俺鬼番外編 | ナノ


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俺が目が覚めて、数日が経ち、体調も万全に近づいた頃、ふと思ったんだ、バイトをしなければと、けれどどうもピンとくるバイトがなかなか見つからない、正直なんでもいいと思っていたのだけれど、自分が予想以上にめんどくさすぎて笑える。コレはもしや、あの感動的な場面において、錆兎たちから逃げられると思ってしまった俺への罰なのかもしれない。そうだとしたら何とも言えない。

ふらりふらりと町を歩きながら、街の景色に溶け込んでいた電柱を見上げる。


今どき珍しく竈でパンを焼くらしい。そもそも竈でパンなぞ焼けるのかと問いかけたい。そんなパン屋のアルバイト募集が書かれていた。竈、竈なぁ。今では少しだけ俺が気絶したときに見ていた夢なんじゃないかと思う出来事に、竈の文字を入れた一族が居た。とてもとてもかわいがったし、可愛かったし、今でも心残りがあるならその子たちだ。




「ここに、しようかなぁ」




なんか賄い付きって書いてあるし。そう思い、家に帰ってさっそく電話することにした。


プルルルルルッ
ガチャン





『お電話ありがとうございます。竈ベーカリーです』
「あ、すみません、バイト募集の紙を見て…」





電話越しに聞こえる、どこかで聞き覚えがある声と、懐かしさに少しだけ首を傾げつつ、面談の時刻を決める。え、今日会いたい?なんでそんなにがっつくバイト先の人。声的に少年だよね君??何がそんなに琴線に触れたのか「会いましょう!今逢いましょう!今すぐ会いましょう!!!」と、めっちゃグイグイ来るな君。いや、でもそっちの都合とかあるでしょう、と聞く。




『大丈夫です!休みなので!』
「え、そうなんだ、でも、流石に悪いよ」
『いいえ!父も母も妹も楽しみにしてるので!!!』
「え、こわ」




知らない人に待たれてる恐怖。どうしようこのバイト‥…、ヤバいのかな。でも電話したの俺だ。うんうんと唸りつつ、俺はまあ、これだけ求められいてるなら悪い気はしないかと、頷く。なんで電話越しから歓声が聞こえるんですか、なんでそんなに歓迎ムードなんですか。店の場所を聞き、歩いて五分の場所にある所で、さらに驚いた。こんな近くにパン屋とかあったんだ。母は、昔からあったというけれど、それが本当なのか判断が難しい。でも昔からパン買ってきてたもんな…あり得るのはあり得るのかな、わかんない。今まで通ったことのない道を歩きながらその場所に向かえば、曲がり角で誰かに抱きつかれた。いつもならば叫ぶなりたじろぐなりするだろうけれど、傍目に見えた見覚えのある耳飾りに思考が停止して、震える声で呟いた




「炭の子…?」
「―――っ!はいっ…!酒呑様!!」




前と変わらぬ、赤みの帯びた瞳を涙で濡らし、こちらをまっすぐ見やる姿に、ああ、あれは夢じゃなかったのかと笑みを浮かべて抱きしめた。ほんのわずかに香る小麦の良い香りに、電話越しの相手がこの子だったのだと確信した。そうか、ならばあれほど必死だったのも頷ける。そうか、そうか、君は忘れないでいてくれたのかと呟けば、家族みんな忘れてなどいませんと抱きしめ返されながら言われた。




「そう、か、彼らも巻き込んでしまったから、少し心配だったんだ。ちゃんと輪廻を巡れてるのかどうかすら、怪しかったし、その確認すらできずに俺は転生させられてしまったからね。」
「母さんたちが言ってました。最初は、バラバラになるはずだったけど、酒呑様が気にかけていたから、全員一緒にまた巡り合えたのだと」




鼻声交じりに説明する彼を撫でて、俺は「そっか」と返す
意志を組んでくれた天界の方々には感謝してもしきれないな。でも、俺は許さない。絶対に許さないからな。親族に源頼光が来るなんて聞いてない。けれど時は現代。監禁なんてすればお縄になるのはあっちだし、本人は警察官なので、やりたくてもできない現状を知ったときは本気でガッツポーズをとってしまった。そもそも28歳が21歳を監禁するなぞ字面が恐ろしいのだ。今は大人しく貢がれてる。わー最新のゲーム機だ、頼光兄さんありがとう!という言葉だけで満足してくれる奴のチョロさよ。なんで俺、平安の時に気づかなかったんだろう。そういえば昔からいたな、頼光、母の姉の子供で俺の従兄。昔らから何でこんなに良くしてくれてるんだろうって思ってたけど、なるほど、納得。




「さあ酒呑様!入ってください!家族全員貴方に会うのを楽しみにしてて…!ほら、俺と禰豆子以外見えてなかったから…!」
「まあ、二年は一緒に居たけどね」
「それでもですよ!」




俺の腕を取って、炭の子が『CLOSE』と書いてある店のドアを開けた。そうすれば、幾人の足音と共に腰や腕や足に手が伸びて抱きつかれている。笑顔だったり、涙目だったり。困惑した俺を離すまいと、遠慮のない力加減。ふと前方に目をやれば。ゆっくりと頭を下げた炭十郎と葵枝の姿。抱き着く子供たちの頭を撫でながら俺も下げ返しておく。


無事にバイト先は決まった。(少しの面接とシフト可能日の確認、履歴書渡すだけだった)



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