「俺、確かに鬼だけどお前らの追ってる鬼じゃないと思う」 | ナノ


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はい、ということで、柱の人と行動を共にすることになった酒呑童子こと、俺です。なんか炭の子はすでに禰豆子を常に背負ってるため、俺にまで目は向かないし、神とは言え俺は鬼だからね、一定期間の間、監視されることになったわけだ、最初は蟲柱と花柱だった、と言っても蟲柱が俺と胡蝶とおしゃべりするわけだった。風柱は四六時中威嚇してたし、蛇柱は俺に何か感じるところがあったのか、蛇を庇いながら一定の距離保たれるし、恋柱には可愛い可愛いとか言われるし。てかその服すごいな??そして今日、特定の人間にしか姿を捕らえることが出来ないような術を己にかける。いちいち歩くのは怠いからね。ふよふよ浮きながら炎柱の肩に纏わりつく。んー。見れば見るほど似てる。この世界、遺伝強いなぁ。炭治郎といい、この炎柱といい。




「む?食べるか!?」
「いや、いらない。というか、独り言みたいになるから黙っときな」
「うまい!」
「聞いてねぇ…!」




うまい!うまい!うまい!と連呼するそいつの頭を少しだけ交ぜるように撫でれば、食べる手を止める。きょとんと、瞳孔の開いたような目でこちらを覗いていた。その目と視線を合わせるように微笑む




「美味しいと思えるのは良いことだよ。人の子。でも、少しだけ声を下げようね」
「……っ。…無理だな!」
「…おい」




元気が良いけど、こっちが胃もたれするからね…。俺の胃に配慮してくれ。少しだけブスくれながらうまい!うまい!と食べ続ける炎柱の頬をつつき、髪を弄り、ふわりと浮き上がる。空中で横になりながら産屋敷の主人から渡された酒を盃に注ぎ煽ったとき、炎柱の横に立つ女性に目を向け、声を掛けた。




「あれ、倭迹迹日百襲姫(ヤマトトトヒモモソヒメ)じゃん。予言の神様がこんなところにどうしたの?」
「……死にますよ」
「ん??」




まってね。いきなりの言葉に俺は思わず持っていた酒を取りこぼす。一応神の触れた神酒だから零れても人に害があることはないけれど。倭迹迹日百襲姫の配慮でこぼれた酒が床に届くことなく消えた。それに加えて、この空間が一種の神域と化した。俺がいくらしゃべろうと炎柱の耳には届かなくなったわけだ。

倭迹迹日百襲姫…第七孝霊天皇の皇女であった、俺と同じ元人間にして現神嫁。有名な逸話としていくつかの予言、夫が彼女を驚かそうとしたとき酷く叫んでしまったってのがあるけれど、それは今関係ないか。それにしても




「死ぬってのは、俺が守護する一族?」
「いいえ、そこの男です」




すっと指さすのはいまだに弁当を食べる炎柱。予言する神の言葉に俺は目を細めた。なぜ彼女がここに来てソレを告げたのかがわからない。それに、神々が下界に降りることすら珍しい。何か企んでいるのだろうか。コロンと床に着いた下駄が鳴り、朝露色の羽織を身に纏う女神を見つめた




「―――、あんたが、俺に干渉してまで助けたいってことでいいのか」
「いいえ、見かけたので。挨拶のようなものです」




それでは。

ペコリと頭を下げて、彼女は消える。俺にも言えることだけど神っていう生き物は存外身勝手だ。挨拶のようなもので人の死を予言されちゃたまらない。でもまあ、神の中ではよくあることなのだろう、それに、死んで無いなら俺が救い取っても怒られまい。

