ハイハイさよならまた来世!! | ナノ


▼ 3

「また、被ったんだ…」
「俺も最近は忙しいからな!」




数十日が経過して、私とオニイサンはよく図書室で話すようになった。

あの時とは違う。少しだけ分厚い、けれど列車よりも薄い本棚一枚を間に挟んで話す。




「そういえば最近は不審者が多い、気を付けるように!」
「ふーん。おにいさんもね」
「俺は男だから平気だ!」
「そんなもの?」
「ああ!」




互い、目は本の羅列に沿って動き、口だけで言葉を交わす。
私達が読む本のジャンルはいつも決まっていた。私が列車関連の本で、オニイサンは道の駅や駅弁が乗っている図鑑。共通点はどちらも鉄道系ということ。




「オニイサン、前に趣味は食べる事って言ってたけど、他の本とか興味ないの」
「うむ…、それは宇髄にも言われたが…、なぜか昔から駅弁や駅の名前に強く関心を持っていてなぁ…。君はどうして列車や汽車の本ばかりなんだ?電車に興味はないのか?」
「私は…、そうだなぁ…。どうしてだろう。」
「君も俺とほぼ似たようなものじゃないか」
「そうかもね」




少しだけ、不機嫌そうな気配に、私はふふっと笑う。
それに動揺したのか、向こう側から聞こえるページをめくる音が消えて、何か、注意深そうに探る気配に、さらにおかしくて笑った




「さてと、オニイサン、またね」




本棚の間を抜けて奥の方にある扉を開ける。少しだけ赤みを帯びた放課後の景色。それに目を緩ませて、私はいつものように廊下を歩いた。








「お、今日もいるな!」
「お昼休みは基本的に暇だからね」
「なるほど!勉強はどうだ?」
「楽勝。」
「うむ!教師としてうれしい限りの言葉だな!」
「オニイサン、ここでは生徒も教師も関係ないって話、わすれたの?」




オニイサンから言い出したんですけど?少しだけ不機嫌ですと言わんばかりの声を出してみれば、慌てたように謝罪が飛んでくる。素直なことは良いことだけれど、自分の言った言葉を忘れるのはどうかと思うよ。

蝉の声がガラス越しに鳴り響く、クーラーのつかない部屋で私たちは今日も話し合う。

今日の出来事、休みの日は何をしていたのか、何を考えていたのか。


気取らなくていい、この時間は酷く心地が良い。


オニイサンは話し相手が私と知れればびっくりするだろうか、己の担当している生徒の一人だと知れれば、驚くだろうか



いいや、と、首を振る。



下らぬ幻想だ、下らぬ願いだ。もう、彼と私は立場が違う。

狩る者と狩れるモノ。
歓迎される人と忌避されるモノ

……疎まれる私という鬼と、頼りにされ、必要とされる柱という彼。あのころとは違うのだ。


交わる機会がなさそうであった、あの時代とは違う。



この、穏やかで優しい時の流れだけで満足だ。



少しだけ開けた窓から入る生暖かな風に髪を遊ばせ、瞼を閉じる


今日もまた、この時間の終わりを告げるチャイムが響いた。





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