おねショタ(概念)みたいな柱になった私の話 | ナノ


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上弦の弐 童磨は困惑した、その感情は酷く初めてのもので、なぜだろうか、ひどく、見てはいけないものを見た気分だった。

豊かな胸をこれでもかといわんばかりにさらけ出し、押し上げたような、胸元。並みの男ならば土下座でもなんなりでもして縋り付きたくなるような太ももが惜しげもなく晒されて、西洋の混ざるその瞳と髪に見覚えがあり過ぎる。ちょうど今から一年ほど前に保護したわいいものの逃げられた幼女の面影を残す女である。




「え…。ひ、翡翠…?」




そう、瞳の色から翡翠と呼びながら可愛がっていた少女に似ているのだ。よくコロコロと笑い、その人形のような顔(かんばせ)をバラ色に染めながら笑みを浮かべた少女。過ごした日数は1日となかったけれど童磨は酷くその人間の虜になった。食べてしまおうと思ったその気持ちが吹き飛んでしまうくらいには可愛くて、大きくなったらお嫁さんにしてね(嘘)を真に受け、大人になったら鬼にして伴侶にするくらいには惚れ込んでいた。一年ほど前の話である。そんな幼女を大きくしたらこうなるだろうな(身体つきは分からない)が今まさに痴女のような格好で己の前にいる。童磨は酷く困惑した




「その節はどうも幼女の私がお世話になりましたじゃあ死ね!」




――鏡の呼吸 弐ノ型 破鏡不照――



童磨の耳に次々と鏡が割れる音が響き、近づく。それは鬼と違って実在しているわけではないのに、そう見えて、感じる。その技を自身の血鬼術で相殺して下がる。露出度高い服の割には大事なところが見えない。どうなっている、と考える頭の中に眼鏡をした男がゲス顔でサムズアップしている姿が思い浮かび、童磨は混乱した。とりあえず脳内で凍らせておく。



――花の呼吸 肆ノ型 紅花衣――
――蝶の呼吸 蜂牙ノ舞 真靡き――



女の技を避け、地に降り立った瞬間、背中に一太刀受けて、槍のような形状の刀で頸の後ろを貫かれる。

鋭い痛みと、少したってから全身が痺れるような感覚に、あの方が毒を操る剣士の話をしていたのを思い出す。藤の花の毒だったか、よくもまあ考え付いたものだ。

けれど今はそれに構っている暇はない。扇を振るい、血鬼術を展開させた。



――血鬼術 散り蓮華――



回避不可能の技を放ったはずだった。後ろにいた、最低二人、それを無力化できると考えた、けれど、それに合わせていつの間にか技を避けたはずの女が躍り出る




「傲慢。好きじゃないなぁ。私は」




――鏡の呼吸 参ノ型




「無駄だよ。この技を真正面から喰らおうだなんて考えないほうがいい。苦しいだけさ」




水月鏡花―――


確かに当たったはずの攻撃が音を立てて崩れ落ちると、氷で作られた華が音を立てて粉粒となり消えていく。その中に堂々たる姿で立ちふさがる女は、柱と呼ぶにふさわしかった。




「ははっ、きれいだぜ、翡翠」
「おねショタ()、成人男性の言葉わっかんなぁーい」




えーっ。と楽し気に笑う上弦の弐の頭ん中がマジでわからない。君知ってる??いま全力の殺意を向けられてるんだぜ…??脳内のおにロリ()が男に向かって言っているのを聞きながら胡蝶たちのほうへと下がる。




「君たち三人で俺の相手かい?鳴女ちゃんにはあとでお礼を言わないとなぁ。こうも極上な餌をこちらによこしてくれるなんて。ああ、安心してくれ、お前は食べないぜ、翡翠」
「残念ながらこの場に翡翠という名前の女性はいませんよ」
「ふふ、女の子の名前を間違えるなんて失礼な人ね」




にこにこにこにこにこにこ。

胡蝶二人は笑みで渡した後ろから駆け出すした。その拍子に見える指文字と呼ばれるそれに息をのむ。すごく、エゲツナイことをしてますね???

