おねショタ(概念)番外編 | ナノ


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夕食時、男三人衆(煉獄家大中小)と御膳を並べ食事をし、必至に口を動かす藤野は思った。よく夢で見る、不思議な光景の中にあった、小さな箱の中の物語を思い出す。すなわちそれは後の世で大ヒットとなる映画であると、朧気に覚えていた。

―――ト〇ロみたいだなぁ

この夢が何なのかはわからないけれど、幼い己の理解を超えた何かだということは簡単に想像できていた。茄子の漬物を口に含める。幼い藤野の最後の記憶は久しぶりに再会した父母と共にカフェーで甘い飲み物を飲んでいる記憶である。外交官とやらの父は母を連れてよく遠い所に出かけている。仕事だと祖父は言うけれど、それが本当かどうかは知らず、ただそうなんだと漠然に思っていた。だからこそ、その楽しい逢瀬の合間、急に森の中に立たされ、知らぬ男が目の前に居た時、年相応に彼女は泣いた。俗にいうギャン泣きである。

さらにいうなら目の前に居た男もどうしていいのかわからないと言わんばかりに腕をさ迷わせ、しまいには泣きそうになっていた。頼りのない男である。泣きながらも藤野は自分にできることを最大限までしたつもりだ、伊黒の名前を呼んで祖父の名前を呼んだ。いつものならこのあたりでどこから出てきたのかはわからないけれど、伊黒が登場し抱き上げて目の前の不審者を再起不能なまでに痛めつけてくれるのだが、悲しきかな、こなかったのである。その原因を知るまで、というか目の前に居た男、冨岡が説明するまで一時間の時間を要した。その間に幼女の顔は酷くはれ上がり、瞼など見るも無残になったほどである。世界の大損失だったと言っても過言ではないと頭の中の女性が叫ぶ。


そもそも冨岡とかいうあの男が口下手すぎだったのかもしれない。


泣きやまぬ己におろおろとして何をすればいいのか困惑し、結局幼女が冷静になるまで一時間見つめていた男である。絶対に家庭を持っちゃいけないと思う。お嫁さんが過労で死ぬから。




「さて、藤野、そろそろ寝ようか!」
「うん」




腹が膨れたところで煉獄(中)からのお誘いに幼女は一も二もなく頷いてついてゆく。小さな方の煉獄も後から来るらしい。

襖を開けたそこに、大きめの布団が二つ敷かれていた。その上に転がりながら藤野(幼女)は一人になった部屋(煉獄は寝間着に着替えに行った)で考える。ココは俗にいう未来なのだと、一日を行動して理解した。ならば本来の自分はどうしたのだろう。けっきじゅつでと説明されても、それがどういうものなのか、幼女にはとんと見当がつかぬ。うんうん唸りながらころころと心地の良い布団を転がる。楽しい。今わかるのはそれだけだった。




「あれ、鏡子ちゃん、何してるんですか」
「考えてもわからないから転がってるの」
「な、なるほど、お暇な僕とおしゃべりでもしましょう」




煉獄(中)に似た煉獄(小)の提案に幼女は頷くと、転がったことで開けてしまった着物を整え、千寿郎と向き合う。




「えっと、何を話しましょうか、聞きたいことはりますか?」




人の好さそうな困り眉を下げて首をかしげる彼に、藤野はうんうんと考える。そしていくつか思い浮かび、無難な質問をした




「未来の私と千寿郎君とどんな関係だったの」
「恋人ですよ」




迷いがなくて引いた。




「あ、いえ、勿論僕がもう少し大きくなったらの話なんですけど…。数年前、町で迷子になっていた僕を助けてくれたのが未来の貴女で、その時にお約束を…」




顔を赤らめ、そう告げる少年にはとても心苦しいけれど、藤野は思う、きっと未来の私は慰めるために言ったんだと、告げようとして、やめた。幼い少年(今は自分の方が幼いが…)の夢を壊すことはないだろうと。もしもそれが本気で言ってるのであれば、未来の私は犯罪者なんじゃないかと、考え、やめる。深みにはまる気配がした。




「そう、なんだ」
「はい。…きっと未来の貴女はそんな気、露としてないんでしょうけど、言質は取るに越したことはないと思うので」
「そっか…」




そっか〜、ようじょわかんない


深く考える事を藤野はやめた。これは自分には手のつかぬ案件である。そんな自信があった。




だからこそ、煉獄(中)が寝間着に着替えた時にはもう寝ていたし、心地の良い夢の中でまどろみ、そして、明日の地獄に備えることにしたのである。



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