おねショタ(概念)みたいな柱になった私の話 | ナノ


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 飛び出していく影に手を伸ばして、私は猪の被り物をした子の頭を掴み、継子を抱きかかえて猪の隊士を地面に押し付けた。紙一重のところで技が頭上を過ぎていく。




「いってぇーな!!何しやがる!!」
「もう少し考えて行動しなさい。継子ちゃん、異常はないね?」
「は、はい」




 腰に回していた腕をゆっくりと解いて、童磨を見据える、虹色の瞳が楽し気に輝いて悪趣味だ。不意に、乾いたような音が首筋から聞こえると、何かが水に落ちたような音がする。軽くなった頭部と首裏のちくりとした痛みに、後ろを振り向いた。
 豊かな稲穂色の髪がうねる様に蓮の花が浮かぶ水辺に揺られ、頭に手をやれば髪がない。数年かけて伸ばした私の髪が首筋あたりから乱雑に斬り飛ばされていることを理解して、さぁっと血の気が引いていく。




「―――っ!」
「お、おい、髪がっ」
「藤野さんっ!」




 気づかなかった事実に寒気がした。さっきの技で切られたのは明白だが、柱である私が気づかなかった、それが問題だろう。無事だった横髪に触れて息を吐く。そして動揺を悟らせないように笑った




「女の子の髪を切るなんて、無粋な鬼だこと」
「すっきりしただろう?翡翠。感謝してもいいぜ?」




 楽し気に微笑まれ、私も笑い返す。笑顔と笑顔の押収だった、笑みを崩すな。余裕そうに振る舞え。しのぶが継子に何かを伝えている。私は腰を落として、猪の被り物をした子供に囁いた




「そろそろ総攻撃を仕掛けるから、君も合わせなさい」




 何か言いたげに顔を上げた少年の頭を少しだけ撫でて、水の中を歩く。カナエが悲しそうに私の後ろ髪を見つめたが、すぐに上弦の弐を見据えると、駆け出した。身長もある彼女が殿を務め、私としのぶが後に続く


―――花の呼吸 伍の型 徒の芍薬――
―――蟲の呼吸 蜂牙ノ舞 真靡き―――
―――鏡の呼吸 弐の型 写し見―――


 息を合わせて其々の呼吸を打ち込む。スッと童磨の目が少しばかりの真剣みを帯びたことを感じて前に出る。その間にも胡蝶たちが何かを床へと投げ捨てて、後ろへと下がるのを確認し、息を詰めてから、鬼の懐へと潜り込んだ。冷気が肌にまとわりついて、血流の動きが鈍くなったような感覚を覚えたけれど、気にはしなかった


―――血鬼術 蓮葉氷
―――鏡の呼吸 弐の型 写し見




「――っ?」
「お返し」




 刀が凍り、小さく音を立てるとそのまま崩れていった。脇腹からどろりとした熱い何かが零れ落ち、膝をつく。けれど鬼は動けない。なぜなら自分の技を【そのまま】彼に帰ってきたから。私の鏡の呼吸は写し、返し、いなす技術だ。味方の攻撃も、敵の技も、すべて鏡のように写し、真似て、流す。味方の動きに合わせて技を写せば、それは両方から同じ攻撃を受けたように感じるだろう。鏡に映る姿に攻撃しても本体に傷が入らないように、流す技。
 攻撃なんて不得意分野だし、でも、昔から、何かを覚えて真似ることだけは得意だった私の、私だけの呼吸。そして、技をいなすことによって、鬼に鬼が放った技を返すことだってできる。さすがに、無傷ってわけにはいかなかったけれど。何度かせき込んで、切り刻まれた所から凍っていく童磨を見据えて笑う。傷ついたところから回復していく?そんなのできるわけない。この部屋に入ってきた瞬間から胡蝶たちは毒を撒いていた。少しずつ、少しずつ、毒を撒いて、気づきはしなかっただろうけれど、速度も、回復する速さも遅くなっていって。




「人間、甘く見ない方がいいよ。童磨」
「なら君も道ずれだよ、翡翠」




 奴の無事だった方の手が扇を掴んで私に振り下ろされる。


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