「俺、確かに鬼だけどお前らの追ってる鬼じゃないと思う」 | ナノ


▼ 1

煉獄が上弦の参に遭遇した任務から明けて数日、俺は自由の身となった。扱い的には子飼いの犬…もとい鬼、ではあるけれど結構確約された自由だ。角さえなければ俺は鬼には見えないので割と堂々と鬼殺隊の建物を歩いている。柱だけじゃ少し不安のある任務等には駆り出されるが、大抵雑魚だしな、たまに妖怪のせいで俺が頭を下げる側だけどなこの世はマジで糞ゲーだな?イージーモードが欲しい。そのたびに元凶となった妖怪をしばき倒しながらお給金貰ってる。鬼である俺に金を渡すとは、何気に暇だな御屋形様。神々からいろいろ今取り上げられてはいるものの、俺は俺で強いのだから十二鬼月じゃなければ何とかなる。舐めないでいただきたい。まあ、最近はひたすら錆兎から逃げてる俺が言うのもなんだけどな。ごめんなさい。現実逃避だこれ。目の前に広がるのは一面障子に囲まれた20畳くらいの割と広い部屋。俺の横には炭の子がちょこんと座っている。そして書かれた『お題箱』の文字。はー、これ作った鬼は今すぐに出てきて俺に殺されるべき。今日の俺は珍しく炭治郎の任務に着いてきたわけだが、鬼が死ぬ間際、苦し紛れに炭治郎へと血鬼術を放った。で、その結果がこの部屋だったわけだ。ちなみにその鬼は何かがおかしかった。へらへらして笑って、炭治郎を見ると渾身のガッツポーズを繰り出し『ワンコ系のショタァァァアアアア!おっしゃおらぁああああ!』と雄たけびを上げたのだ。お前もしかしなくても生産元(時代)同じ人間じゃないだろうな。とりあえずどうにもできなかったので死んだ鬼の魂をひっつかみ、瓢箪へと投げ入れた。ちなみに死ぬ間際、俺の方も見て『憂げの美人とかごちそうさまです。受けですね??私からの置き土産ぇええええっ!!』と、血鬼術を使ったのだ。生きてる己が見れないのがつらいと言いながら成敗されたので、マジである意味苦し紛れだったのだろう。ちなみに、この鬼の被害報告は毛色がかなり違う。理由としては数日神隠しのように消えた男の二人組、または複数が戻ってきたと思えば衆道に走っているという被害報告なのだ。事実、炭治郎の前に言った鬼殺隊の数名がイチャイチャしながら帰ってきた。地獄絵図かな??さて、話を戻そう。このお題箱。どっからどう見ても噂の『○○しないと出られない部屋』なわけですよ。あー、お題見るのがひどく怖い




「酒呑様!見てください!」
「すごいな、俺が怖いって思ってるものを炭の子は軽々と超えていく」




自分の目の前に置いてあった箱をさっそうと開けてお題を見せる炭の子に頭を抑えながら、俺も己の箱を開けて、中から紙を取り出す



『〜〜この部屋は双方が双方を一時間見つめ合って、己の欲望を我慢できれば出られる部屋です!片方が片方の頬に手を添えて見つめ合ってください!』



―――うっそ!私のあがきがこんな生ぬるい部屋なの!?美ショタと憂げ美人のドロドロみせろよぉっ!!鬼になった意味ないじゃんっ!!!




魂だけの状態になってなお己の欲望と性癖に正直な鬼に困惑を隠せない。俺知ってるコレ腐女子だ。むしろ今までこの鬼こんな悪趣味の部屋に人間閉じ込めていたのか。はぁっと、ため息をつきながらご丁寧に体位の指定まである。なんでそんなに細かいところまで指定しているのかがわからない。少しだけ照れたような炭の子が健気に「頑張りましょう!」と元気に話すのを見つめ、頭を撫でながら突然、煙を上げて出てきたタイマーに頭を抑えた。




「じゃあ、炭治郎。始めるぞ。いいか。ココは我慢する部屋だ。長男だからできるな?」
「はいっ!酒呑様!」




身長的に俺が頬に手を添える側なので、姿勢を正し、優しくそのまろい頬に手を添え、こちらに目を合わせさせる。赫灼の瞳が健気な尊敬の瞳に揺れて、強い意思を感じさせた。どこからともなく笛の音が響いたので多分スタートしたのだろう。



―――あーっ!あーっ!!困りますお客様!そんな純粋培養の瞳と優し気な瞳を合わせないでぇ!!私が汚れて見えるっ!!でもマジでおいしいなっ!?酒呑様!?酒呑様の方はショタの方を炭の子??萌えの過剰摂取で死んでしまいますぅっつ!!なんっでこの部屋マジでこんなぬるい仕様なの??いい加減にしろよランダム使用!空気読めなさすぎだろ!!!!


