「俺、確かに鬼だけどお前らの追ってる鬼じゃないと思う」 | ナノ


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とか後世にかっこよく語り継がれてる鬼こと酒呑童子ですどうぞよろしくお願い申し上げます。いやー、まいっちゃうよね。俺一応、何もしてないのに勝手に悪役に仕立て上げられてさぁ、そもそも俺、鬼っていうか神様よ?そこらへんどうなってんの??
なんかさあ、熱いなーだるいなぁってクーラー壊れた部屋で扇風機まわしてたら気絶して?めちゃくそ美人な黒髪の女神さまに間違ってあなたは死にました。ちなみに熱中症ですかとかくそダサの極みみたいな死に方してて?この世の中、神なんていねぇわ〜〜〜とか嘆いたら女神さまが「私が神です」とマジレスしてきて??そのあとに「貴方も神になるんです」といわれたら碌な説明もされずに御山にポイ捨てされて??たまに聞こえる天からの声で暴れまわってる妖の長となり、手綱握ってくださいね(意訳)といわれて?手綱握ったら握ったで平安のバーサーカーに監禁されましたわ。俺ただ人間が情報交換したいっていうから、お酒持ってきてるっていうから通して話し合ってただけなのに、気づいたら座敷牢につながれててワロス。あいつぜってぇ殺すわ。その癖、ご機嫌取りなのか俺をはめた男が女物の着物を片手に質のいい酒や肉を差し入れするからなんか許した。酒が上手い。
大人しくしていたおかげなのか何なのか知らないけれど、いつの間にか自由に外に出ていいことになってたし、屋敷内ならどこで何をしてもとがめられることもなくなっていた。ただたまにアイツの閨に呼び出されてよくわからない唄を読まれたのはこまった。何が言いたいの?簡素に説明して??

そこから数年たったころ、俺を監禁していた男が死んだ、いつの間にか結ばれていたらしい血の契約による鎖が切れたから、俺は屋敷を飛び出してまた元の山に戻った。戻ったころには俺基本何もしてないのに悪鬼羅刹とか、悪逆非道とか言われてる。おれ女抱いたことないです。まだ童貞なん…。戻ってきたことによって妖からは酷く喜ばれたし、なんかもういいかなって思って、たまに人里に降りながら生活した。そこまで多くの人間に関わりはしなかったが、関わった人間一人一人がひどく濃ゆくって、よく覚えてる。いつぞやか病弱な子供がいると聞いて会いに行けばただのイケメンで腹立しかった記憶もあるし、江戸くらいだったかな、またもやクソイケメンな男が俺になんども何度も飽きることなく勝負を挑んできたことがあった。教祖にされた可哀想な子供もみた。けれど一番覚えてるというか、現在進行形でまだ関わりのあるのは炭を焼く一族、アイツ等すごいよ、遺伝力。何がやばいって当主の顔、全部一緒。たまに赤みのある色合いの子が生まれるけど。もう顔も言葉遣いもそっくりなのなんのって。腹が減りすぎた、珍しく瀕死の俺を助けた一族だ。俺の主食は酒。なんで酒なのかいまいちわからかないけれど、その酒がある日突然切れた。人里に降りようにも平安時代らへんから俺とは別の“鬼”が出てきたせいで出歩くこともできず、また鬼殺隊とかいう随分と物騒な輩のせいでもあった。俺何もしてないよ…。なんで腕斬るの…、ひどい。そんなふらっふらな俺に声をかけて助けてくれたのがその炭焼きの一族だったわけだ。
そのお礼に俺は彼らの望みをかなえる約束をした。江戸くらいじゃなかったかな。その約束とは彼らの言うヒノカミ神楽と耳飾りの伝承を見守ること、もしもどこかで絶えてしまったのなら、俺が引き継ぐこと、けれどやはり自分たちの家が頼まれたことだから可能な限り子孫を守ってほしいと願われた。そこで俺は遠くから彼らを見守るべく、彼らが住まう山に引っ越して、彼らを見守った。時たまに妖たちがちょっかいをかけにいくし、俺もたまに鬼狩りに出会うけれど、それなりに充実した日々だったと思う。てかあいつ等も神である俺を一族の守り神にするとか贅沢にもほどがあるよなー。

