▼ 4
あの方から、血を、さらに分け与えられた。私以外の下弦は死んでしまった。私も死にたかった。
だって死ねば■■にあえるかもしれない。■■は、なんていうんだろう。■は、それで、それで…?
ああ、何を言いたかったんだろうか。
『お前は最近腑抜けているな、魘夢。私の期待を裏切るな。柱を殺せ、そして、耳飾りのついた隊士をーーー』
あの人の声が頭の中で何度も何度もこだました。けれど私は、私はもうとっくの昔に諦めてるんだ。人を喰うことを。食わなければ生きていけない。生きてはいけないけれど、それは別に毎日じゃなくたっていいって己を欺き続けて一月経つ
『アンタ、なんで前より弱ってんのよ』
『おいしい人間がいないのかい?しょうがないなぁ俺がとっておきの稀血を分けてやるよ』
『…人を、食べろ…』
脳裏に横切る彼らの言葉に何と、私は返したのだろうか、覚えてない。覚えてなくてもいいことだ。だって本当に覚えておきたいことも、見たい夢も、どうせ、すぐに忘れて見えなくなっていくんだから。
乗客も、鬼殺隊も眠らせた。眠らせた、走る列車の、私自身の上で私は空を見上げる。ああ、本当に月がきれいだね。
これから、何をすればいいんだろう、食べればいいんだろうか、人を、オニイサンを。なんとなく、それは嫌だなって思った。胸が苦しい。全員眠らせたんだ。死にたいと願った全員、でもなぜだろう、なんでーーー。
「あ、起きた」
一人だけ、起きた。
こちらに向かってくる気配がする。
オニイサンじゃない。あの人が言ってた、耳飾りの子供。
少しだけ、残念に思う。頸を狙う刀を避けて、ただその少年を見て、列車を止めた。広々とした草原の広がるその場所に、少年が困惑しながらこちらを見つめた
「殺してくれるの?」
「…え」
「私を、殺してくれるんでしょう。だったら。この車両の先頭に行けばいい。そこが私の弱点。」
私の頸(本体)はそこだから。だから、早く消えて。
教えたんだから、絶対に切ってよ。そう言って背を向ける。いつの間にかオニイサンも、車内の人間が起きる気配がする。無我夢中で走らせたせいか、あと数刻もすれば日が照る。
そうだ、私は死にたかった。
消えたかった。消えて■■の元へと行きたかった、また一緒に、列車を見たかった、写真を撮って、何でもないように笑いかけてもらって、それから…
頸に、一本の線が入る。
――――――ああ、終われたと思った。
それなのに頸が転がらない。つながったまま、ただ、指の先から少しずつ身体が崩れていく。
聞いたことがある、無惨様の血を一定数以上受け取ると首を斬られても死ななくなることがあるらしい。私は多くの血をもらった、そして多分、首を斬られても死なない身体に、なりかけていたんだと思う。だから、こんなにゆっくりと消えていくんだ。
その事実に、どうしてか、安堵した。
そして考える。最後くらい、じぶんのこころのままに、いきてみちゃ、だめだろうか
立ち上がって、そして歩き出す。
指先から粒子のように空気へと溶けていく身体に、自嘲の笑みを浮かべた。
私の本体は紛れもなくこの列車だった。■■が残したこの列車だった。
けれども、私はーーー。
prev / next
目次に戻る