おねショタ(概念)番外編 | ナノ


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今は昔、竹取の翁というものありけり。
その物語は紡ぎ手の口からそう発せられた。誰しもが彼女の話す異国の物語に期待を寄せて瞳を輝かせる


昔々、あるところにそれはそれは仲のいい夫婦が住んでいました。夫の翁(といってもまだ若いのですが)は剣技の達人でありながら竹を切っては物を作り、妻である女性は大層美しく、それと同時に頑丈な体で仕事をしておりました。しかし二人には子供がません。仲睦まじい夫婦は嘆き悲しみ、子宝に恵まれるようにとそれはそれは熱心に神社へと通います。そんなときです、夫である伊黒が光る竹からまるで玉のように美しい赤子を拾ってきたのは。


「これはきっと神様からの贈り物だわ」
「ああ、そうだな」


この子の名前は何としましょう。そう楽し気に笑う妻の甘露寺に伊黒は大層嬉しくなって、その小さな子供のまろい頬をつつきます


さて、月日が経つのは早いモノ、子供の成長も早いものと言いましょう、竹から生まれたその女の子は月の光にも劣らぬ金髪で、目は遠方で取引される翡翠に似た瞳を持つ美女へと成長しました。彼女の元へは噂を聞きつけた男どもが我先にと面会を求め、そのいじらしい仕草とどこか妖艶な微笑みに誰もが心をーーー、奪われるわけではなく、まず先に言い含めた


―――もしも自分との間に子供ができたとしても決して手を出さないでくれ


「出しません」


それは結構ガチなトーンだったという。そもそも結婚すらしていない未婚の女性に対してその言い草は何事かと頬を膨らませてから彼女は兄のように()慕う伊黒へと泣きつきました


「求婚してくる人たちが私のことをいじめる…」
「そうか、それでは俺がどうにかしてやろう」
「伊黒…」
「ところで鏡子」
「?」
「先日来た刀鍛冶屋の弟子を誑かしたというのは本当か?」
「違う、やってない」


色の違う双眼が少しだけ引いたような色をしたのを見て、かぐや姫こと鏡子は全力で首を振った。何もしていない。私は何もしていない。

さて、このようにどこか平和で面白おかしく日々を過ごしていたかぐや姫ですが、とうとう婿選びが進み、最終的には5人の顔立ち、教養、気品、地位の高い者たちが他の男たちを押しのけて彼女へと求婚しました。彼女的には時代も時代でしたので誰でもよかったのですがそこに立ちはだかるのはお爺さん()という壁。お爺さんは貴族相手に経緯も何もかも取っ払ってかぐや姫の前に(物理的に)立つと言い放ちました


「ならば、俺が言う伝説の宝の数々を持ってこい。一番早く持ってきた輩に鏡子をやろう」
「あれ、私の意志は??」


首をかしげるかぐや姫などの目にもくれずにお爺さんは口を開きました


「仏の御石の鉢」、「蓬莱の玉の枝(根が銀、茎が金、実が真珠の木の枝)」、「火鼠の裘(かわごろも、焼いても燃えない布)」、「龍の首の珠」、「燕の産んだ子安貝」このどれかを先に持ってきたものにかぐや姫を嫁に出そうと。そして貴族たちが帰ったあと、お爺さんは手紙を出しました。それはお爺さんが若いころ(といってもまだ若い)に世話になった伝説の宝の数々を持つ柱と呼ばれる者たちにです。


仏の御石の鉢は岩柱
蓬莱の玉の枝は蟲柱
火鼠の裘は炎柱
龍の首の珠は水柱
燕の産んだ子安貝は音柱


と呼ばれる人の世を憂いた五人の柱(仙人)が管理して持っておりました。人の力ではどうにもできぬ柱達に勝負を挑まねば手に入らない宝たち、そもそもお爺さんはかぐや姫を嫁に出す気などありません。とんだ出来レースです


【というわけだお前たち。絶対に宝を渡すなよ】


もはや命令に近いモノでした。渡せば殺すと字面に現れるその手紙に柱達は頭を抱えます。
特に頭を抱えたのは燕の産んだ子安貝を管理する音柱です。つい先日柱となったばかりの霞柱にそれを貸し出していたため、手元にはなく、急いで取り寄せます。

さて、そんな手紙から早数日、柱達に心身ともにボコられた貴族たちはそれぞれが偽物をもってかぐや姫の屋敷に訪れると、意気揚々に偽物をお爺さんの前へと置くと自分がいかにして苦労したのかを語り出しました。その面の皮の厚さに青筋すら浮かびそうな伊黒でしたが、その横に座る奥方が無邪気にも次々と論破していきます。曰くならば火にかけて見ようだとかソレはただの鉢だわとか、存外目利きだった甘露寺を騙すことはできず、その間にも報酬が払われていないと詰め寄る人の混乱に乗じて貴族とかぐや姫の縁談は流れてしまった。

このころになるとかぐや姫は自分が結婚することをあきらめていました、そう、いくら美しかろうと、いくら魅惑の身体つきをしていようと、あの両親を納得させることのできる婿などいないと思えたのです。そんなかぐや姫の様子を月から眺めていた産屋敷というお偉い神様はとてもとても同情して月の迎えをよこしました。けれどもお爺さんはそれを力技で跳ねのけます。曲がり腐っても月の都のお迎えです。腕の立つ新人三人に引率一名だったのですが、お爺さんは引率を丸め込み、新人三人に稽古を付けて月へと帰らせました。

月のお迎えが来なかったかぐや姫はやさしい()お爺さんとお婆さんに囲まれて幸せに、けれどどこかで何かがおかしいと思いつつも暮らしたといいます。めでたしめでたし








「以上」
「モブ子、それは前聞いた話とは違う気がします…」
「いや、でも私のナカの何かがこの話をしろと囁くから…」




めでたしめでたし。


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