PTAが怖いんだっ…! | ナノ


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 とある講義室に一年の生徒が集められる。生徒たちは今から行われる授業の内容に目を輝かせながら席に着き、教壇を見下ろした。普段ならば数学の授業でしか教壇に上がらないルイス・エルヴァがにっこりと微笑んで手を振る。生徒たちの授業に対するやる気は上がった。たとえその横で頭を抱えるクルーウェルの姿が見えたとしても、彼らは胸にある野望を抱えて授業に挑む覚悟である。




「はーい、ということで、今回は召喚術をやっていくよ。みんな、準備はいいかな?」
「「「「はぁーいっ!!ルイスせんせぇぇええええ!!!」」」」
「おすわり!!…ふざけた態度を取るバッドボーイ共には洩れなく減点があることを忘れないように。」




 にっこりとほほ笑みながら教壇に立つ俺に、生徒からの熱烈なラブコールが飛ぶ。いつものことなのでそこは気にしない。その代わり、俺の横で教鞭を黒板に打ち付けたクルーウェル先生の叱咤が飛んだ。

―――召喚術―――

毎年ホリデー前とホリデー後、全校生徒を各学年ごとに収集して行われる召喚術の授業である。召喚術の授業はある意味とても特別だ。彼らの進路に直接関わってくるといっても過言ではないだろう。

強力な使い魔と契約を結ぶことができればソレは自分自身にとって大きな力になる。だからこそ、自分の使い魔を呼び出す者もいれば、使い魔契約するために新たな魔獣を呼び寄せる生徒もいる。

 召喚術の授業は基本的に俺とクルーウェル先生、どちらかが他の科目と併用して受け持つのだが、毎年毎年一年生は無茶ばかりするため、一番最初の召喚術の授業には俺たち二人の教師が立ち会うことになっている。

 ちなみにお手本、契約の交渉、契約を担当するのは俺で、クルーウェル先生は基本的に解説役に回ることが多い




「では授業を始めるぞ仔犬共。まずは座学からだ、わからないことがあれば手を挙げて質問するか、お前たちの授業態度を評価するために回っているルイスに聞け。返事は?」
「「「「「はいっ!!」」」」
「グッドだ。それでは召喚術に関することをまとめたプリントを取り出せ。今日の授業はソレとあらかじめ配布した魔方陣で進める、忘れた者は正直に、回ってきたルイスに言うように。」




 何人かがびくりと肩を震わせる。それを見てしまった俺は困ったなぁ、と微笑んだ。忘れるのは良くあることだ。今回は忘れたからと言って減点は行わないので安心するといいだろう。こういうプリント必須の授業で減点するとPTAは理不尽にうるさい。忘れ物した生徒のほうが俺は悪いと思うんだけどね。人はそれをモンペという。俺が遠くを見つめながら物思いに浸っている間に授業は恙なく進んでいるようで、プリント最後の行の解説に入っていた




「つまり、契約というのはお前たち仔犬と、呼び寄せられた魔獣、双方の同意に基づき交わされる。魔獣は契約者に服従し、その魔力を糧として成長。対して私たちは魔獣を使役し、定期的に魔力を渡す。勘違いされやすいが契約した魔獣はお前たちと同等だと考えろ。」




―――以上が召喚術の基礎だ。

あらかた黒板に書き終えたクルーウェル先生が俺を呼び寄せる。それに頷き、教壇の方へと降りていけば、「注目」と静かな声が響いた




「今からルイスに召喚術の手本と契約までの流れをやってもらう。いいか仔犬共、お前たちと違い、一人前の魔法士は契約の内容を人に聞かれてはいけないため、予め防護壁を張る。交渉の内容は指示してあるため、私が通訳を務めるからそのつもりで。」
「じゃあ、僕が今から魔獣を召喚するから、みんな離れてね。そうだ、呼んでほしい魔獣はいるかな?」




 はーい、離れて、離れて―と言いながら問いかければ数名のサバナクロー生が手を挙げた。毎年ココの寮生は手を挙げるなあ、と思いつつ、どうせ毎年恒例の「アレ」だろうとあたりをつける。懲りないな本当に。

褐色の肌を持つ、穴熊の特徴を持ったサバナクロー生を指名すれば、彼は嬉々として言い放った




「バイコーンを!バイコーンを召喚してください!!」
「……」
「……」




彼のその言葉と共に今まで手を挙げていた生徒はスッと手を下ろす。全員が全員バイコーンを望んだことにクルーウェル先生は頭を抱え、「毎年毎年なぜバイコーンを要求するんだ一年の駄犬どもはっ…!」と吐き捨てた。

 笑顔で固まる俺は、自分の背中に拳を隠して握りしめる。


―――公然の前でセクハラとは良い度胸だクソガキ共


 ちなみに俺が教師を初めて毎年のことである。いい加減ブチギレそう。お優しいルイス先生の仮面がはがれかけるのを毎年我慢する俺の身にもなってほしい。




…バイコーン。それはユニコーンと反対の性質を持つ魔獣である。ユニコーンは生娘の前に現れて祝福を授けるとされているが、バイコーンはその逆。純潔を失った者に好意を表して従うとされる獣。つまりバイコーンの反応次第で俺が処女か処女じゃないかわかるわけだ。勿論掘られたことなど一度もない俺は処女だろう。毎年毎年あのふてぶてしい獣を呼び寄せなければいけない俺の身にもなってほしい。切実に。




「他に、ないのか」





クルーウェル先生の地響きにも似た声に、サバナクロー生の耳と尻尾は一瞬だけピンっと張り、そのまま股の下に垂れる。怖がってるやん。それでも他にないということは見本としてバイコーンを召喚して見せなければいけないらしい。いやもう毎年のこと過ぎてそろそろバイコーン専用の呪文暗記するんだけど…。

ため息をつき、クルーウェル先生が口を開く。




「じゃあ、今から召喚のお手本と契約の流れを見せるからノートにメモを取るなりするように」




彼が頷くのを合図に、俺は自分の親指にナイフを押し付けて皮膚を裂く、そのまま魔方陣の上に×を描き、床に落とした。紫色の光があたりを包み、魔方陣の描かれた紙が床へと溶け込む。次の瞬間、俺の足元には魔方陣が展開し、結界を作り出した。

 手の甲を下に向けたまま親指から流れる血を魔方陣に染み込ませ、呼び出すための口上を述べ始める




「我、力を望む者。我、強さを欲する者。我、純潔を穢す者。我、汝と永久の時を過ごす者。
清き乙女を嫌う獣。純潔を散らす咎。善良なる父の生血を啜る従。尊き闇の眷属よ。呼びかけに応え、汝の姿をこの地に」
「いいか仔犬たち。あらかじめ召喚したい魔物が決まっているなら最初に己のことを指す口上を述べ、呼び出す魔獣に関連する言葉を並べろ。ルイスの言う口上について解説しよう。ノートとペンを取れ」


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