そしてそろそろちょっかいだす鬼狩りがうっとおしくて原因を部下に探らせに行けばどうやら鬼舞辻 無惨とかいう鬼が勝手に鬼を増やしているらしい。鬼のくせに角生えてないって聞いたけど実際どうなんだろうな。人に擬態してるだけじゃね?まあ俺が本物の鬼ってわけじゃないのでわからないけれど、俺は角生えてる。そこで俺は鬼舞辻無惨をしばき倒して鬼狩りに差し出すことを決めた。だけど、これがなかなか捕まらない。多分何処かに隠れているんだと思うけど、どこにいるのかトンと見当がつかなかった。正直人間の肉を喰らう鬼とか関わりたくなかったけれど、巡り巡って炭の一家に被害が来ると俺の名が汚れる。なんせ俺の守護する一族なのだから。そしてそろそろ素手で言うことを聞かない妖を躾けるのが面倒になったころに、出会った刀鍛冶屋から一つの綺麗な刀をもらった。その刀には酷く見覚えのある悪鬼羅刹と書かれていて、嫌味か?と聞けば全力で首を振られる。どうやらその刀鍛冶は俗にいう視える人間らしいく、俺の正体に気づいたらしかった。その言葉に納得してなにか願いがないかと問いかけると、今後己の一族からどんな奇人でもいいから鬼に一矢報いれるような刀を打つ者を出してほしいとのことだった。それほどまでに鬼に対する殺意が高く、ひょっとこのようなお面から『あんの鬼ども…俺の打った刀を何度もおりやがった,どうしても、どうしても滅ぼしたい』と地の這うような声で言われたときは大変困惑したものだ。いつになるのかはわからなかったけれど、天界の神々に聞けば笑顔でGOサインが出たので、俺はその男の魂を少しだけ弄り、死後の世界、その鬼を倒せる可能性のある男との縁をつなげるように工夫した。つまり、その男が生まれる前後らへんでこいつも転生することになるだろう。俺に渡した刀について淡々と愛を語り、じゃあこれも、と、どこかの山で取れたらしい玉鋼で打ったという扇を受け取る。普通の人間なら持てなかっただろうが、俺は生憎の所、鬼というか神である。軽々と片手で開けたり開いたりしながらまた炭の一族の観察に戻った。たまに部下に任せて目を離し、どこぞかに遊びに行く。そしてそのたびに鬼狩りに逢い、何度も何度も戦った。そろそろ泣きそうである。俺人食べてないです。イエス日本酒ノット人肉。そもそも俺は日本酒からしか栄養とれない。だからこそ炭の一族は俺に対して月に一度お酒をお供えしてくれる。自分で酒を作り出すことはできるけれど、自分で作り出した酒からは栄養が取れないのだ。気休めにはなるけれど。


そうこうしているうちに明治時代に突入した、鬼狩りの最前期は江戸時代だったけれど、驚くことに最近の鬼狩りも強くなっていた。そして何より俺の手を焼かせたのが鼻の鋭い剣士と小さいくせに雷のようにすばしっこい剣士だった。鼻の方は毎度俺の匂いをかぎ分けるし、すばしっこいほうは下手すると俺よりも早くて、俺は手加減できる素手の方でしか叩けなかったのだ。只管殴って気絶させて藤の家に落とし、ひたすら体力消耗させて藤の家に放置を何度も繰り返した。俺はそろそろ過労で死ぬかもしれない。その二人を見なくなって安心すれば今度は髪の毛が派手な男に追い回された。けど酒が好きだったのか、いつの間にか戦いながらも酒の話をする仲になった。そして俺は炭の家に帰る途中で昔約束した男が転生したのを悟った。つまり千年ほど生きながらえているあの憎い鬼の主将を倒す可能性があるやつがそろそろ生まれるのだろう。守り続けていた仕事もあと百年もしないうちに終わると思えば酷く寂しかった。俺なりに愛情を注いできた家だったわけだし。そこから俺は転生した刀鍛冶がどこにいるのかを探し回った。数年もしないうちに見つかり、元気に狂ってる。母親がノイローゼになってたのは同情した。


そこから炭の家にいったり、ぶらぶらと旅をすれば小さな子供たちが剣を磨いていた、親切心で近づいて数日稽古をつけてたら、ある日、かの鼻の利く剣士に切りかかられた。年を取ってても動きが現役で戦慄した。お前怖いな。勿論逃げた。風の噂であの時の子供たちが立派な剣士になったと聞いてさらに戦慄した。俺は少しの間、教えていた彼らに今後切りかかられるのか…???


数年後、歩いていると今度は、あのすばしっこい雷の剣士に会った。あった瞬間切りかかられて俺は思わず逃げた。その横に居た黄色い髪の子が不思議な縁を持っていたのでちょっかいをかければさらに切りかかられた。ごめんってば


炭の家に行き、中を除けば今代の当主が息を引き取っていた。葬儀に出れなかったことを悔やんでいれば、幽霊となった当主、今代は名を炭十郎といったか、その男が深々と俺に向かって頭を下げる。




「どうして、頭を下げる、お前たちはいつもそうだね」
「姿は見えずとも、気配は感じておりましたから、それに、酒がなくなっていれば、もはやそれは先祖の世迷い言ではないのです。酒呑童子、悪鬼の名を関する神よ。どうかあの子をお願いします。あの子の名は炭治郎。素直でよい子です」




