俺鬼番外編 | ナノ


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夏休みが開け、大学の授業が本格的なスタートを切った日。俺たちはそろそろ就職先を考えなければいけない時期になったと思う。そして同期に胡蝶が居た(選んだ専攻が違う)。どうしよう。居たな胡蝶さん。めちゃくちゃ美人で秘かにファンクラブあったな。なんで気づかなかったんだろう俺。まあ、千年経ってたし忘れてもしょうがないんじゃないかな。俺も必死だったもんな。そういえば入学当初にめちゃくちゃ絡まれたな。それか。それだな。つまり俺が知らないだけで他にもあってるかもしれない。ヤバいな。覚えてないわ。少しだけ考え事をしながら小学校免許試験と英語検定の教科書持ち、問題を捲る。まあ、そんな事よりも就職できるかできないかなんだけどな。新任教師なんて良くても「非常勤講師」が限度だし、月手取り10万ちょいと聞く。というか、そもそもどこに行くかも決まってないし。別にそこまで教えたいとかないから、事務員とかでもいいんだけどな。せっかく資格取れそうだし、取ったなら取ったで頑張りたい。




「どーんっ!」
「うわっ!!?」




背中に衝撃が走り、思わずと飛び上がった。手に持っていた教科書類が音を立てて崩れ落ちる。飛び跳ねる心臓を抑えながら振り返ればニコニコといい笑顔の胡蝶が口元に手を当てながら笑っていた。ええ……。

「うふふっ、ふふふっ。前期ぶりね酒村君!お勉強?」
「こ、ちょう、やめてくれ。驚かすな。」




びっくりした。と肩を降ろせば、なぜかぴしりと胡蝶が固ま……、あ、あ(察し)
忘れてた。そうだ、記憶がないころの俺(そもそもまだ純粋な人間)の頃の俺は胡蝶のことをさん付けで呼んでたし、ずっと無視してた。いや、構うとファンクラブがうるさい…それでもめげずに俺に構っていたこいつは心が強いと思う。そうだよな。普段の俺なら混乱しながら走り去っていったもんな。そんな俺に、震えるように胡蝶が声を出した




「お、思い出されたのですか…??」
「いや、俺の体感的には熱中症になって死んだと思ってあっちに飛んでたから、そんなに久しぶりって感じでもないんだけど、まあ、その、なんだ。久しぶり、胡蝶」




へらりと笑いかけた瞬間、胡蝶の瞳に涙が浮かぶ。せやな。マジごめん。泣くな泣くなと頭を撫でればますます涙を流すのだから、どうしろというのだろう。ところで




「俺ってお前以外に誰かと会ったか?」
「合わせたら今頃、貴方はココにはいません」
「ありがとうっ!」




多分この子以外に俺は会ってない!!
俺の部下が優秀すぎでは?ちなみに俺の友人全員前世妖だった、すごいな、お前ら。どこまでついてくるの。でも現世に染まりすぎじゃない?愛読書漫画ってすごいな。
ってことは、俺の周り前世妖ばかりなのか。すご。おれ世界史の先生辞めて大学教授になろうかな。妖怪の。そんな俺の考えを読んでいたとばかりに、胡蝶がとあるパンフレットを差し出した




「貴方の就職先です」
「なんて??」
「酒村君、一緒に同期として頑張ろうね!」
「なんて????」




思わず受け取ってしまった自分が憎い。でかでかとキメツ学園と書かれる中高一貫のパンフレットに思わず目が死んだ。いま胡蝶が自分で自分の努力を殺そうとしてることになんか言わなきゃいけない気がするのに言えない。ちなみに最近世界史の先生と家庭科の先生が辞めたらしい。どこか作為的なものを感じた。大丈夫かなこの学校。笑顔の産屋敷が学園長として写ってる。





「えっ!酒呑様キメツ学園に来られるんですか!?」
「うん。まあ、多分非常勤だけど…」
「正規だと思います」
「いや、新人教師がいきなり正規は反感を生むというか…」
「大丈夫ですよ、義勇さんがいまだ教師続けてるので」
「まって、今、聞き逃せない単語が聞こえた気がする」
「クリームパン美味しいですか?」
「美味しい…」




あれ?今、流された??
学校帰りにバイトに顔を出せばすでに中学校から返ってきた炭治郎がパンを焼いていた。朝も焼いてるって聞いたんだけど、この子、働きすぎで倒れないかな。大丈夫??ひとまず、俺があとはパンを焼いたり袋に詰めたりするだけなので、炭治郎には会計に立ってもらう。というか、俺が表に顔を出すことなんてあんまりない。その理由は知らないけれど、まあ、裏の方がやること多いしね。学校から帰ってきた花子の宿題を見ながらクッキーを包む。というか、本当に竈でパンを焼くんだ…。というか焼けるんだ…。ちなみに竈で焼くのは気分が乗った日だけらしい。俺は数回見たけど、その数回とも竈の神様が楽し気に踊ってるから、この家族強い。加護ガン積みされてる。そしてちょくちょく俺にもちょっかい駆けてくる女神様、やめて〜〜〜。おさわり禁止の奴〜〜〜。




「そういえば、酒呑様って、教科何ですか?」
「世界史」
「取ります!」
「2.3年で選択だけど1年は必須だから一年の時に受けてから決めなね」
「はいっ!でもやっぱり竈門家長男としては三年間取り続けたいです!」
「花子は無理?」
「花子はまだ無理だな」
「そっかぁ。おにいちゃん頑張って!」
「俺は長男だからな。任せろ!!」




花子は小学生だからまだ無理だな。というか世界史も大事だけど、俺は日本史を取ってほしい。一応、君らの国の歴史だし、日本史は面白いぞ。鬼滅隊のことは書いてないけれどさ




「今まで歴史系は煉獄さんだったんですけど、やっぱり、負担が…」
「……………(顔を覆い隠す)」
「え、あっ!?どうしたんですか神様!?煉獄さんだけじゃなくて宇随さんとか!しのぶさんとかも!」
「……………………(さらに悲惨な雰囲気)」
「えっと、えっとぉ!あ!善逸も伊之助もいますよ!」
「………………………(すこしだけ明るくなる)」
「あと錆兎とか!!!」
「…………………………(泣き出す)」




胡蝶…お前…。
そろそろ本格的に何も言えなくなった俺は心の底から思うのだ。お願いだから時間がこの時止まってくれねぇかなぁと。就職したくない。決まったけど激しくいきたくない。臨時講師になりたい。








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