俺鬼番外編 | ナノ


▼ 5

「あっ、酒村せんせ〜い!しのぶちゃ〜ん!」
「「………」」




思わず嫌な顔をしてしまった俺と蟲柱は悪くないと思う。ちょうどばったりと出会い、会話に花を咲かせていた所に響くのは耳なじみの良い声だ、けれど




「俺を仲間外れにして二人だけで会話なんてずるぜ〜、最近は猗窩座殿も女にかまけて俺の相手をしてくれないんだ」
「知りません」
「……童磨…、お前、今補修じゃなかったか…?」
「え〜、俺は先生が見てくれると思ってわざと落としたのに、再試監督が冨岡先生なんて聞いてない」
「あら、落とされたんですか?そうですか、そんな方と仲がいいだなんて思われたくないので、私にも先生にも話しかけないでください」




いや、まあ、最初は俺だったんだけど、煉獄の必死の反対と、義勇の捨て身で監督を外された。ちなみに補修はこいつだけだった。




「そんな冷たい事言わないでくれよ〜。俺と君の仲じゃぁないか」
「そんな事実ありません」
「不機嫌だなぁ。あれだけ愛し合った(殺し合った)仲だってのに」
「紛らわしいな」
「紛らわしいです、やめてください」




蟲柱の目が人を見る目じゃない。そこらへんに捨てたある生ごみを見る目だ。もしかしたら生ごみよりもヤバいもんを見てる目かもしれない。それでもめげない童磨が俺たちに手を伸ばした瞬間に地面に伏せた。理由なんてわかる。そもそも目の前にいるし。




「おい、何をしている。戻るぞ」
「冨岡先生。今度は逃がさないでくださいね」
「わかっている」




竹刀を持ち、肩に担いだ義勇が童磨踏みつけていた。すごい、早さが見えなかった。やっぱり人になったことで弱体化してるのか、いや、まあ、ぶっちゃけ、人が神クラスに強いとそれはそれでヤバいしなぁ。

引きずられていく童磨に手を振れば、横に居た蟲柱が俺の手を掴み、下へと降ろす。掴む力は強かったけれど、降ろす時は痛くなくって、思わず、おぉ…と、言葉を漏らしてしまった。




「ところで先生。この間のお土産はどうでしたか?今年はよい品が出来たということで、奮発して買ってみたのですけど」
「え、ああ、美味しかったよ。やはり胡蝶の妹である君がくれる物にはずれはないな」
「そう言われると嬉しいですね。先生からいただいた蝶の髪留めも、とても素敵でした。」




綻ぶ様に微笑み、彼女は、礼儀正しく頭を下げると、次の授業がある教室へと向かった。すごい、俺が高校の頃あんなに落ち着いてた記憶ないんですけど。多分放課後馬鹿やって先生に怒られてたし、部活に行くたびに帰りたいって思ってたよ。何なら途中から帰宅部だったもん俺。蟲柱の揺れる髪をぼぅっと眺めていれば、肩に手を置かれ、




「男として胡蝶に惹かれるのはわかるが、犯罪だぞ。酒村」




めちゃくちゃええ声で囁かれた




「オッフッ!?やめてください煉獄先生!!びっくりした!ご自分が良い声だと自覚を持ってくださいませんかねぇ!!!????」




耳を庇い、振り向けば、輝かしい笑顔の煉獄。片手を上げて「すまん!」と言う。すまんと言うならやめてくれ。まだ心臓がどくどく動いてるんですけど。ここが廊下じゃなければきっと叫んでいたと思う。それどころか昔の口調で罵ってたかもしれない、一応ここでは後輩なので敬語なのだ。




「うむ!元気が良いのは良いことだ!ところで明日の授業のことで話があるから、職員室に来てくれ」
「えええ、それならそうと言ってください。俺、準備室に忘れ物してるんで、取ってきますよ」
「よもや!俺も行こう」
「いや、煉獄先生は先にプリントの整理を作っててください。まだ、できてないでしょう」
「よもっ…!?バレてたか…」
「妹の方の胡蝶に聞きましたよ。ひたすら弁当を、貪り食ってたと」
「よ…、よもや」
「鳴き声ですか?俺は先に行きますよ」




まったくもう。仕方のない人だな。
少しだけ笑みを浮かべて、しばらく歩くと、四限で終わった中等部の生徒がこちらに手を振るので、振り返す。はぁ、俺にもあったなあんな若い時代。今も若いけど。



ガラっ




「あれ、錆兎?」
「酒村先生…?どうしたんですか。ここ世界史の準備室ですよ」
「煉獄先生の授業に必要なやつを忘れたんだ。錆兎はココで何してんだ?」
「俺は…、その、えっと…」




まだまだ成長途中の身体を揺らしながら、後ろで組んだ指を弄る彼に首を傾げつつ、ドアを閉めてからしゃがみこみ目を合わせる。




「ん?」




目を細め、「どうした?」と首を傾げれば、覗き込むような形となって、彼の顔が良く見えた。だからこそ




――――あ、やば、こいつ




「お前を待っていた、と言ったら、怒るか?」




―――覚えてる。




その目に楽し気な色を乗せて、しゃがみこんでいた俺の肩を後ろに押した。

カタン

控えめな音を立てて背がぶつかる。壁に座りかかるような姿勢に、錆兎が目を細めながら乗っかって、肩を押した手を俺の横に添え、逃げれない。

今だ少し処理ができない情報量に呆然と見上げれば、その顔立ちが幼いのに、前世と重なる




「本当は、出会った時に攻めてもよかったんだが、お前に可愛がられるのがどんなものか知りたくてな。存外、癖になった。だが」




――――満足できるわけないだろう?




捕食者の目だ。食べられてしまう。なんでこのタイミングなんだとか、そんなこと聞く余裕すらなくて、口が乾く。




「きおく、あったのか」
「正直なかったぞ。途中まで」
「まって、ない状態で俺は攻められそうになったのか」
「……そう、だな?」




そうだな、うん、そうだな。と自分で納得したのか、ちぅちぅと、音だけは可愛らしく、首にキスを落とされる。その間に動く不埒な手を抑えれば、強く首筋を吸われた。思わずビクリと肩を震わ、いまだ上に乗る男を見上げる。わずかに赤みを帯びた頬に、見下ろす瞳がうっそりとこちらを見つめていて、嬲られてるようだ。




「なぜだろうな、記憶もないのに、一目見た時から好きだったんだ、先生」
「さび、とっ」
「触れたい、キスしたい、手を繋いで、なぁ。ダメか?」




ダメか?なぁ、せんせ。
甘えるように俺の肩に頭を乗せて、抱き着くそいつに、慕うように見てきた錆兎を思い出す。でも、でもなぁ〜〜〜




「正直に言ってみ、錆兎。正直にな。お前、記憶ない状態で俺の事、どうしたいと思った」
「……全部、」
「全部?」




全部って何だろう、どっちなんだろう、どっちなんだろうってそもそもなんだろう、ヤバいな俺もなんか判断基準が毒されてる気がするぞコレ。自分の頭を抑えながら錆兎の言葉を待てば、錆兎の目がこちらを向く。




「全部、俺が、やりたい。与えたい。凡そ、前と変わらん。お前に与える物すべて、俺の目で見て、感じたものでありたい。悲しみも喜びも、怒りも憎しみも、痛みも悦楽も、お前がその口に食むものは俺が与えたいし、お前が身に纏う衣服も俺が用意したい。常に俺を見てほしい。常に俺を感じて、意識して、……だが、俺は。お前が他の奴と笑って、関わって、手を取っていても、幸せならそれでもいいと感じる。最終的に、俺の手を離さないでいてくれるなら、多分、何でもいい。」




思った以上に重たいなと思えば最後。おま、お前前世でもその考えだったのか…???結構手段問わなかったから、もっと、こう、え??うそだろ、そんなまだマイルドな考えだったのか。ごめん、サイコパスとか嘆いていた俺が謝るわ。頼光兄さんの前世より全然マシじゃないか。あの人、俺が屋敷の人間に関わっただけでも激昂してたからな。束縛の範囲が緩い。でもな




「今のお前、中学生だから」




その言葉に、いまだ俺を押し倒したまま上に乗っている男の顔が絶望に歪んだ。年の差って覆すの多分難しい。それ以前に犯罪である。だから、やめとこう、今世は縁がなかったんだと慈悲の笑みを浮かべてその頭を撫でようとしたとき、するりと錆兎の腕が俺の首に絡まって、しな垂れかかる様に覆いかぶさると、ひどく意地の悪そうな、言い換えるならば、前世でよく見た笑みで顔を近づける




「なぁ、先生。いま、人が来たら、どうなると思う?」
「――――っ!」
「生徒に、手を出してるように見えるな?」




降り注ぐ宍色の髪が頬にかかって、はたから見たら口づけをしているように見えるに違いない。自分でもわかるくらいには血の気が引く。嘘だろう俺、せっかく就職したのにクビになるのか…??俺無罪だよ???困惑する俺に対して、やはり錆兎は笑い、目を細め、そして言う




「とりあえず、今日は、俺に、先生から、口づけしてくれれば終わろうと思うんだが、どうだろう?」

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