▼ 5
わざと技がぶつかり合う直前に、鬼と人の間に女が入り込んだ。肩先まで延ばされた髪がさらさらと音を立てて揺れる。
その色に、人間は息をのむ。
知っている、髪の色だったから。
だって、その色は。あの夜、彼女が唯一見せた彼女の一部だったから。
「どうして、きみが…」
「どうして邪魔をする!!魘夢!!!」
怒鳴る様に、上弦の参が叫んだ。
その様子に女が笑みを浮かべ、挑発的に笑って見せる
「猗窩座、私はね、死にたかったの。思い出せない。いつだったかな、おもいだせないけど。死にたかった」
「鬼同士の争いなど不毛でしかーーーーっ、き、さま。どうして頸を斬られているっ」
「死にたかった。いつ死んでもよかった。だから、鬼にされてもどうでもよかった。この苦しみから逃れられるなら、どうでもよかった。でもね、なんでだろう。会いたかったのに逢いたくなかったの。でも、最後くらい全力で、足掻きたかったの。だから殺させない、殺させてあげない。だって、私、今きっと、鬼になってよかったって、思ってるから」
鬼にならなければ逢えなかったと思うから。
鬼にならなければ、私はきっとあの失意のまま死んでいたから
「でも、一人で死ぬのは、さびしいの、だから、せめて一緒に死んでよ。猗窩座」
愚か者が、と吐き捨てられた。猗窩座は自分の腕を切ったまま逃亡した。腹の中に埋め込まれた猗窩座の腕を私の首を切った少年の方へと投げ捨て、オニイサンに向き直った
「どう、して」
「どうしてだろう。でも、言ったでしょう。私も、逢いたかったんだ」
「君は、鬼だったのか」
「知ってたでしょうおにいさん。知ってて見逃したんでしょう」
「−−−どうして、身体が崩れているんだ」
「頸を、斬ってもらったの。本当は、おにいさんに斬ってもらいたかったんだけどね」
太陽が、姿を現す。
身体が焼け付くように痛かった
「隠れろ、隠れるんだ…!俺は、君には言いたいことが、たくさんある」
「でも、頸を斬られてるから、どっちみち消えてしまうよ」
大きな体躯で私を抱きしめ、日の光から逃そうとするその背中に、すでに崩れてほぼ原形をとどめていない腕を回す。
「これを飲めば、頸の件はどうにかなるかもしれないけれど、もう、いいんだ。ねえ、これあげるよ」
「ふざけるなっ!どうして諦める!」
「だって私鬼だよ、オニイサン。私は」
「関係あるものか!俺はっ俺はっ、…俺が、願ったんだ。君を鬼と知っていながら、頼むから…」
どうして泣くのかわからなかった。けれど、■■も…父も、母も、妹たちも泣いていた。あの時、鬼になった日、泣いていた。
こちらをまっすぐと、涙の流れる瞳で見据え、オニイサンが叫ぶ
「君が君をあきらめても!俺が君を諦めないっ!!」
もう、手遅れなんだけれどなぁ。意固地な子供を見ている気持ちで、でも、私も願ってしまった
「じゃあ、もしも来世で逢えたのなら…その時は…」
私を幸せにしてくれますか?おにいさん。
「ああ、あとね、オニイサン、この草原、私の故郷だったの。あの列車も、私の父が作ったの。とっても、綺麗でしょう」
「―――っ」
「本当はね、楽しかったんだと思う、私も。楽しかったのだ。だから、本当に、来世でまみえることができたのなら。―――。」
そう言って、私の生は終わった
prev / next
目次に戻る