闇雲に刀を振るだけでなく、考えて、音を立てずに回り込む。




――鏡の呼吸 弐ノ型 写し見――




胡蝶姉妹に向けられた攻撃を引き受けて、弐ノ型で返せば、その合間を縫って胡蝶の毒が鬼の肩を貫いた。楽し気に笑みを浮かべて溶かしていく姿はぞっとする。なんで毒効かないんだこいつ




「いやぁ、すごいね。連携が奇麗に取られてる」
「あの顔腹立つ」
「わかります」
「ええ、ほんとうに、こちらをとことん子馬鹿にした感じ」
「子馬鹿になんてしてないぜ?人という儚い生き物が必死に抗って俺に対抗しようとしてる。とても尊くて愛おしいと俺は思う」




…………あの鬼、今、賛辞の皮被せた侮辱を吐いたな…??

キュッとこぶしを握り締めながら、目の前の鬼を睨みつつ、私は息を吸い込む。すぅぅぅううううっと、両端から聞こえる呼吸音。にこにことほほ笑む男は扇を広げた




「けれど、そろそろ終わりにしないとね。俺も暇じゃないんだ」




――血鬼術 寒烈の白姫――


二人の巫女のような氷の銅像が息を吹きだせば、そこから辺り一面が凍っていく。――これはっ…!さすがに回避不可能だ。これは技じゃなく現象に近い、写し見でも




「こういうのも出来るんだぜ?」



――血鬼術 冬ざれ氷柱――




「「「――っ」」」




――鏡の呼吸 漆ノ型 八咫鏡――
――花の呼吸 弐ノ型 御影梅――




カナエと共に息を合わせて上から降り注ぐ強大な氷柱(ツララ)を切り伏せれば、その小さな体を生かして私とカナエの間を縫うようにしのぶが駆け出し、足に力を入れるとともに不規則に敷く氷の地表を踏み抜いた



――蟲の呼吸  蜈蚣の舞い 百足蛇腹――


ヒビの入る薄氷が砕け、歯をかみしめながら空気を取り込む。冷えた冷気がダイレクトに肺に来るけれど、別に、行動を制限させられるほどじゃない。頸を落とせるかわからない今、しのぶの毒が頼りだ。百足蛇腹で足場が回復したその瞬間に猛攻を叩きこめば、その顔からスッと表情が抜け落ちるのを見て、一番近くにいたカナエの腕を掴み引いた瞬間。氷の蔓と蓮華が組み合わさったような攻撃が飛んでくる。




「大丈夫?」
「ええ、ありがとう」
「姉さんも藤野さんも気を付けてください、まだ何か隠してますよ」




あれ以来、攻撃が当たらない。本当に、初手でどうにかできなかったのは痛かった。ちょこちょこしのぶの毒は入っているけど、入ったそばから解毒されていってしまう

これって軽く詰みなのでは…?よからぬ考えや最悪の答えにたどり着く前に次々と攻撃が飛んでくるのだから笑えない。





「師範っ!鏡柱さま!!」
「「カナヲ!?」」
「へぇ…」




―――まずい!標的が明らかにあの子のほうへ行った!

それに気づいて駆け出せど、上弦の弐がこちらぬ向けて小さな人型の氷を飛ばす。それの攻撃を刀で受けて、舌打ちをした




「一体一体の攻撃が、強さがおかしい…!」




しのぎ、壊し、前に進むけれど、こんなんじゃとても間に合わない。最悪の予感に口から出たのは酷く情けない声で、鬼の鉄扇が継子を捕らえた時、彼女の姿が鬼の前から消えた。




「えっ」



声を上げて、継子が消えたというか、移動した方向を見れば、一人の男の子が荷物のようにその子を抱えている






その、イノシシの被りものをしたその少年は高らかに雄たけびを上げ、鬼に飛びかかっていったーーーー。




「!!!??ちょっとまってー!?」




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