PTAが怖いんだっ…! | ナノ


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 監督生視点




「先生にああいわれたものの、やっぱり女の子的要因の下着とかは自分で買いたいっ…!」




 当たり前の欲求だと思う。拳を握りしめて、呟いた言葉に、腕の中にいたグリムが「ふなぁ〜」と鳴いた。ボディーガードなら頼りないけどエーデュースがいるし、ジャックもついて来てくれるって言ってた。さすがにあの二人じゃ心もとないらしい。ごめんなさいルイス先生!今日だけから!!
 推しの言葉を反旗にしる背徳感がやばい
見つかったらシュンッとして「監督生は、僕のこと嫌いなの…?」という姿が思い浮かんで胸が痛んだ。可愛いというか顔がいい。そのすべての動作が似合ってしまうところがまた好き。でもこれは乙女として譲っちゃいけないラインなんです先生っ!!不審者は怖いけど!!

 人知れず決意を固めながら放課後、町へと繰り出したとき、案の定エーデュースコンビはどっかに行った。それに対してジャックが悪態をつくが、それを宥めて、可愛らしいショッピングモールに目を移した時だ。ルイス先生の姿を目にとめ、固まってしまう




「ジャック、どうしよう、ルイス先生がいる!」
「こっちには気づいてねぇな。」
「なんであいつもここにいるんだぞ?」




 変なんだぞ、と、グリムがつぶやくのを聞きつつ、物陰に隠れながら先生を観察した。今日朝見た格好のままで、太陽の光に輝く髪が周りの目を引く。王子様フェイスの青年が一人で噴水の前に立つなんて誘ってくださいと言っているようなものだろうに。もしかして、デートのフラグかなと頭の中でいらない単語が躍るが、先生は!デートなんてしない!!

 先生が顔を上げた。相変わらず、綺麗な海のような瞳だ。それがすぅっと細められたかと思えば、視線が横にずれる。私達も誘われるようにそちらへと目線をやればどこかで見た様な顔をした男が物陰で先生を見ている。男はそれに気づいていないようだけれど、息が荒いのは気のせいだろうか。

 いつものように穏やかな表情で、何事もなかったかのように路地裏へと歩いて行く先生に思わず叫びかけた。

――――そんな自分から襲ってくださいと言わんばかりの方に行ってどうするんですかせんせぇえええええええええっ!!!




「ジャック行くよ!」
「はあ!?やめとけ!あぶないだろう!」
「先生の方が危ないって!!」




頭の中ではか弱い先生が涙目で男に対し「あっ、ダメ…っ、やだぁっ!」って泣き叫ぶ姿が浮かぶ。え、えっろ…じゃなくて!!!推しが!あぶないのっ!!!去れ煩悩っ!!!ちょっと見たいなとか思うな!!!


自分(煩悩)を自分(理性)が殴り飛ばして、先生が消えていき、不審者が追いかけてきた路地裏に入り込んで、薄暗い角を曲がったほうへと踊りだす、




「先生っ!ごぶじで、す…か…??????」




目の前の光景に思わず目を疑った。何なら言葉も失った。目をこすってもう一度見るけれど現状は変わらない。




 そこには尻もち付いた男を壁に追いやり、手袋に覆われた指で二重の脂肪が目立つ顎を上に向けさせ不審者と目を合わせる先生の姿。海色の瞳が淡く光り、十字を模したイヤリングが青く輝いている。いつもの先生にはない、蔑みの色を濃くした感情に、歪に歪む口からひっくい男の人の声




「いいか?お前は犬だ。しかも特別きったねぇ泥水吸ったような毛皮した下等生物。そんなゴミ溜めみたいなやつが親御さんの大切な宝に手を付けていいわけないよな。わかるか?ロイヤルソードアカデミーだけじゃ飽き足らずこっちにまで手を付けるたぁ、ずいぶん躾のあってねぇ事で…」




 横にいたジャックも、グリムも、私も思考が停止する。え、え…せんせ、い?そんな私たちの様子、というか、そもそも私たちの存在を気づかずに侮蔑の色を含んだ瞳を細めてから、己の舌で自分の唇を湿らせる動作の色気がやばい。




「お前のすることは自分を下等な生き物だと認めて豚箱に入ることだ、わかるな?お返事は?」
「は、はひぃ…」
「犬が人様の言葉使ってんじゃなぇよ。やり直せ」
「わ、わんっ…
「ハッ!犬に失礼だわなぁ?」




行け。と言葉と共に先生の瞳が光るのをやめ、イヤリングが元の落ち着きを取り戻す色になる。男が私達の間を縫うように出ていき、顔を上げた先生が、目を丸くした。


……いや、ね?先生が何となく性格隠してるってのはわかってたよ。もちろん、うん。ちょっと萌えたし死んだよ。うん。でも、でもさぁ…




「ここまで好みだともはや死ぬ!!先生大好きですっ!!!!!!!!!」




全力で先生の足元に土下座した私を、先生が困惑しきったように見下ろす。う”っそのアングルもすきぃっ…!!!




「えっ、えええっと…?」
「なんでッ!?なんで王子様フェイスのくせに性格いいなって思ったら次は同居生活で猫被ってるなって思って死んで今!ここで!すっごくエッチな先生で!!死んでるのっ!何回オタクを殺すの!?先生好きですっ!!一生推します!!!!」
「やめて、俺がPTAにしょっぴかれ…」
「一人称もかぶってたんですね!?しかも一人称俺なんですね!!推せるッ!!!!性癖の塊みたいな人ですね好きッ!!!!!!」
「そ、それ以上はあの、PTAがっ…・」
「あああああああああっ…!!!!!!」




 正気に戻ったジャックに正気じゃない私が気絶させられるのはこの後すぐのことで、お部屋に戻った後、猫を取り払った先生が小さく「学園長みを感じる」とつぶやいたことに、私は抗議した。





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