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「あんたいつまで寝てるのっ!!!」
突然の怒鳴り声に思わず布団を弾き飛ばしてあたりを見合せば、代り映えのない私の部屋が目に飛び込んできた。
―――あれ…?
私、寝ていたのか。腰まで流れた長い【黒髪】を一房つまんで首を傾げた。
長い、長い夢だった気がする。とてもリアルで、とても痛くて、でもとても暖かい夢だった。
ガラス越しに見える空は青くて、電柱には雀が止まっている。
「まったくもう。明日から大学生なのにそんなにゆっくりしてていいのかね」
「よくない」
「だろう?それに、そろそろ来るよ、遠方から」
「え、だれが?」
お父さんの紹介だっていうからどんな子だろうねとお母さんがつぶやく。お母さんのお父さん。つまり私のお爺ちゃんが誰かを我が家に呼んだらしい
「え?ああ、そうかあんたは初めてだったね、伊黒君、伊黒小芭内君だよ。さすがに電車に三時間揺られて通勤は難しいだろうってことでね、うちで預かることになったんだよ」
会ったことなかったもんね。
そういった母親の言葉に私は固まってしまう。その瞬間にひどく軽いチャイムの音が聞こえた。
それは、そう遠くない未来。再会した兄弟子から愛ある拳とお叱りの言葉を受けることを、私は知らない。そして、他にも記憶を所持した彼らに再会して泣かれることを、今の私は、想像すらしていない。
けれど誰かが言うのだ。これでハッピーエンドだねと。
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