俺鬼番外編 | ナノ


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「なんてこともありましたねぇ」




なつかしいです、と数年前よりも背が伸びた男が楽しそうに声を出す、その腕の中で頭を抱えた状態の酒呑童子がうめく。小さかった人の子供は数年たつと自身の背を追い越して、あまつさえ食べるようになってしまった。

はだけた着物の胸元からするりと侵入する熱を帯びた手が怪しげな動きをして、なぞる。

酒呑の口元がひきつる様に動いた。




「す、炭の子」
「炭治郎です」
「……炭治郎…、お前は明日任務のはずだが…」
「そうですね。だから頑張ってください酒呑様」




とっさに瓢箪に手を伸ばす腕を掴み上げて鬼の身体を回すと押し倒す。敬愛する神の身体に最小の被害で済むよう気遣いすら見せ、炭治郎は笑う。かわいらしい少年はすでになく、そこには獲物を前にした男がいるだけだ。ほんとうに人の成長は早すぎて、時々死ぬほど怖い思いすらするけれど、なんだかんだで受け入れる懐の広さをこの神は持っていた。

今日は珍しく往生際が悪い気がするが




「いやだいやだいやだ!絶対嫌だっ!!。さっきもして終わりって話になったじゃないか!!」
「元気になったものは仕方ないじゃないですか。」
「不埒!!昔はそんなんじゃなかったじゃんっ!」
「いえ、昔は知識がなかっただけで結構いまとは変わりませんよ」
「うっそだろ!?ねえ分かってる?俺神だよ??昔も今も君たちの神様だよっ!?」
「今年に入って何回目の神威剥奪中ですか」
「まだ一回目だもん!!」
「神威のない酒呑様は酒呑様であっても神様じゃないでしょ。ほら、往生際悪いですよ」




ちゅぅっと昔とは違い可愛らしくない素早さで横頬に口づけ、そのまま伝うようにして耳をなぶる。びくりと震えた酒呑がなおさらに固定された腕を起き上がらせようともがくのを見て、炭治郎はむぅっとその頬を膨らます。




「酒呑様」
「ダメです。」
「酒呑様」
「明日任務だろう、これで終わり」
「…酒呑様」
「聞かない」
「……しゅてんさまぁ…。一回だけ。一回だけでいいです」
「…ダメ。」
「久しぶりなんですよ。なんでダメなんですか…。」




後に酒呑は確かに耳が垂れ下がるのを見たという。けれどどうしても休んでほしかったので、いけませんと再度口を開き、横を向いた。

酷く、かたい意志を感じる。

匂いをかがなくてもわかるそれに、無理強いはしたくないし、する気もない炭治郎は折れた。
基本的に自分たちの尊敬し、崇拝する神のいう事が絶対である。本来ならその体に障ることすら烏滸がましいと炭治郎は思っている。まあ、そんな存在とは口にするのも憚られるようにドロドロとした関係ではあるのだが。




「……、接吻なら、いいですか?」
「寝てくれよ…」




頭を抑えるように顔を覆い、ため息をつきながら己の前髪を炭治郎の下でかき上げる姿は酷く色っぽく、知らずにかたずを飲めば囲うように置いた手を叩かれてしまう

そのまま酒呑の手は炭治郎の手を指で遊びつつ上へと上がっていく。何をするのだろうと思いながらも黙ってその指を追う。楽しそうに弧を描く口元に、自分も笑みを返した。何でもいいか、この人が楽しそうならば。




「炭治郎。もう、不安じゃないのか?」
「え…」




するり。

上がってきた手が頬を撫で、後ろで結んだ髪を払うと、頸を撫で、引き寄せる。酷く、腕に負荷がかかるような態勢だった。けれど、それ以上にその瞳にとらわれ、息をのむ。慈愛を含み、慈しみ、愛して、自分の目と同じ紅の混じる綺麗な瞳だ。

きっと、最初に話した思い出話への問いかけだったに違いない。深く息を吸う。そのまま、はぁぁぁぁあああ…。と大げさに息を吐いてから炭治郎は押し倒しているその人の肩口に顔をうずめるようにして抱きしめた。

あの日から欠かさず香を焚いているのだろう。あの花のにおいがする。勿忘草という、可憐な花の香。意地悪だと、思わず呟けば、酒呑童子は楽し気に笑って、炭治郎の背中に腕を回し、優しくなでる。




「それで、どうなんだ」
「……不安ですよ。まだ、不安です。だって、皆全然諦めてくれない。善逸のところの茨木さんなんてずっといるじゃないですか…」
「あれはそういう性分だ」
「それに、女性です」
「そうだな」




不安です、不安に決まってる。この人を自分だけを、自分たちだを見てもらうだけじゃ足りなくなってしまった己が、一番どうしようもなくなってしまったのは目を瞑ってほしい

昔のように抱きしめられるだけじゃ、足りなくなってしまった

…きっと自分は、どうしようもないほど欲深い。自覚している。けれど、大人になるにつれ、あの人と並びたいと思うにつれ、その背に、近づくにつれて、綺麗なことだけを見ることはできなくなった。周りの感情だって知っていた。恋っていう単語だけで身勝手にも美しく儚いものだと思い込んでいた




「酒呑様…。俺は、卑怯な奴ですね」
「…そう、だな。けれど、お前を選んだのは俺だ」




まあ、泣き落としはたまにどうかと思が
すみません…。




「それ含めて愛したのだからしょうがないさ。それで、そろそろ眠れそうか?」
「・・・・」
「そうか、元気なのは良いことだが…、寝てくれ」
「いえ、こう、酒呑様の香りに包まれてるとですね、やはり、こう、男として込み上げてくるものがあるというか…」
「……」
「す、好いた人の匂いですし…」




顔を仄かに染めて、再び腕の力の身で身を起こした炭治郎が酒呑の唇に噛みつくようにキスをしてから笑う




「やっぱり、収まりそうにないです」
「・・・・。なあ、知ってるか炭の子。」
「炭治郎ですってば」




不埒にも動き、好き勝手にしようと服に忍び込む手を必死に押さえつけ、酒呑は青筋の浮かぶ顔を上げた




「俺の神威剥奪の理由を、今ようやく思い出した」
「はい。そうですね」
「肯定するということはその自覚があるということだな…??」
「神威あると酒呑様は好きに逃げられるので!」
「そうだな、毎度毎度寝不足でふらふらになっているお前を助けるたびに民間人を助けてしまい、本来死ぬはずだった死者が生きている。それを理由に毎回神威を剥奪されるんだ。なんでふらふらなんだろうな??」
「(にっこーー)」
「そうだよ、そうだよ、なんで気づかなかったんだろう、お前だよ炭の子」
「た・ん・じ・ろ・うです」
「お前が毎度毎度任務の前に俺を明け方まで抱くからだよ。」
「ぐずぐずになって縋りつく姿が好きですよ俺」




というわけで。

軽々と腕をまとめ上げて縛り、そのまま足を持ち上げてから舌を可愛らしくだし、炭治郎が笑う




「今夜もはげみますので!明日も助けてください、酒呑様」
「〜〜〜っ!!お前もやっぱり水の一門だよ炭治郎っ!!」




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