おねショタ(概念)番外編 | ナノ


▼ 8

まさかの鬼に拉致された幼女は思っていた、なんで私こんなところにいるんだろ。目の前に広げられる豪勢な食事はすべて幼女のために用意されたものらしい。後ろの方で控える人間たちが何か尊いものを視るようなまなざしでこちらを見ているのが少しだけ気になった。
                                       

「どれもこれもおいしいんだぜ?俺は食べたことないけどね」
「そ、そうなんだぁ」


笑顔で言う男に幼女は顔を引ききつらせて、そっと目線を食べ物の方へと向けてみたり、幼女の乗せる男に向けたりしてみるが笑みを返されるだけだった。

ひどすぎる、人攫いに攫われた末路がこんなんなのって酷い。その西洋人形じみた顔に精いっぱいの微笑みを乗せて幼女は肯定の意を表して目をそらした。


無理がある。幼女には無理があるよ、大人に対して笑みを向けるのは得意だった。どんな大人も藤野が笑みを向けるだけでコロリと機嫌を直す。けれども何だろうこの鬼のような人のどことなくあふれ出る中身子供説。

これもどう?これすごくない?こんなのもあるんだぜ?と、小さな子供が大人にみせるような感じで楽しそうに瞳きらめかせながら、こちらを覗き見る顔がひどく楽しそうでむずむずする。


「おにいさん…。あのぉ…」
「うん?口に合わなかったか?」
「ち、違うよ、違う…。あのね。お兄さんも食べないの?」


こてんと自分の膝の上で首傾げる幼女に鬼は動きを止めて見つめる。きらきらと光る翡翠の瞳がどことなくあの親子を思い出させる。そう思えばなぜか自然に愛着がわいてきた。虹色の瞳を細め、ゆっくりと黄金色の頭をなでながら童磨は思う。あの時の親子は自分が鬼とわかったから殺さねばならなかったけれど、どうだろう。この子を鬼にすればきっと未来永劫この輝かしい翡翠の瞳も、月に反射する金色色の髪も眺めることができるのでは、と。


「そうだ、君を鬼にしてやろう。大きくなったら、鬼にしてやろうな」


幼女の頭を撫でながらその言葉を放てば、目の前にいる人間の子供が固まる。そうだ。鬼にしてやろう。今鬼にするのは酷くかわいそうだ。無惨の血は順応する時とても痛い。馴染むまでがひどくつらいと覚えている。だから、せめて大きくなって、その体が痛みに耐えれるようになったら鬼にしてやろう。


「なぁ、翡翠」
「……」


小さな人間の少女は答えない。ただ、手に持った果実をじっと見つめて、そのきらきら光る翡翠色の瞳をさまよわせるだけだ。どことなくひきつったような笑みに少しだけ思うところはあれど、童磨はいつものように、慈しむためだけの、仮初の笑みを浮かべながらその頭をなでた。さらりとした、きっちりと手入れされている髪は極上といっても差し支えない手触りで、きっとおいしいのだろと思う。人の女はうまい。子供もうまい。


「おにいちゃん」


少しだけ邪な考えをしている己の思考を遮る小雀のような声音にそちらに目線を上げればにっこりと極上の笑みを浮かべた幼女がいた。灯篭に照らされる明かりが少しだけ蒼くなった頬を照らすが、それすら些細なことといわんばかりに向けられる幸せそう(に見える)笑みに思わず固まる。

………そう、なまじ散々西洋人形()じみた容姿と揶揄されているわけではない。時代が時代で国が国なら神に愛されし()巫女()として崇め奉られたほどの容姿を持つ幼女は鬼をも固まらせる微笑み方を兄弟子から伝授されていた、下手な人攫いなればこの笑みで十分に元の場所に戻し、ついでに金子も持たせてくれるという優れモノである。約束された幼女の微笑みは強いのである。むしろ宝具であると幼女は自覚していた。くいっぱぐれたから顔で食っていけ、その前に俺は頼れよと散々言い含められているため、幼女は将来お金に困ることはそうそうないだろう。幼いながらもそれを良く理解している幼女は強かった。

さて、そんな幼女の微笑みをダイレクトに食らった鬼こと上弦の童磨は見事に固まった。思考が一時停止するくらいには衝撃だった良い方の意味で。本当に、そういう嗜好をした人間にはたまらない顔をしているのだろうなと思う。儚く、どことなく神聖さを感じる容姿は神を信じていない童磨から見ても、もしかしたら神はいるのでは?と一瞬思考するくらいには美しい。そして、それがまだ開花しきっていないというのだから末恐ろしい子供である。大きくなればさぞかし男を傅かせ(※傅かされるほう(柱合会議))、手玉に取り(※よく弄られる)、屋敷の奥で大事に大事に囲われる美女になるのだろう(※元気に同僚の鬼の頸を跳ね飛ばしている)

そんな幼女がこちらを見て呼びかけた。返事をする以外の選択肢は残念ながら童磨にはない。


「どうした?」
「大きくなったらおにいさんのお嫁さんになるね?」


はてさて、約束された絶対の美を体現したような幼女()に言われてうれしくない大人はいまい。信者は膝をついて涙を流し崇め始めた、童磨も珍しくその顔をゆるめて、そっかぁと返す。ニコニコとほほ笑む幼女の首筋を流れる冷汗なんてみえなかった。だからこそ幼女の取る行動の予想することができなかった。そもそも幼女の行動を予測して先回りし、なおかつ行動のすべてを管理できる人間は幼少期を一緒に過ごした兄弟子か弟弟子か師範くらいのものである。

まあ、簡単に言うなれば、幼女はその顔面力をフルに活用して信者を誑し込む()と外に連れ出してもらい、そのまま巻いた。追っ手をそのまま巻いたのだ。ここで童磨が気づけば連れ戻したりもできただろうが、ただの一般人と幼女と言えど呼吸法が使える幼女の足の差、および体力の差など一目瞭然で、柱達が騒ぎ、慌てていた数刻のうちに幼女は鬼殺隊士を捕まえて戻ってきた。これには柱達も驚いたし、それ以上にほっとした。良かった。タイムリミット(伊黒の任務終了)までに見つかって。幼女()の顔が異常に良かったことに感謝するべきである。


「ごめんね!ごめんね!私が目を離したばっかりにっ!!」


しくしくと泣き始めてしまった蜜璃の頭を撫でて幼女は大丈夫だよと何度も言う。後ろで控えている水柱の二人がどこか困ったように目を合わせつつ、幼女と幼女(※大人)の様子を見ては黙った。次の預け先は水柱邸なのだが、蜜璃があの調子では引きはがせない


「ところで義勇」
「?」
「お前の鴉はどうした」
「…わからない」


たぶんまた道にでも迷っているのだろうとあたりをつけつつ、義勇は首を振った。義勇の鴉は基本、年を取っているせいか。いつでも道に迷うので、あとで探しに行かねばならないだろう。家の前で寝ているときは死んだかと思ったが、案外普通に息をしているし、生命力が強いので大丈夫だと思う。言葉にせずともわかる錆兎が、少しだけ不安そうに「そうか」と言葉をこぼした

……なんとなく、いやな予感がするのだ








「…?、今日は、お兄ちゃんたちのところに泊まるの?」


首を傾げ、上目遣いでこちらを見つめる幼女に水柱とその継子(※便宜上)は空を仰ぐ。もうすでに夕暮れに染まる空の下で二人に手をつながれながら歩く幼女は可愛かった。あの藤野にもこんな時期があるのかと思いつつ、それで、もしもあの鏡柱に子供ができればこうなるのかと思うと少しだけ胸にクるものがある。


「改めて自己紹介でもしようか。俺は錆兎。こっちが義勇だ。」
「義勇は知ってる。情けなかったから」


結構正直にものをいう幼女に義勇は固まった。確かに自分でも思う程度にはひどく情けないさまを不安がって泣きながら蛇柱の名を叫ぶこの子供にさらしたのを思い出す。控えめに言っても死にたかった。そんな相方の様子に頭を抱え、錆兎は握っていた手をやさしく離すと抱き上げた。ふんわりと、まるで重力を無視するかのような抱き方は、見る人が見れば幼女に羽が生えている幻覚を視れたかもしれない。

