ハイハイさよならまた来世!! | ナノ


▼ 7

煉獄杏寿郎は昔から、何かを探す子供だったという

それは決まって満月の夜だったり、列車の特集がテレビで放映された日だったり、少し寂れたような駅に足を運んだ時だったり、なんの面白味もない、緑色の草原があたり一面に広がるのを見た時だったりと、ある程度パターンが決まっていた。


何かを探し、あたりを見回しては落胆して、月を見上げれば涙を流す、そんな幼少期だったという。


常に心がぽっかりと空いてしまっていたような喪失感。


普通の子供ならば、そこで擦れるものだが、本来の気質のおかげが、煉獄杏寿郎は一般的に好青年と呼ばれる部類の成人男性に成長した。

中学高校大学と実に充実した日々を過ごし、教務員試験をも合格し、晴れて社会人となった煉獄はいまだに己が探すソレが何かもわからないまま、期待と、どこか焦る気持ちを胸に。月を見上げる。大学で出会った、同じ教師を目指す派手好きの友人に懐かしいものを感じ、その想いを告げれば、苦々しく言われた言葉に理解などできなかった




『まあ、アレだお前。昔、相当参ってたしなぁ』




いつの昔なのかわからずとも、本来そこまで気に掛ける性分ではない煉獄は、そうかと頷いて話題を終わらせる。

だから、不思議だった。


あの日、図書館で出会った一人の生徒と思しき人物に心惹かれる自分が、ひどく不思議だった。


この学園においていくつかあるうちの一つである図書館には、何気なしに足を踏み入れたのだ。別にいつもここに足を運んでいるわけではなかった、何なら一月に一度訪れればいい方だったと思う。


なぜか身体をこわばらせ、息を殺す人の気配に、思わず声をかけてしまった。そして、すべてはそこから始まったのだ。



不思議な会合だった。不思議な出会いだった。けれど…、どうしようもなく、その日、出会ったその生徒が気になった。

だから、自分で呆れてしまうほどには通った。


彼女は昼休みにいつもいると言っていたけれど、放課後すらも図書館へと足を運び、彼女がいないか確認する日々。本棚越しの逢瀬に心躍って、関連する話題に口を開いて、ほんの少しの愚痴を交わし、穏やかな時間を過ごす。


たったそれだけのことが幸せで、煉獄は己が彼女に惹かれてることを自覚した。


少女と出会ってから、あの飢えたような苦しみも、何かを探すような動作もなりを潜め、夢を見始めた。己が刀を持って鬼と戦う夢を。


その中で、いつも一つの列車を挟んで誰かと話している。


夢の中の自分は、彼女が人ならざるものだと知っていながら目をつむり、あまつさえその会合を楽しみとしている夢。




―――これは俗にいう前世の記憶なのではないかと、煉獄は思った、だから彼女に問いかけた。



―――そして




「今日はーーー。ここまで」
『今宵はここまで。』




ソレが、合図のようにはじけ、一気に流れこんでくる記憶に、煉獄は息をのんだ。

思い出した。ああ、思い出したとも。君はーーー。


廻り逢えたのだと、理解した途端に沸き上がった激情を、なんと表せばよいのか。顔を見たことがない、視線を絡めたことすらない。けれど、確信していた。本棚の先には彼女がいるのだと、確信して、うれしかった。


そして、彼女がきっと自分に姿を見せないのは何か理由があるのだと、煉獄は考え、今すぐにでも追いかけ、抱きしめて、言いたいことがあれども我慢した。


いつか、彼女から姿を見せてくれると信じて。―――、それなのに、この仕打ちはなんだ


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