「俺、確かに鬼だけどお前らの追ってる鬼じゃないと思う」 | ナノ


▼ おまけ2

平安コソコソ話




鬼が出たという

人を喰らう鬼が、出たという、その話を聞いたとき、私が最初に思ったことといえば、「はあ、そうですか」くらいだった。鬼が出たからなんだというのか、まさか倒しに行けとでもいうつもりなのかと。神から授かったという刀を受け取り、他の武将を引き連れて山伏の格好に扮した私が妖の蔓延る大江山に足を踏み入れる。一見して普通の山だったそこに足を踏み入れた時だっただろうか、私たちの耳に鈴を一斉に鳴らしたような音を拾う。煩わしいと顔を顰め、他の武将たちを見れば、どこか夢幻を見たかのような表情で空を見上げていた。

つられて私も顔を上げた。

そして刮目する。

朝日が昇ったのを確認し、この山に入ったはずだった。けれどどういうことなのか。空には黄金色の月が昇り、星が輝く。さらには楽し気に空を飛ぶ仮面をかぶった天狗の姿。小鬼たちが木々の間からこちらを覗き、木々の一つ一つに生きている何かの気配を感じる。

まさしく魔境だった。

鬼の住む山、大江山。その存在はまことしやかにささやかれ、禁忌として触れずにいた山。とんでもない所に来たのではないのか、私たちは、人という脆弱な人間が踏み入れてはいけない場所に踏み入れたのではないのか。山全体が私たちの動向を観察していた。警戒していた。何かを守るかのように殺意にあふれる、他の武将たちはすでに魅入られ呑みこめれそうだ。



『人が来た、人が人が』
『出ていけ、ここは大江山、妖たちの巣窟』
『お前らが踏み入れてはイケぬ、尊き場所』




脳内に声が響いた瞬間、石がこちらに向かって投げられる、大木が暴れるように枝をしならせた。

ソレを切り伏せる。他の武将たちも正気に戻ったのか飛んできた木の枝を、石を切り伏せて、囲まれていることを恥じながら前を進んだ。途中でキツネ面の男が行く手を阻み、タヌキの面をした女が艶やかに手を伸ばし、この国では見ない鮮やか黄金色の髪をした女童が泣きながら応戦してきた。火の玉があちこちに浮かび上がる。

この女童、ひどく強い。上等な着物を身に纏い、愛らしい顔に涙を浮かべながら四人を相手にして酷く余裕を残し、手を抜いてその拳を振るう。だからこそ、私が加わり、その体躯を抑え、縄で縛った。声を上げて鬼は抵抗する。




「〜〜〜っ!言いつけてやるんだからっ、酒呑さまにっ、酒呑様に言いつけてやるんだからぁああああっ!!!」




髪を振り乱し泣き叫ぶ様は酷く同情を誘い、、髪を振り乱したからこそ、この女童の額を飾る二本の角を見た。鬼だ。探していた鬼だった。この女童の正体が知れたと知った瞬間、焦ったように山が揺れる。武将の一人が剣を抜いて鬼の首に刀を降ろそうとした時だっただろうか、間に入った青い何かが刃を腕で受け止め、そのまま斬撃を横に流すと、縛ったままの鬼を抱き寄せ、困ったように微笑む




「はてさて、人の子。配下が失礼したな。けれど、ここは魔境大江山。何ゆえ足を踏み入れたか」
「しゅ、てんさまぁああああっ!きいてくださいっ!あいつらっ!あいつらぁああああああああ」
「いや、先に暴走したのはお前らだろう。こら茨木。この着物は一等上等なんだ。涙で濡らすんじゃない」
「怒ってくださいっ!怒ってくださいっ!!九尾ちゃんとか!妖狸ちゃんとかっ!がんばったのにぃいいっ!私の桃木を切り捨てたんですよ!!」
「私情じゃないか…」




頭を抱えて息を吐き捨てる姿が理性的だった。その姿から噂で聞く鬼との違いに私も彼らも困惑する。噂に聞く鬼には理性がない。人を襲うことしか考えてないと言えばいいのか、そもそも対話が可能でなく、群れることすらないのだ。だからこそ刀を納めて声を掛ける




「こちらも、非礼を詫びよう。私の名前は源頼光。鬼退治の命を受けてここまで来たものだ。だが、私たちの思う鬼と、貴方は余りにも違う。そちらの話を聞きたい」
「ああ、ご丁寧にどうも。手荒な歓迎すまないな。俺の名前は酒呑童子。この大江山の主にして妖たちを率いる鬼の首領だが、このように成人の成りをした鬼は俺以外に見たことがないんだ。他はこの茨木童子のように子供の姿をした鬼でな、君らの追ってる鬼が小柄ならばこちらの落ち度だが…」
「いいや、私たちの追ってる鬼はあなたのように成人の成りをしている」
「そうか、なるほど。少し話をしよう人の子ら。……そして、いつまで拗ねているんだ九尾、道を開け」




