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角度を変えて、噛む力を変えて、わざと吐息を当てるよう数度肩口から口を離し、浮かび上がる鎖骨を上下の唇で挟んでは舌を這わせるその行為に腰への甘い痺れが徐々に加わっていく。
「は、ぁっ…」
自分でも自覚するほどには熱のこもった吐息だった。
最初はなんでもなかった刺激が、徐々に強さを増し、噛まれるたび、舌を這わせられるたび、しびれが強くなる。自力で座っていたのに、背を壁に預け、炭の子を抱きしめるような、縋りつくような態勢で、唇を噛む。
ちょっと待ってね、炭の子。なんで三時間もずっと同じところ噛んでんの。そろそろふやけるんだけど。というか、噛まれてるのになんでこんなに気持ちいいんだ…!?変態か俺はっ。
「炭の子っ、ちょっと、…、一旦やめてもらっていいか」
「…ぁ…、あっ、す、すみませっ!!」
「いや、いい。好きにしろと言ったのは俺だからな。」
勢いよく離れた炭の子が顔を赤くしながら頬を抑えてこちらをちらちらと何度も伺っては「ひゃぁぁあああ…!!」と声を上げた。可愛い悲鳴だけれど落ち着け。唾液にぬれた己の鎖骨をなぞればぬるりとした感覚と共にぞわっとするような感覚が走る。思わず、鼻につくような声を上げ、指を離した。
「炭治郎…」
「す、すみませんっ」
呆れたような声を出し、その子の詰襟を横にずらして引き寄せ、姿を見せた肩に口を開き、叱る様に噛んだ。大げさに炭の子の腰が揺れ、声が上がる。男の肩口噛むなんざ本来はしないけれど、これくらいやっといた方が今後のためだろう。
俺の犬歯が食い込む部分がぷつりと音を立てて血が少しずつ流れる。それをなめとり、顔を上げた。
少しやりすぎただろうか…?眉を下げ、炭の子をそっと伺えば、赫杓の目を下げて、とろとろとした声で嬉しそうに、どこかぽーっとしてこちらを見ている。ああ、大丈夫だな。
「炭治郎。」
「ふふ、へへっ。うれしいです酒呑様。俺だけですよね。酒呑様が自分から跡をつけてくれるなんて…」
「そうだな。ほら、満足したならおいで、少しだけ昼寝をしよう」
「禰豆子も、連れてきていいですか?」
「いいぞ。待っているから」
「はいっ!」
服を整え、俺に頭を下げた炭の子が駆け足で禰豆子を箱から出す。俺は瓢箪を指で割ってから大きめの羽織を取り出す。ふんわりと香る花の香に他の妖が香を焚いたのだろうと当たりをつけて、懐へと飛び込んできた禰豆子の頭を撫でた後、炭治郎を招き入れて羽織に閉じ込めた。
すんっ
「あ…。勿忘草の香ですね」
「勿忘草…?」
「はい、外の国に多く生えているらしいんですけど、俺の家の近くにもありましたよ、昔、外の国の旅人が植えて行ったんだと思います」
「そう、か。」
「酒呑様はいらっしゃいませんでしたもんね。なー?禰豆子」
「むんっ」
そうか、と再度呟いてから禰豆子と炭治郎を腕枕仕立てと反対の手を炭治郎と繋ぎ、禰豆子を囲うように置く。瞼が重いのか何度も瞼を落とす炭治郎の甲を指でさすりながらとんとんと叩き、眠りを促す。
「また、起きたら話そう、炭治郎」
「…、はい、しゅてんさま」
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