そう言って彼は消えた。炭治郎…と口の中で数度唱えて覚える。俺が守っていく子の名だ。
そうか、炭十郎は珍しく見えない人間だったのか。何度か彼の枕元に立ってはいたが、見えないならしょうがない。たまにいるのだ、俺を見えないほど、生命力の薄い人間が、けれどその子供たち、とくに禰豆子と炭治郎以外も俺を見えていなかったのがひどく引っ掛かる。
けれどそういうものかと俺は納得して、いつものように黄色いあのこと目つきの悪いあの子を構いに行った。数千年を生きる俺に、その問題は当時些細なことだったから



と、まあそんな感じで目を離してた隙に守るべき家の子たちが惨殺されてた。やっぱりあのクソ鬼は俺が殺そう。だから、さあ、敵じゃないので




「そろそろ刀突き立てるのやめていただいていいですかね、錆兎さん」




狐面の向こうで絶対冷たい表情してるって俺知ってるよ。あ、まって、肩に貫通してる剣先で抉る様に回したね君????気を抜きながら夜中炭治郎が生きてる様子をほほえまし気に見てたら後ろから肩掴まれて?木の上から引き摺り降ろされて?日輪刀で地面に縫い付けられる(物理)って何かな?怒るよ?お兄さん怒るよ??しかもこの刀、めちゃくちゃ力吸い取ってくるな??日輪刀って太陽のパワー吸い取ってるんじゃなくて神気を吸い取りやすいだけだと思う。太陽って元をたどれば天照大御神ご本人なわけだしね。つまり神様である俺にとっても天敵だと、は〜〜〜〜〜世の中糞ゲーですわぁぁああああ!!!

まあ、首ちょんぱされても死なないんですけどね?




「すみませんー錆兎さぁん、俺のお話聞いてもらってもーーいたいっ」
「黙れ、お前、何しにここに来た」
「まって、待ってください錆兎さん?なんでそんなに怒?おこなの???」
「殺す」
「まってぇ〜〜〜!俺首刎ねても死なないからぁ〜〜〜!!痛いだけだよそんなの!!!」




俺マゾじゃないから気持ちよくならないの、やめてください、痛くて心が死んでしまいます。
二本目の日輪刀出してきやがったなお前!?思いっきり反対の肩にも刀が突き刺さって自力じゃ抜けなくなってるぞコレ、どうしよう。逃げられないぞコレ
痛みに涙が浮かんだ時、上に乗っかる様にしていた、錆兎が狐面を頭にかけて顔を晒すーーーー
―――――――おっと、コレはやばい。

月に反射して彼の髪が綺麗に輝くのに、その瞳がひどく不吉な色を放っていることに気づいて思わず顔をひきつらせた。その色の眼を俺は知ってる、平安のバーサーカーこと源頼光が浮かべていた色と一緒だ。つまり、ひどく執着する気狂いの目。ちょっとまって、源の方も数時間の会合で俺を監禁した猛者だけど、お前もお前ですごいな錆兎くん!?君とは数日剣の稽古をしたな仲なだけなんだけどな!?俺の頬を包み込み、何度も輪郭をなぞって楽し気に目を細める男は、先ほどまでの殺気とは違う何かを纏っている




「ようやく触れられた。」
「待って待って待って、無理無理無理、何してんの何してんのねえ!?」




両手を離し、腹から胸部を撫でるように手を這わせる、男は、俺の心臓の上に掌を乗せて満足げに笑う




「頸を飛ばしても死なないことは知ってる。聞いたからな。だから、太陽の光の下で苦しみながら死ぬお前を見たい。」
「サイコパスっ!!こいつやべえやつだ!!!」
「きっと綺麗だと思うんだ。義勇にも見せてやりたいなぁ。」
「あの少年もやべえやつか!!天狗の剣士が育てる弟子全員やべえやつ!?まってうちの炭治郎もお前みたいになるの??うっそやだよ俺!!」




こんな恍惚とした表情で死にはしないけど俺の苦しむさまを見たいというコイツの発想絶対狂ってるって!!




「まあ、今のお前も鬼ってのが惜しいくらいには綺麗だ。裏切られたって思ってはいたが、違うな、人間ならお前を殺すのは犯罪だが、鬼なら何をしても犯罪じゃない。日の出まで時間があるんだ。数年分、語らないか?」
「かけられる言葉も怖いし手つきも怖いし発想も怖いよぉ…」




もう嫌だ返る、俺は炭の一家の元へ帰るぅ…。いや、炭の一家生き残りここにしかいないわ、うわ詰んだ。これ詰将棋だ

めそめそ泣いていれば、零れる涙を何度も拭われるのだから怖い。掬うたびに口元に持って行って舐めないでください。「涙みたいにしょっぱいんだな」じゃないんです―――…




「錆兎さん!それ、その人、鬼?うちの祭ってる神様なので無体はやめてくださいーーー!!!」
「うぐっ…!」




一瞬にして消える錆兎に、俺が縫い付けられた横で焦ったような顔をしてる炭治郎と、がっつり日輪刀携えたお面の剣士(老後)に、俺は降参手を上げた。






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