お前たちも、あまり客人に無礼を働かないように。そう言って宙で何かを撫でるような動作をした鬼が月を背負いながらゆったりと微笑む。宵闇のような髪が風に揺れて夜桜が舞う。いつの間にか鬼の後ろには上皇が住まう屋敷よりも立派で美しい【何か】が姿を現した




「歓迎しよう人の子。そしてようこそ、ここから先は真の魔境、俺の住まう屋敷へ。」




悪戯に輝く月の瞳に囚われ魅入られる。下界なら不埒と一蹴されるだろう着崩された着物が肌の白さを強調して、吸い込まれるように目を奪わせる。嗚呼、きっと私は狂っているのだろうなぁ。いま、この瞬間に狂わされた気がした、人よりも上位の存在にすべてを捧げたい。その手に触れたかった、身に纏う物も、小ぶりな口に入る食物すべて、自分が与えたいと、彼と話し、酒を交え、寝食を少しの間ともにして、思ってしまった。だからこそ数名の部下を走らせて、笑みを浮かべて存外気軽い鬼に言う



―――家に秘蔵酒がある、それをあなたと共に二人で飲みたい



鬼はくすりと楽し気に笑って許可を出した。この短い逢瀬の間で鬼のことを十分に知れたと思う。なんせ一定以上酒を飲めば上機嫌に目を蕩けさせながら話してくれるのだ。その姿が何と美しいことか…。



一つ、鬼は定期的に酒を飲まねば本来の力が出ないこと
一つ、その腰にかかる瓢箪は様々な機能があること
一つ、鬼は一度眠ってしまうとなかなか起きないこと
一つ、この山は今、開けている事
一つ、妖たちは一定の力があるもの以外は山から出ることを許されないこと
一つ、――――神として、血の契約を交わしてしまえば相手が死ぬまで逃れられないこと

ああ、ひどく良いことを入れた。


笑みをこぼす私に、家の秘蔵酒、神殺しの酒と呼ばれる酒を飲んだ鬼が首を傾げる。ふわふわとした笑みを浮かべて無邪気もこちらに身体を預ける鬼にもう一杯と酒を注ぐ。そしてその酒を飲む前に聞いた




「もしも私が、貴方を連れて帰りたいと言えば、この手を取ってくれますか?」




いつ、帰れるかなど言わなかった。そんなこと必要ないと思った。私がこの鬼を欲しいと思った。連れて帰りたい。閉じ込めたい、その姿を私以外に晒さないでほしい、そんな思いを込めて、願掛けのように言葉を放った。

判断力が明らかに鈍った鬼はまた艶やかに笑うとこちらを向き直り、目を細める




「うんうん、お前は俺が初めて深く関わった人の子だしね!それくらいならいいよっ!」




酒を、入れる。

確かに感じた。ピンと張るような太い糸のような何かが私と彼を結び、繋ぐ。

そこからは笑ってしまうように簡単で、酔って眠った酒呑童子を連れ去ろうとしても妖たちは何も言わない。おそらく俺と彼が血の契約を交わしたのを見て取れたのだろう、ほんとうに二人っきりだったおかげで、怪しまれもせずに屋敷へと連れ込み、彼が眠っている数日の間に地下牢だったそこを座敷へと変えた。腰に着いた瓢箪をすべて外し、隠す。数日眠っているというのにいまだ起きない鬼を上質な布団へと転がして、その足に枷を嵌める。すべて私が行ったし、そのことに苦なんてなく、むしろ喜びで胸が満ちていた。ともに大江山へと登った武将たちが酒呑童子を見に屋敷に訪れたが、それをゆるはずもなく追い返す。まだ起きていない。そもそも眠っている彼の人を下賤な男どもに見せるつもりは微塵もなかった。

さらに数日たってから、酒呑童子が目を覚ました。その瞬間の私の胸の内と言ったら歓喜と感動で言葉も発せずに魅入った。月色の瞳がのぞき、どこかまだ寝ぼけている彼は手をさ迷わせて何かを探す。「寝すぎた、…さけ…」と聞き取れたが、ここで酒を与えるわけにもいかず、ただの水を渡して、その際に少しだけ触れる手の温かさ。それだけで幸せだった。覚醒した酒呑童子が何か言っていたけれど、それすらも酷く愛おしく、酒以外のものを何でも与えてみる。美しい羽衣、雅な簪、職人に打たせた短刀。美味と評判の果実も、宮で流行った織り菓子も、思いつく限りの物を送った。けれどそのすべてに見向きもせずに頬を膨らませたまま今日も美しい鬼とは目が合わない。こまった、ひどく困った。けれどその手がかかる姿すら愛おしかった。数か月たった時、鬼に酒を与えた、鬼にとってはほんのわずかな量だっただろうけれど、初めて笑みを見せるその姿に、すこし欲張ってしまった。もっと見たいと、思ってしまう。そこから、座敷牢から出してみた。楽し気に池の鯉と戯れる姿が神々しい。けれど女中とはいえ人と話すことは許さない。その声を、目を、優しさを他人が感じることは絶対に、許すものか。

