ハイハイさよならまた来世!! | ナノ


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次の日もまた男が来た




「町の人々に聞いた。ココが昔、小さな駅だった頃の話を」
「そっか」
「ああ。だがその話は数十年前の話で、君のように年若い者が知っているにはおかしな話らしい」
「そっか。でも、私は知ってるんだよ。誰よりも、詳しく。知ってる」




そう、誰よりもーー、知っているはずだった。

でも、もう思い出せない話だ。昔の話だ。それを告げる気にはならない。




「ねえ、おにいさん」
「なんだ」
「ふふっ、なんでそんなに怖い声出すかなぁ。……。私はね、月が好きなんだよ。太陽も好き。なんででしょう」
「それを、知り合って間もない俺に聞くのだな、…むぅ…弁当か?」
「馬鹿なの??」
「よもっ…!?」




鳴き声のような声にもう一度くすくすと笑う。零れた笑みに揺れる髪が音を立てていた。

不思議そうにこちらを見つめる男の気配にさらにおかしくて、また笑う。




「私ね、列車が好きなんだ」
「だから、ここに居るのか?」
「うん、あとね、覚えてないけど、この列車―――」




誰が、作ったんだっけ…。
不意に途切れたそれに喉を抑えて、下を向く。今、何か、情景が走った気がした。何か、思い出しそうだった。




「ど、どうした?」
「―――ううん。何でもないよ。オニイサン。わるいけど、今宵はここまで」





数日後



「それでだな!同僚が!」
「オニイサンさ、ここの情報収集とかもういいの」




ここ数日、食べ物の話と同僚の話と家族の話しかしてないけど。

それってどうなんだろうと“私”に寄りかかりながら聞き出せば不思議そうにこちらを見つめるその瞳に頭を抑えた。列車越しにこちらを見つめる、その目がどういう感情を彩らせてるのかわからなくて、見えていないと分かりつつも目をそらす




「ふむ、いやなに、あのような辛気臭い話題よりも君と話したいと思ったのだ!」
「まあ、自殺の名所の下りをするよりは今の話の方が断然平和的なのは間違いないけど…」
「それに!俺が君のことを知りたいと思った!」
「私の事?」




私のことなど知ってどうするのだろう、よくわからない人間。
けれど不思議なことにも突き放す気にはならなかった。だから少しずつ自分のことを話す。いつもここで月を見ていること、たまに親戚に呼ばれるからいない時があること、なぜか昔から列車が好きなこと。それを数日かけて話した


ある日のことだったと思う、いまだ顔も合わせたことがない男が私の顔を見たいと言った。その言葉に私は己と彼の関りがそこで終わりを告げたことを確信する。




「俺は今日不思議な兄妹を見た。ソレで君のことを思い出したんだ。近々俺は少々危険な任務へと向かう。その前に君の顔を見たいと思った!」




見れてなかったしな!ついでと言わんばかりの声に、ただ小さく「そう」とだけをかえし、列車に背を預けた。
なんていう言葉をつなげるべきだろう。何を、言えばいいのだろう。月を見上げて口を開けば零れる言葉に、私は苦笑した。わかってたはずでしょう




「すぐ逢えるよ」
「む?」




だって、きっと君が行く任務は、倒すべき相手は、私だから。

行き先を告げられてなんとなく予感していた。だってそこは次の狩場だもの。



「……あのね、おにいさん」
「…?」
「私も、オニイサンと逢ってみたかったから、楽しみだね」




ベベンッと私の耳がそんな音を拾った。




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