俺鬼番外編 | ナノ


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「俺のお願い、聞いてくれませんか…?」




俺の肩に手を置いて、膝の上に乗り上げた炭の子が、赫杓の瞳を潤ませて俺を見上げていた。わずかに赤く染まった頬に手を添えて、熱を計るが平温である。媚薬でも飲まされたのかと警戒したけれど大丈夫そうで安心する。




「炭の子、疲れているんだね、横になりなさい」
「酒呑様…、おれ、最近苦しくて…」
「あくまで聞かない姿勢を保つのか…」




昔は素直に横になって、膝に顔を置いてはすり寄って寝ていたのに、やっぱり水の呼吸一門って業が深い気がする。ぐすぐすと鼻を鳴らし、胸を抑えながら俺の羽織を片手で掴んで縋る様にして顔を胸に押し付ける炭治郎の頭をゆっくりと撫でた。少しだけ固くなった髪質に、絡まった髪を何度も優しく、根気強くとかしていく。




「くるしいんです、しゅてんさま」
「んー?胸がか?」
「全部、くるしい」




そっかー、全部苦しいのか。ふかしていた煙管を窓淵に置き、猫のように体を丸めて縋る炭治郎を抱えるようにして抱きしめた。そのままトントンとゆったりとしたリズムで背中を叩き、揺らす。小さいころ、よく長男だからとため込んでいた炭治郎にしていたように甘やかして、肩に入った力を抜かせるようにささやいた




「なんで苦しいんだ、炭治郎。お前の神様がその憂を晴らしてやろうなぁ」
「酒呑様のせいですよ」
「そうか、俺のせいか。何か気に障ることでもしてしまったか?」
「かみさまは、」
「うん」
「かみさまはおれのかみさまです。それなのに、柱のみなさんも、ぜんいつも、いのすけも、皆、みんなかみさまによって来るんです」
「それは皆、炭治郎が俺を崇めて持ち上げるから気になるだけなんじゃないのか」
「それでもっ!それでも嫌ですっ、三年前まで、神様は俺たちだけの神様だったんですよっ!!」




確かに。思わず真顔で頷いた。確かに、たまに出ていくことはあれど基本的には炭の子の家に居たしな。不安そうにこちらを見上げた炭治郎の言い分も一理あるのかもしれない。




「俺を見てください、俺たちだけを見てくださいっ。おねがいします、神様…」
「いつも俺はお前たちを見ているつもりなんだが」
「つもりじゃダメです。俺たちを、一番に愛して。神様」
「炭治郎。俺はいつでもお前たちを一番に愛してるよ」




ほら、そろそろぐずるのをやめなさい。幼いころ、その小さな体躯で弟を庇いついたやけどの跡に口づける。頬に、眉間に、その目じりに数度唇を落とせば唇を噛み、何かに耐えるような顔でこちらを見上げる炭治郎に微笑みかける。そう、いい子だね。炭の子。




「神様…。跡、俺たちのっていう跡、つけてもいいですか…?」
「それでお前の気が晴れるなら、好きにしていいよ。」
「はい、はい…。しゅてんさま」




背中をさする手を止めて、自分の両手を絡めてから炭治郎の身体を囲うように移動させた。

胡坐をかく俺の上で膝立ちになった炭治郎がうっとりとした色を揺らめかせ、先ほどの俺がやったように何度も顔にキスを落とし、頬をすり寄らせ、目を合わせると楽し気に笑う。

まるで子犬のようなしぐさだった。



可愛らしいリップ音と、鼻をならし、すんすんと匂いをかいては恍惚としたようなため息が肌に触れて熱い。




「しゅてんさま、しゅてんさま…」




かっぷりと。


音にするならそれほどに可愛らしい甘噛みを首筋、鎖骨部に感じて身体を震わせた。

跡が残らないギリギリの強さで何度も何度も噛んでは炭の子が伺うようにこちらの反応を見ている気配がする。好きにしていいといった手前に止めるなんて言う選択肢が俺の中にはなく、大丈夫だというように俺を覆い被さるようにして戯れる炭治郎の腰に手を回す。




ふっと、どこか妖艶に、この子が笑ったような気配がした。





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