館の人間にそう告げた。

彼の人に遭遇しても、話しかけても何も言わずにその場を去れ。違えた時はこの屋敷から追い出す。女中も妻も子供たちも酷く困惑したように頷きながらも、やはり鬼の姿は屋敷の人間を魅了して、声すらかけずとも、姿を見つめる不届き者が多い。子供たちすらも妻に止められなければ我先にとその手に触れて着物を掴むだろう、血は争えないらしい。昔に比べ年老いた私を見つめる鬼は、数度ため息をつきながら、言った




『まあ、酒やら肉やらがおいしかったし、お前の行いは許すよ。貢がれて人の子との関係を制御されたのは酷く腹立つけどさ、それ以上に、人の子はやはり可愛いからね』




皺の増えた手を傷一つない柔らかな手が包み込み、そっと微笑む。綺麗な笑みだった。美しく、そして憂げな笑み。私があの日、あの夜、あの山で見惚れてこの鬼の虜となった笑み。




『この時代の人間にしては大往生、だったんじゃないかな、頼光。さあ、おやすみ。来世ではこんな不届きをするんじゃないよ』




結局最後まで男としては見てもらえなかったらしい。しょうがないモノを見る目だった。それでも死の間際に握られた手と、愛した鬼の笑みに看取られた私は幸せ者だろう。それは疑いようにない。最後の力を振り絞ってその手を握り返して眠りにつく、我ながら穏やかな最後だった。





だからこそ、次に目を覚ました時は驚いたものだ。姿が若返っている。全盛期の頃の若い姿で、目の前にはどこかあの鬼に似た女人が経ち、眦を吊り上げ、こちらを指さす




『人の分際で私の子を閉じ込めたことを許しませんよ。本来なら地獄の沙汰で地の底に落としてやりたいくらいです。ですが、貴方の功績が認められたせいであなたは武神として神となりました。神としての位を少しはく奪することで生前の罪を禊ます。』




あとから聞いたところ、あの鬼も元は人だったらしい。けれど様々な要因が重なって神として生まれ変わり、あの時代に存在した。そんな事よりもあの鬼と対等の神という位に心が躍る。そんな私を見咎め、女人はさらに怒り出した




「――っ!よい、ですか!あなたは今後数百年、あの子に下界で接触することを禁じます!!」




逆に言えば天界では良いということになる。そこの事にそっと笑みを浮かべて承諾した。


しかし、私は知らない。千年たった今ですら彼に逢えないことを、そもそも彼自身が天界に来る手段を知らないことを、私は知らなかった























主人公

監禁されてた人。でも人だからしょうがないよね間違うよね俺は許すよ。もう会いたくないけど。



源頼光(武神)

元から素質があったのか、それとも主人公によって狂わされたのかあやふやな人。主人公のすべてを自分が用意したいっていうタイプ。貢ぎたい世話したい頼られたい見つめていたい話していたい、でも自分以外の奴がソレをやるとブチ切れる。錆兎と似たところはめちゃくちゃあるけれど、根本的にいろいろ違う。ただ行動がすごくそっくり
錆兎:俺以外を(恋愛的に)見ることを許さない、何なら鬼って黙ってたことも許さない。主人公の感じることにはすべて自分が関わっていたい。主人公のことは全部知りたい。他人と関わることには結構許容範囲が広い。(元々弟弟子の守り神なのでしょうがないっていう理解がある)
頼光:自分以外を恋愛的に見ても別にいい。主人公に貢ぎたい、世話をしたい、別に身体の関係がなくてもいい。見てるだけで満足、貢がせてくれるだけで幸せ。関わるやつは全てこの世から消す(たとえ加護を与えてる家の人間でも許さない)自分だけを見てほしい、自分だけを感じてほしい、自分だけに触れてほしいっていう欲求が非常に強いので監禁に走りやすい(ここは錆兎と一緒)

最期が主人公に看取られて幸せだった。けれどそのせいで死んでも執着してる。

主人公関連では酷く炭治郎と相性が悪い。(同じ血の契約結んだ関係なのに根本的にいろいろ違う)ある意味炭治郎が病んだ究極型かもしれない







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