俺鬼番外編 | ナノ


▼ 神も留守にはしたいモノ

「ダメです」
「でもね炭の子…」
「ダメです」
「いい子だから聞き分けてくれないか…?」
「俺も行きたいですっ!」




そのお願いを聞くのがいい子なら俺はいい子じゃないので聞きませんと宣言する炭治郎に俺は頭を抱えた。一体全体なんでこの子はこんなに意固地になっているというのか…はてさて、困ってしまったなあ、と口元を隠しながら悩む。

今日から神無月。俺たちのように神と呼ばれる者たちが出雲へと招待される日。というか、強制参加である。一月かけてじっくりと今年一年の豊穣や縁結びなどについて話し合う場。この時期になると炭の一家は本当に言うことを聞かなくなるから困る。そして今、炭の子は非常に厄介な血鬼術に掛かっているため、10歳前後の姿、つまり、身体に心がつられてる




「毎年のことなのだから、そろそろ慣れてくれ」
「嫌ですっ!」
「ん〜。今年も今年で強情な…」
「強情なのは酒呑様です!俺たちはいつも止めてるのにっ、俺たちと神無月での話し合い、どちらが大事なのですかっ!」
「年々絡み方が炭吉に似て来たな炭の子…。」




でもごめん、神無月の会議の方が大事。




「〜〜〜っ!!」
「お前たち一族は目に入れても痛くないくらいには可愛いが、それとこれとは別だぞ炭の子。俺を困らせないでくれ」
「う“〜〜っ」




また面白い涙の流し方をして…。長男というプライドのせいなのか声を上げて泣かない。あーもう、泣くな泣くなと身体を抱き上げて揺らせば、肩口に石頭をこすりつけてくる。痛い。




「お“れ”も“い”ぎ だい“で、ず…!」
「ん“〜〜。心の痛む主張の仕方を身に着けて来たなぁ〜〜〜」




よしよし可愛い可愛いと頭を撫でてあやすけれど、いやいやと全力で訴えてくる様に頭を抑えた。んー。炭の子、俺はこの後しぶる茨木をも迎えに行かねばいけないのだが…

………でも、心配なんだよなあ。いつもなら葵枝や炭十郎がなだめていたけれど、その二人はもういない。




「……ん、ん〜〜〜〜〜。はぁ…。わかった、一緒に行こうな」
「!!」
「ただし、絶対に歩き回るんじゃないぞ」
「はいっ!!




いい笑顔だった。頭を抑えて人間を連れてくると言う連絡を贈れば、よほど珍しかったのか、興奮したような伝達係の返事に引いた。まあ、俺はもしも炭の家の子が神隠しに逢わないようにと警戒して連れて行くことは本当になかったので、よほど興味津々だと見た




「これだから連れて行きたくなかったんだよなあ」
「いやですぅううっ!!いきたくないですっ!しゅてんさまぁ!!いやぁああああっ!!!」
「うるさいぞ茨木」
「行きたくない行きたくないっ!!どうせまた神様からいろいろ言われるんですよっ!!今年は酒呑様炭治郎君連れてくんでしょ!!??いいじゃないですか私いらないじゃないですかぁッ!!!」
「はいはいはいはい。お前も人間連れてきていいから行く準備してくれ」
「やですぅっっ!!!いきたくないですぅっ!!」




ひょいっと泣きわめく茨木を抱え、蝶屋敷を徘徊すれば、いつぞやかの黄色い子がこちらをつけてきている気配に足を止める。はて??




「茨木」
「…??」
「お前、昔守護してる人間いるとか言ってたな。それ連れてこい」
「二人いますし、そもそも守り切れる自信がないです…」
「そこはどうにかする。」




大人しく、腹をくくったのか、いまだ涙を流す茨木を降ろして、俺は炭の子の元へと向かう。というか迎えは今夜だ。もういい、今年だけだ、人の子を連れて行くのは。それを胡蝶に告げたとき、彼女は楽し気に微笑んで妹を連れて行きたいと言った。もういいよ好きにしてくれ

庭の見える廊下の端に腰を下ろして、腰にかけた瓢箪を開けながら煽る。

俺の神気で作り上げた酒が体内を循環し、それを確認してからふぅっと空中に息を吹きかけた。瞬間に大量の小さな瓢箪が降り注ぎ、それをさらに小さくしてアクセサリーのように加工すれば出来上がる、【呼】の瓢箪。




「こんなもんだろ。あとは」
「何をしてるんだお前は」
「いや、炭の子たちが出雲に行くっていうから何があってもいいよう準備をーーー…」




首を抑えて距離を取る。
視界に確認したのは二人。一人は出てきた瓢箪に気を取られて突いたり転がしたりしているが、一人はがっつりこちらを見ている。怖い




「出たな水の一門…!!」
「炭治郎も一門だぞ酒。」
「一つ、もらってもいいか…?」




腕を組んで壁に身体を寄りかからせる錆兎の瞳が俺から離れないことが恐怖である、すぅっと褒められた目がどこか愉悦が浮かび、ゆるりと引きあがった唇が弧を描き、色っぽくも笑みを向けられた




「俺も連れていけ」
「酒呑一つもらっていいか」
「いやだよっ!!ふざけんな。なんで出雲まで行ってお前の恐怖に震えなきゃいけないんだ!」




義勇は好きにしてくれ一つでも二つでもってけよ!!ほらそうやってすぐに日輪刀取り出して脅そうとする〜〜〜!!!!
咄嗟に取り出した刀で日輪刀を弾きながら蝶屋敷の庭へと躍り出た。さんさんと照り付ける太陽ににじんだ汗が流れ、息を吐いた。




「まあいい。俺も一つもらうぞ」
「かってに、してくれ」
「義勇、って、欲張るな!男なら一つで我慢しろ!」
「だが錆兎、せっかく酒呑が…」
「一つだ、それ以外の瓢箪はおいていけ。今からお前は任務だろう」




世話を焼く子供を叱る母のような姿になごみそうになる心を叱咤し、奴らが姿をくらますまで、ただ黙って見つめていた。気を抜いた瞬間に背後取られてたら笑えないし。

気のせいかもしれないが、噛まれた首筋がじくじくとまた痛み始めるのだ。ほのかに熱をもって、ただ、痛む。その事実に唇をかみしめながら、俺は力を抜いた。





☆ここから始まる出雲の御国へと赴いて神様会議に参加する酒主たちの話



prev / next
目次に戻る









夢置き場///トップページ
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -