ハイハイさよならまた来世!! | ナノ


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昔から、なぜか列車が好きだった。あの黒くてつやつやした車体。煙を吹きだす煙突の形。明らかに身体に悪そうな黒よりの灰色っぽい煙幕に、どこか聴き入ってしまいそうな程には心地よい音。何よりシュッシュッシュッと繰り返される独特のリズムがたまらなくて、いつかは■■のようになりたいと願い、■■に連れられては写真を撮り笑みを浮かべていたと思う。

だから、ある時に壊れたそのささやかな幸せを、私はいつでも夢見てる。



叫んだ。喉がかすれてしまうほどには、

嘆いた。涙が枯れてしまうほどには





『かわいそうに…。忘れた方が幸せだろう』




ちっともかわいそうなんて思っていない声だった。ただ、どこか楽し気で、どこか愉悦を含んだその声に、私は縋ってしまったんだ。■■のことを、夢のことを、幸せを、この苦しさから逃れる術(すべ)があるならと、私は願い、縋って、醜くも乞(こ)うたのだ。

■■…。それは■で、幸福な、ただの■■に過ぎなかったのか、夢を見たかった。幸せな夢を、他の誰でもなく、私が、見たかった。




それが何だったのかはわからない。鬼になってしまった今でも思い出せない。ただ、わかること、わかることは、ただ一つで…。私は大切だった何かを置いてきたということだけだった。私は今日もこの列車となり、好きだったソレで人を食らう。こうまでしていきたいと願う理由は何だろう。こうまでして、醜い私を誰が救ってくれるのだろう、

だって、私はいつでもすくってばかりではないか。


生きるのがつらいのだと嘆く男がいた。だから、幸せな夢を見せる条件で私はそいつを食らった。おいしくはない。でも、食べねば生きていけないのだから、食べないといけない。

もう、病気で長くないのだと、吐き捨てた女がいた。だから、死の間際に家族と笑いあう夢を見せて安らかに死んだのを確認し食(は)んだ。何も感じなかった。

駆け落ちをした男女が居た。引き裂かれるくらいなら死んでしまいたいのだと、私に請うた。だから、二人の夢をつなぎ合わせて幸せな家庭を気づく夢を見せて殺し、食べた。なぜか泣きたくなった。



――夢を見る。幸せな夢を。

けれど、鬼の身体は寝なくてもいいから、私は眠れなかった。



私と目が合って、私が望めば鬼でも人でも眠ることができる。対象の考えうる、最大の幸福に満ち溢れた夢を、見ることができる。この能力と人を食らい続けたことで私はいつの間にか下弦の壱という数字をもらっていた。血を与えられる。さらに力が増した。

上弦やあの御方の願いで、私は今日も夢を見せる。


幸せな夢を、私以外が幸福となる夢を、今日も見せるのだ。




『魘夢、お前の力は素晴らしいな。お前を鬼にしてよかったよ』




うれしそうな声音と共に頭を撫でられる。何も感じなかった。
ただ、そうなのか、良かったね。それだけ。敬意がないことを分かっているはずのあの方は満足げに笑うと、褒美と言わんばかりに小瓶に入る血を渡した。それを目の前で飲み干せば、また頭を撫でられる。

私は、いったい何のためにこんなことをしているのだろう。



首を傾げ、昔もらった小瓶を眺める。月の光を受けて輝くその中には無惨様の血が入っていた。己の狩場になっている列車に背中を預けて死にたいと願う人間へと手紙を送った。どこからうわさが立っているのかはわからないけれど、私の下にはいつも死にたい人間が集うのだ。

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