「俺、確かに鬼だけどお前らの追ってる鬼じゃないと思う」 | ナノ


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「また、このパターン…」
「あら、酒呑さんはこの状況を経験済みで?」




にこにこにこにこにこにこにこ
つんつんつんつんつんつんつん


肩を落とした俺に追い打ちをかけるような感じで言葉を投げかけてくる蟲柱に頭を抑えながら頷いた。俺たちの目の前には洋風なつくりをした壁に、『課題箱』と書かれた簡易な箱が二ついい加減にしてくれ。キリキリと痛む腹を抑えれば、大丈夫ですか?と背をさすってくれる。蟲柱が優しい。今回の鬼はただの変態だった、その村周辺で鬼が人を食べたという状況はなかったものの、仲の進展しない男女が森に入れば神隠しにあって、数日のうちにただのバカップルになり帰ってくると言う事案が多数報告された。もうこの時点で意味が分からなかったし、別にヤバーことでもなかったので、御屋形様も報告を受けた誰もが、まあ、いいんでね。っていう感じに重要度と緊急性ゆえに問題()が後送りにされてきた。まあ、10年もたったし、一応確認のために派遣されたのが俺と蟲柱である胡蝶しのぶである。出かける際に胡蝶カナエからは肩を掴まれ、真顔で何もしないように脅された。何もしないよ。




「まあ、見てください酒呑さん」
「ねえ、なんで迷いなく開けたの」




箱を開けた彼女が少しだけ驚いたように口元を手で覆い、俺の服を引っ張ると、箱の中を見せた。彼女は彼女の箱を開けたらしく、遠慮なく俺の箱も開封した、そこには非常に達筆な字で




『双方が媚薬を飲み、一時間耐久しないと出られない部屋』




まさに外道。

これぞエロ同人誌の醍醐味のような部屋だった。胡蝶は3つ、俺が5つ。量がおかしい。そう思いながら胡蝶が血鬼術を掛けられた際に殺した鬼のことを思い出す




『しゃああ!!美女ぉおおおおお!!!しかもお相手様も美人じゃねぇかコレは合法的な百合が見えるよかんっつ!!!』




―――毒を喰らって死ぬ間際―――



『なんで最後の最後で美女美人のほにゃほにゃが見れずに死ななきゃいけねぇんだよちくしょぉおおおおおおおおおおおおお!!!』




お前も生産元同じだろ。ふざけんなよどうなってんだ最近の鬼の中身事情。無惨の方も中身見る目なさすぎだろ、明らかにやばい奴だろこいつら。阿保の極みじゃないのか。しかも最後の最後で毒でもだえ苦しむでなく、見れないことを悔しがって死んでいく様は俺も蟲柱も何も言えずにただ無言で見下ろしていた。頭おかしい。

とりあえず箱に詰められた媚薬を手元の引き寄せて、胡蝶妹に渡せばソレを大人しく受け取って飲み干す。いい飲みっぷりで少し引いた。俺も持ってきた盃に注ぎ、瓢箪から出した酒を注いで飲み干した。んー。味が無味無臭の奴だったらよかったのに、女好みしそうな甘ったるい味だ。




「…ところで、何も言わずに飲まれましたけど、耐久でも?」
「さっき交ぜた酒は解毒の作用がある。お前も一応飲んどくか?」
「そうですね。少しいただきます。何かありますか?」
「俺が口付けて飲むわけじゃないからな、そのまま飲んでいい。」
「まあ…。ですがそうですね、四の五の言ってる暇はないですから」




コクリと上下する喉を見てから、俺は他に視線を向けた。巨大な時計を模したタイマーが音を立てて時を刻んでいた。うん。そっか。何となく死んでいった鬼に悪態をつき、飲み終わったのか、返された瓢箪を縮ませて腰に差した




「それにしても、最近の鬼は可笑しなのが多いですね。」
「え、最近多いのか…?」
「はい。そうですね、先日酒呑さんと炭治郎くんが遭遇した鬼もそうですけど、冨岡さんと鱗滝さんが二月前に遭遇した鬼もこういう血鬼術を使ったらしいですよ。報告書には詳細が書いてあったのですけど、私は閲覧できなくて」
「柱にも閲覧制限があるんだな」
「本来はないので、【そういう】内容だったのだと思います」




にっこーと良い笑顔でコロコロ笑う彼女が怖い。
どんな内容なんだろう少しだけ気になった、そんな俺の考えを見抜いたように胡蝶妹がこそこそ話をするように俺の耳に手を添えて言う




「まあ、そういうことですので、そろそろ本腰入れて逃げないと、食べられちゃいますよ?」
「………お見通し?」
「あれだけあからさまに姉さんを警戒されると、妹として、ねぇ?」
「君ら似た者姉妹だよ本当に」
「ありがとうございます」




見通すところとか、変なところで聡い所とか本当にそっくりだと思う。だから




「ああ、君も気を付けなさい。厄介なものに好かれそうな相だからね」




にっこりと笑えば彼女は少しだけ目を瞬かせて頷いた。ところで




「なんであんなに軽々と媚薬を飲めたの?」
「私、これでも薬への耐性があるんですよ?」




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