「俺、確かに鬼だけどお前らの追ってる鬼じゃないと思う」 | ナノ


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「―――その考えは、少し遅いと思いますよ。酒呑様」







酷く、懐かしい声だった。

此方に背を向けて、俺を庇うように刀を振るう男







「なによあんた、邪魔しないで、というか、どこから…!」
「お前が知る必要ないだろう。私がココにどう降り立ったなど。けれど、そうだな、この方を傷つけた、それだけでお前の罪はひどく重い。」







聞き触りの良いその声を発する男の顔がわずかに見えて息を飲む。
永遠に会いたくないと思っていた男だ。酷く腹立だしかったし、神である己に不敬を働いた、けれど最終的には許してしまった人の子だ。なのにどうして彼から神気を感じるのだろう。



ああ、けれども





「鬼、退治にはこれ以上ない助っ人だよ、―――頼光」
「ええ、酒呑様。どうぞしばし御身を休めてください。私は他の神々の手を払ってここまで来てしまった、すぐに強制送還されるでしょう。ですが、ええ、非常に気に食わないが、貴方の守護する一族がたどり着くまで御守りしましょう。今の俺にはあの組織のように鬼を殺す刀はない。あるのは純粋な剣技のみ」




――参る。



一息、瞬きすらも許さぬその一撃が多量に浮かんでいた鬼の帯を切り刻み、地へと落とした。鬼も、俺も何がおきたのかしばらくわからなかった。それを見越したのかさらにもう一太刀、刀が流れるように鬼の肩を飛ばした




「ああああっ!?腕ッ!私の腕がっ!?」
「まずは、一撃だ」
「なによ、あんたっ!アンタも人じゃないわね。なんなの!」
「喋る暇があるのなら逃げに徹しろ」




一閃




鬼の足が飛ぶ。

まさに圧巻だった。圧倒的な力の差



けれど神が下界に降りる時間は少ないのだ。俺のようにある意味特殊ではない限り留まることは不可能。強制的に降りてきた神ならなおさら…。頼光の身体から粒子が浮かび上がる、それを視界に入れて頼光はそっと笑みを浮かべ此方を見た

上弦の鬼はもういない、恐らく外は夜だ、逃げているのだろう




「相変わらず、お美しいです酒呑様。私も自分の役目は果たしました。無茶をしないでください、心配なのです。貴方のことが」
「心配する相手を監禁しないと思う」
「できれば私の用意した籠の中で永遠(とわ)に見つめていたいものですが、それは尊き方々に怒られてしまいますので、…ああ、あと、私は絶対認めませんからね」
「は?」
「あの、竈門炭治郎という貴方の愛し子を。貴方の好きなものを好きになりたかった、私なりに努力はしました、けれどアレはダメです。受け入れがたい」
「それは、どういう…――いっ!」
「無理はしないでください。貴方の身体は今、人に近いのです」




それでは、と、頭を下げ、男が消えた。何、だったんだと思いながら、身体を引きずり、外の様子を見つめれば炭治郎達が戦ってる。飛ばされた腕以外は傷が塞がっていた。おそらく頼光の置き土産だろう。見ているだけで分かる、なにか、ヤバいのが出てくる。それよりもっ!


飛んだ腕をくっつけて、酒を垂らし、傷口を癒して結合させる。ああもう、これが俺が作った最後の酒だってのに。数度動くことを確認してから人に襲い掛かりそうになり、炭治郎が押しとどめる禰豆子の前へと躍り出て、その頬を包み込み、葵枝が歌っていた曲を口ずさむ、それにはっとして炭治郎も歌い出した。ゆっくりと、頭を撫で、その耳へと吹き込むように歌えば、幼い子供のように禰豆子が泣き、次第にすんすんと鼻を鳴らして猫のように丸くなり眠りにつく。あの女の鬼は宇髄が首を跳ねていた




「酒呑さま、血がっ」
「大丈夫、慌てるな。炭の子、禰豆子は俺が見ていよう。宇髄」
「あ?」
「気を抜かないほうがいい。鬼の頸を、その女鬼の頸を跳ね飛ばしても、そいつは死なない。多分他に方法があるんだと思うが…、警戒を怠らないでくれ。炭治郎、禰豆子の箱はどこにある」
「案内しますっ!」
「いや、詳しく聞かせろ……って、いねえ!」





















禰豆子を箱に戻し、その箱に寄りかかる様にして俺は崩れ落ちる。やはり少し無茶をしていたらしい。慌てて俺を抱き留めた炭治郎が泣きそうになりながら俺の名を呼んでいる。答えてやりたい。けれど。答えることが出来なかった。咳込んで血を吐き出せば「ヒュッ」と息を飲む音が聞こえ、罪悪感に胸が痛む。何度か血を吐き出し、顔を青くした炭治郎が俺の胴着を掴んで小さく「いやです」と言う。縋る様に弱々しく握られたその手が震えて、何度も嫌ですという。




「炭の子…?」
「嫌です、しゅてんさま。いやです、置いて逝くんですか、俺を、置いて逝くんですかっ…。知らない匂いがするんです、酒呑様から、血の匂いと、気に、くわない、なんだか、きらいなにおい…。いやです、酒呑様、死なないで、いかないで、俺たちを置いて逝かないでください、神様、俺たちの神様なんです、いやですっ…!」
「炭の子、落ち着くんだ、取り乱すんじゃない、今はそんなことをしている暇は…!」
「そんな事じゃないっ!俺はっ、俺たちにとって、酒呑様がいなくなるのはそんな事じゃないんですっ!酒呑様、俺たちのかみさま、どこにも行きませんよね、消えたりなんて、酒呑様」




赫灼の瞳が涙の幕を張り、いつもは楽し気に輝く瞳が錆兎と似たような色を放つ。

いまは、そんな事してる暇はない、けれど、何がどうなってるのか炭の子の地雷を踏み抜いたことは確かだ、どうする、どうすればいい。少しだけ回復してきた身体を起き上がらせ、俺は俺の胸で泣く炭の子の、炭治郎の頬を包み込み、目を合わせ、本当に申し訳ないが唇を合わせた。




「んぅっ!?」
「ん、ぁ、…炭治郎、口を開けて」




驚き、目を見開く炭治郎が従順に口を開く
その口の中に己の中にあった神気で作り出したガラス玉のような小さい核を落として飲むように指示を出せば、どこかうっとりとした目で喉を上下に動かし嚥下する。

それを確認して唇を離せば粘ついた唾液が糸を成し、力尽きて切れると、垂れてゆく。




「しゅてんさま…」
「…神気で作り出した霊核だ。俺が死ぬときはそれが反応する、炭の子、お前自身が俺を常に感じることになる。今のお前にはそれがいいと判断した。」
「はい…、はい…しゅてんさま…」
「この戦いが終わったら取り除くから、今は安心していってこい」
「いいえ、酒呑様。俺は死ぬまでこれ返しません」
「……」
「死ぬまでずっと酒呑様を感じていたいんです、俺、長男だからその資格あると思うんです、いいですよね、酒呑様。俺、頑張ります、だから…」
「わかった」
「!!」
「わかった、だから、いってこい」
「――ッ、はいっ!」




ぱぁっと顔を輝かせて走り去っていったその背中に、ふと思った、炭の子、俺と最初に契約した男に似て来たな。本当に。うっとりとした目の色と言い、途端にたどたどしくなる言葉遣いと言い、やっぱりこの世界の遺伝子強いわ…。

禰豆子の入る箱を撫でて、少しだけ目をつむる。なんだか、ひどく眠かった




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