いい加減にするのはお前だよ。この部屋が鬼の作り出した空間のせいなのか、瓢箪の中にいる癖にめちゃくちゃ自由な言動。頭が痛すぎる。じっと見つめ合ってるせいか、だんだんと炭の子の顔が赤くなってきた。それに加えて、少しだけ目線をさ迷わせてるけれど、まだこちらから目線を外していない。うんうん、良い子だね。目を細めて、笑みを作るのを我慢する。この部屋は我慢する部屋だ。下手なリアクションはアウト判定を受けかねる。瞬間、わずかに炭の子がそえた手に頬を押し付けーーー




ビーッビ―ッ!!

『チャレンジしっぱーい!!記録は24分!はい!最初から!!』




炭の子の顔がマジで絶望に染まったのを見て、頭を撫でれば「すみませんすみません!!」と涙ながらに謝るその子の頭をさらに撫でた。よしよし。可哀想にね。ちょっと我慢できなかっただけだもんな。次頑張ろう。




「ち、ちがうんですっ酒呑様!おれっ、ちょっと、ちょっとだけ魔がっ!あ、ちが、そうじゃ、うぁあああああっ!頑張れ!頑張れ炭治郎!俺はすごい奴だ!俺は長男だ!頑張れ頑張れっ!」




―――え、自分の励まし方可愛いな。炭治郎くん可愛いね??でも正直めちゃくちゃごちそうさまです!酒呑様も慈悲深いな。え、尊い。今まで閉じ込めた仲で一番尊い。これだけでおなかいっぱいです。




「そうだな、炭の子はすごい子だ。だから、俺の事をじっと見てるだけでいい。ほら、こっち向いて」
「はわわっ…」




―――酒呑様ぁーーーっ!サービスが過ぎます!!死んでしまいます!待って!死にたくない!まだ死にたくない!!あなたたちの恋の行く末を見るまでは死ねないっつ!!



ねーよ。炭の子を穢れた目で見るんじゃない自重しろ。ていうかお前はすでに炭治郎に頸飛ばされて死んでるだろう。死人は大人しくしてろ。元々にっこりと笑みを見せながら炭治郎と見つめ合ってるせいかブザーはならない。なるほど、スタート時点で作ってれば判定には入らないのか。炭治郎がこちらを真っ赤にしながらみつめている、何か言いたげに動く唇を見とがめて目を細めつつ、ジッと見つめ続けた。どれくらい時間がたったのだろう、体感的には結構経っているのだけれど、少しだけ目線を他に移したい。けれど移せばソレは欲望とカウントされないだろうか?難しいなぁ。相変わらず瓢箪はうるさいし。




「うっ、あーーーーーーっ!ダメです!俺が無理ですっ!!ごめんなさい酒呑様ぁっ!!!」
「す、炭の子??」
「酒呑様の顔を一時間眺めるなんて無理ですっ!!俺には難しすぎますっ!そんな、目で見ないでくださいっ、大切にされてるって、わかってしまって、それなのにお話しできなくてっ、ううっ、なんで喋ってくれないんですかぁっ!!」
「ここそういう縛りが…」
「俺とこの部屋どっちが大事なんですかっ!」
「炭の子だけど、出ないことには…」
「じゃあ俺を構ってくださいよぉおおおおっ!!」




うわぁあああんっと俺の膝に顔を埋めて、赤子のように泣く炭治郎を撫でた。そしてふと気づく。あれ、ブザー鳴ってないな??訝しげに、顔を横へと向けて、タイマーを見れば一時間ピッタリの所で止まっていた。つまり、この術、解けてるのでは?いまだ泣き続けてる炭の子の背中を撫でながらホロホロと崩れ去る部屋を見た。いつの間にか瓢箪からの声も聞こえないので、多分あってる。よかった、俺は今、神様的パワーが使えないので、実力行使ができないから、安心した。でもね、炭の子、そろそろ地面に座り込むのはやめようか。ほら、涙を拭いて、うんうん、綺麗な赫灼の目が更に赤くなってるよ。もう。仕方のない子だな。
慰めて、立たせれば、「善逸には、言わないでください」と鼻声で頼まれたので頷いた。存外涙脆いこの子にしては頑張ったほうじゃないだろうか。



慌てたように走ってくる隠の人間たちに手を振りながら、炭治郎の無事を告げた。




prev / next
目次に戻る









夢置き場///トップページ
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -