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「どういうことですか!!」
「どうもこうも、ねぇ…」
目の前には顔を赤くした寮長たちがいる。寮長会議。教師と寮の代表である彼らによる生徒の日常生活、成績においての向上を目標とした会議は月に一度行われる。その場で校長によって僕と監督生ちゃんの共同生活が告げられたわけだが、いやぁ、まさか、ここまで反発されるとは
「教師である者が生徒と、しかも女性と一つ屋根の下というのは不健全です!」
「いや、僕もそれは思うんだけど、リドル君は、女性である彼女が雨風しのげぬ場所にいるのを許容できるってことかな?」
「それはっ…!」
「それとこれとは話が別だろ、もっと他になかったのかよ、俺らの寮に預けるとか」
「不特定多数の男子生徒がいる寮よりも教師である僕の方がいいと思うけど」
ぐるぅっと、悔し気に唸って、レオナが頬杖を突いたままこちらを見つめる。まあ、彼の寮が一番監督生を泊めるにしてはやばいしね。部活している生徒が多いから、色めき立ってるだろうし、
「教師寮の部屋に開きはなかったの?」
「なかったな。あるならよかったが」
思わぬところからの援軍に、少しだけ驚いて後ろを見る、愛猫を撫でたままトレイン先生が俺に、何か間違ったことでもいったかね?と首をかしげげ、寮長たちを見回した
「彼女の処遇は私達教師の責任だが、その待遇を知りつつも何もしてこなかった諸君が声高らかに正論のように述べたところで効果はない。あくまで決定事項の連絡だ。それともなにか、エルヴァ先生が理性を忘れて獣のように女子生徒を襲うとでも?」
「第一、共同生活もほんの二、三日ですよ、それまでにあのボロ寮を少なくとも雨風しのげる程度にしなければいけないだけですよ」
二人の言葉に、寮長側からの反論意見はそれ以上出てこなかった。でも今俺、言葉できれいにけなされた気がする。確かに監督生ちゃんに手を出すことはない。絶対にだ。でも、でもだよ、今、彼らの目と雰囲気から「どうせPTAが怖くてそんな大外れたことできないやつなんだからしばらく我慢しとけばどうにかなる」と聞こえた気がする。
いまだ不満げにちらちらとこちらに視線をやる子供たちに、俺はにっこりと笑みを向けた
「まあ、君らが心配になるのも無理はないからね。でも、信用されてないなんて、僕、ちょっとかなしいな…」
しゅんと、まるで涙をぬぐうような動作と、儚く見えるように俯きがちにそう述べれば。「ちがっ、そんな意味では…!」とか「な、泣く必要なんてどこにも…!」という、励ましやら混乱やらが混ざった、可愛い可愛い、まだまだ詰めの甘い生徒の声。いやぁ、先生、君らが良い子に育ってうれしいよ!!教師陣営から「よくやるなこいつ」みたいな目線をもらうけれど、そんなの関係ない。今は彼らを説き伏せてしまうことが大事だ。彼らは納得しないと自分の実家に手紙を出して、王族やら貴族やらPTAやらから苦情が来るので、そこをあやふやにしておくことはできないのだ。
しばらくして、寮長たちから「僕たちはエルヴァ先生を信用しているので!」という言葉と、僕の「ほんとう?うれしい…」という若干芝居と媚売りの入ったセリフでその会議は幕を閉じた。こんなことしてるけれど、俺は一応170後半くらいの身長はある人間だ。最初はこういうキャラ付けこそ吐き気がしたが、次第に、楽だと気づいてからは遠慮なく使わせてもらっている。
「では、以上をもって寮長会議を閉会させていただきます」
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