒は四年通学すれば普通の社会に戻れるのだから四年くらいは我慢してほしい、俺たち教員なんか女の子と触れ合えるの生涯休日だけだからな。





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