PTAが怖いんだっ…! | ナノ


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 楽し気に生徒達がはしゃいでいる。耳元で揺れる十字架のピアスが光に反射して、部屋の壁に淡い明かりが揺れ動くのを目で確認すれば、静かな音と共に教室のドアが開かれた。
 ふんわりとした甘い香りに顔を顰めて、音のした方を向く。




「こんにちは、エルヴァ先生。相変わらず綺麗な顔してるわね」
「ふふ、ありがと」




 にっこりと笑い、俺は手に持っていた書類の山を横にかき分け、目の前にいる生徒の椅子をもってきて、「どうぞ」という。それに、「遠慮なくおじゃまするわ」と腰を下ろす彼の名前はヴィル・シェーンハイト。ポムフィオーレ寮の現寮長にあたる。いつ見ても麗しい限りの顔で大変結構。俺の顔とは違うベクトルで顔がいい。俺は俺の顔の方が好きだけれど。
 そして、目の前の生徒は俺の顔が好きなのだろうなと思う。いつも目があえばうっとりとした視線を寄越すし、さりげなくシャンプーやらリンスやらのメーカーを聞かれる。適当なブランド名言ってるけど。俺の使ってるシャンプーもリンスもメ〇ットだよ、めっちゃ安いやつ。




「先生、髪を触ってもいいかしら?」




 少しだけ物思いにふけっていると、上からかけられた声に、思わず首を傾げた。何を言われたのか一瞬理解ができなくて顔を上げれば、頬を赤く染めた彼が目の前にいた。一大決心をしたかのような顔に、「いいよぉ」と返せば、それはそれは嬉しそうに触れるのだ。一等の宝物を触る様な仕草に、少しだけ気恥しい。




「アタシ、自分の顔が一番綺麗だという自覚はあるの。でも、それと同じくらい先生の顔もきれいだと思うわ」
「そうだね、ヴィルの顔は綺麗だと僕も思うよ」




 まあ、俺は自分の顔が一番だと思うけどな。純粋に好みの問題だろうけど。誰に言うでもなく、言葉を返せば、やはり彼はまた笑った。




「ありがとう。それにしても、少し髪質が悪いわ。なにかあったの?」
「最近忙しくてドライヤーしてなかったからかな」
「あら…」




いつもかけてないし、めんどくさくて。なんなら最近監督生ちゃんに対してキャラ維持するためにかけ始めたくらいだ。まさか女の子がお風呂入った後にドライヤーするなぞ知りもしなくて、慌てて購買に買いに走ったっけ。今だ俺の髪をいじりつつ、真剣に見つめるシェーンハイトにそういえば、と声をかける




「今日は何しに来たの?」
「クルーウェル先生にノートをもらいに来たの。いないみたいだけれど」
「クルーウェル先生なら廊下を走り去っていく一年生に注意しに行ったよ」
「そんなことだろうと思ったわ」




 まったく、仕方ない先生だこと、と、小さく漏らしながら、会話を続けていく。ところで、隣に座ってることとか、髪の毛触らせてることってセクハラになりますかね?場合によってPTAに行くなら俺はすぐさま辞めさせなければいけないんだが




「先生ってこの学校の卒業生?」
「うん」
「見えないわよね。ロイヤルソードアカデミーって言われた方が納得する」




 その言葉に少し離れた席にいたバルガスがソレはないだろうと言わんばかりの目でこちらを見たのを俺は許さない。それに対してトレイン先生が確かに。と言わんばかりに頷いたのも許さない。




「まあ、ボクも最初はロイヤルソードアカデミーにいたんだよ?」
「え?」
「ふふっ、そしたらあっちの寮を選定する鏡がね、手違いである。この者の双子の弟と間違って連れてきているっていうの。そしたらもう会場も大混乱。入学式もてんわやんわで…、結局僕と弟が入れ替わることで事なきを得たんだよ」




 笑い事ではないだろうという目が数個こちらを見たかけれど気にしない。黒い手紙と白い手紙。それぞれにはきちんと俺と弟の名前が入っていたけれどお迎えの当日、天使のような容姿をした俺と、対照的にどこか小悪魔っぽい容姿をした弟を馬車たちが間違えるのはある意味仕方なかったかもしれない。ちなみに弟の性格は俺が猫をかぶってる性格に近い。心の底からお人よしと謙虚の塊だった弟ではあったが、なんやかんやあってもあっちで楽しくやっていたみたいだし、いいんじゃないだろうか。俺と弟の兄弟仲はいい。




「ってことは、先生はここの卒業生なのよね。寮はどこだったの?ポムフィオーレ?」
「僕はサバナクローだったよ」
「はぁっ!?」




 あちらこちらから「うっそだろう」とか「まじか」という声が飛び交った。どうやらいつの間にか数名の教師が職員室にもいたらしい。でもマジなのだ。いやあ、散々オクタヴィネルかサバナクローで迷われたし、「慈悲はないが本質はオクタヴィネル、しかしその魂は誰かに従い、傅くことを良しとせぬ不屈のサバナクローそのもの…」とさんざん悩まれた末にしまいには「顔はポムフィオーレ」と失礼なことを宣いつつ結局サバナクローへ飛ばされた。




「…そういえば昔とんでもなく系統の違った顔のいい寮長がいたって聞いたことあるわね」
「僕―」
「うそでしょう!?」
「ほんとほんと。」




 まごうことなく俺である。そう、闇の鏡が言い放った通り俺は正直誰かに従うのは嫌だった、本当に嫌だった。一年のころは勿論我慢したのである、俺偉い。というか、最初の一年はなめてかかる先輩同期を潰して調教することに費やした。そして二年次、上がった瞬間に俺は当時の寮長に勝負を挑み、完膚なきまで叩き潰した後、寮長として三年間あの寮で君臨した。歯向かう奴はじっくりと【お話】して、言うことを聞くやつはキチンと褒める。気づけば従順なわんちゃんねこちゃんその他の出来上がり。部活はがっつりマジフトやってましたー。なんていえば、生徒の倒れる音とシェーンハイトの珍しい絶叫。




「顔に傷がついたらどうすんのよ!」
「僕強かったから」
「――っ!!」




音を立て、他の教師へ振り返る彼に、当時を知るトレイン先生が思い出に浸るよう頷いた。俺は強かった。他の寮から散々舐めた態度取られたが、全部倍にして返してやった。まだ少年特有のあまやかさと丸みがあって今の王子様フェイスというよりは本当に天使の容姿に近く、揶揄には「天使様がこんな野暮なことしていいんですかー?」などあったが、俺が全部笑顔でつぶした。大会で優勝するころには「あいつやべぇ」という不名誉な感情と「サバナクローの悪魔」とまで言わしめたし、それはもう暴れた。クロウリー校長にはそれとなく注意されたが「ごめんなさぁい(きゅるん)」ですべて流してきたのが俺である。その頃はまだあいつの性癖を知らなかった純粋な時代

 今いるレオナですら俺が卒業してから少したって入ってきているため、俺のことは噂でしか知らないだろうし、それとなく確認したら「めっちゃ慕われてた別ベクトルで顔の良かった寮長(尊敬)」くらいでしか伝わってなかったのでよしとする。基本的に俺が最高学年の頃は俺の被害者2,3,4年生くらいだったしな、一年生実質俺の綺麗な笑顔しか知らないしな。




 いつの間にか他の生徒同様シェーンハイトも気絶していたが、その姿は他と違って素晴らしく美しかったことをここに記す。



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