金色色の髪が少しだけ揺れて、翡翠色の瞳が空の色に交じり少しだけ赤みを帯びると驚いたように見開かれた


「わわっ」


さまよわせた手が錆兎の肩に乗せられ、子供らしい、少し遠慮のない握力で落とされないように掴まれる。けれどそれは別に鍛えぬいた、鬼との戦いに慣れている錆兎からすれば酷く可愛いもので、唇の端を持ち上げて笑みを作る。


「お前はまだ小さいからな。俺が抱えよう」
「むッ。小さくない、小さくないよ!私はこれでもお姉さんなの。弟弟子だって沢山いるわ」


ぷくぅと膨らませた頬を横から義勇の指が突けば、ぷしゅうぅううう。とひどく間抜けな音がした。まあ、つまり、その…、頬いっぱいに溜めて見せた空気が抜けていったのである。


「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「……すまない」


目に涙をため始めた幼女に思わず謝る。やって良い事といけない事があるだろうとは誰も言わなかった。言わなかったけれども、思った。突かれてあっけなく出て行った空気は空中で散開して消えていく。


「や、約束されし幼女の美貌に狼藉を働いた、だと…」
「お前はたまに子供とは思えないほど難しい言葉を使うな??」


どこで覚えたんだ狼藉なんて、伊黒か?伊黒なのか?でもあの伊黒が妹弟子にこのような言葉遣いを覚えさせるだろうか。端から見ても引くくらいには大事に大事に囲っている印象だったが…。

不思議そうに呟やいて見せた彼に笑みを見せるだけで何も答えない幼女は強かに黙秘権を行使した。


「錆兎、そろそろ屋敷に」
「そう、だな。夜も更ければ冷えてくる。行くぞ」
「俺も…」
「屋敷に帰ってからだ」


そっ、と腕を広げる義勇に笑みを浮かべたのち言い聞かせ、錆兎は先を急ぐ。こんな道の真ん中で義勇にこの子供を持たせてみろ。転ぶかもしれない。しっかりとしているように見えて案外どこか抜けている男なだけに不安だ。


「おろしてよー…」
「お前は目を離すとすぐに攫われるから駄目だ」
「攫われない」
「どの口が言うんだそれを」
「この口」
「減らず口め」
「ふぎゅ」


掴んだ頬が思った以上に柔らかい。そして滑らかな手触りだ。これが大きくなれば吸い付くような肌に変わるのだから末恐ろしい。この女は昔から人を魅了することにかけては一級品だな。本当に





「お帰り〜〜!まってたよ〜〜!」
「ま、真菰、もう少し丁寧に扱ってくれ」
「幼子は脆いからな。」
「はぁ〜〜。お肌がもちもちふわふわぁ〜〜。すっごい可愛い。」
「聞いていないな」

錆兎から藤野(幼女)を奪い取って抱きしめる、すっかり魅惑のもち肌に虜になった真菰には錆兎の声は届いておらず、少し抵抗する幼女を遠慮なく抱きつぶす。可愛そうなほどに腕を動かして小袖をパタパタ動かす姿は不謹慎ながらも愛らしい。


「もちもち…」
「あ、こら、義勇」


いつの間にか隣にいたはずの柱の姿が消え、幼女を反対側から突きその紅葉のように愛らしい手に触れて「むふふ」と笑う兄妹弟子たちに錆兎は頭を抱えた。総じて藤野のことが好きなメンツだ。こうなることも何となく予想していた。そして、己も少しどこか、いや、かなりうずうずとする欲がある。そうだ、これはもうあの可愛い生き物が悪いことにしよう。責任転換など男のすることではないが、少しくらいなら許されるに違いないと、ある意味大事な理性を錆兎は投げ捨てて、幸せそうな輪の中に加わった。




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