彼女が消えたことで神域も解消された、深いため息をついて、空中にコロリと横になる。不意に、炭の瓢箪が熱くなって、炭の子の気配がする。




「炭の子がいる」
「む!?あの少年か!」
「―――、この列車に、あの子が…?なあ、炎柱」
「煉獄だ!」
「ああ分かった煉獄。この列車、鬼が出たな?」




俺の声が周りに聞こえないことを承知してか、にっこりと笑うことで笑みが返される。そしてまた、うまい!うまい!と連呼した。うん。学習する気のない姿勢は評価しよう。けれど、鬼が出る汽車、か。なんとか俺だけでどうにかできないものか。それに、こいつを放置すると死ぬらしいし。

俺は考える、考えて、周りを見渡した。人がいない。ただ、せかせかと炎柱に弁当を運ぶ女中のような人間がいるだけだ。ならば




「何かしていたらわるい。来てくれ胡蝶」




腰にある瓢箪をつぶす。煉獄と向かい合う椅子に花弁のまじる風の渦。そして、ふんわりとした香りと共に胡蝶が現れ、黒い髪が腰に落ちたとき、彼女は笑顔で俺を見た




「短時間に二回もなんて珍しいですね。あら?煉獄さん?」
「うむ!胡蝶か!柱会議以来だな!」
「ふふ、本当に。それで、どうしたのですか、酒呑様」
「うん、説明してる暇があんまりないんだけど、とりあえず、煉獄の側にいてほしい。そしてここは、鬼の出る汽車だ」
「…なるほど。わかりました。お任せください。それで、酒呑様はどうされるんですか?炭治郎くんの香りがするのですけれど…」
「ああ、そっちに行くわけじゃないよ。俺は俺ですることが少しあるからね。胡蝶、これを。俺の神気で作り、固めたこの汽車の切符だ。この時代の人間がそこまで確認するとは思わないけど、まじまじと見られたらヤバいから、気を付けて」
「詐欺ですよ」
「チガウヨ」
「詐欺だな!」
「チガウヨ」




詐欺じゃねえし。どこかニマニマとした感じでこちらを見つめる柱から目をそらし、汽車の上へと降り立つ。人の子には見えないからいいけれど。この汽車、生き物の気配がするな。血と人の匂いが混じってて気持ちが悪い感じ。一車両だけじゃない。全部からそんな気配がする、けれど鉄の匂いと混じってるせいかな。どこに鬼の弱点があるのかわからない。下駄で数度車両を叩く。何も反応がない。炭の子には加護があるからしばらくは大丈夫だろうけれど、知らない間に死線を潜り抜けてるせいか、めちゃくちゃ擦り減ってるんだよ。

扇を広げて試しに傷つける。少しだけ汽車が震えた、なるほど、全体的に痛覚はあるわけね

列車が動き出す。風が頬を撫でてて、生き物の気配を感じ、振り向いた。そこには瞳に数字を入れられた人の形をした何か。その何かが首を傾げる




「おかしいなぁ。攻撃をされたと思ったんだけど」




―――誰もいないじゃないか。

いるんだけどな?その言葉に返したいのをこらえ、少し、距離を取る。けれど




「離れたね」
「――っ!?」




分かるのか。数度跳ねるように後方へと下がれば、俺がどこにいるのかがわかるかのように距離を詰めて肉塊のようなもので攻撃してくる。下からも出てくるソレを扇で切り伏せた。

勢いをつけてその場で回転してからその顔面を殴りつける




奴の首が飛んだ




でもさ、生えてくるってソレは反則ではないんですか???アドバンテージ高すぎですね殺す。何となくだけど、この鬼からは俺の嫌いな匂いがする。扇を無意識に口元に持っていき、姿を見せれば鬼が首を傾げた




「何かの術かな。いきなり現れた」
「神の前で口を利くその根性は評価する、でも駄目。殺す」




そう言って瓢箪を割り、かつて鍛冶師から受け取った日輪刀を取り出す。刀の柄を掴み、抜刀した。鞘は持っていても仕方がないので瓢箪に変えてから腰に差す。鬼っていうのは日輪刀じゃないと殺せない、だったか、ひどく面妖で面倒だ。嫌な臭い、嫌な感じ、それ以上に、いやなーーー気配だ。




―――酒呑様
―――どうした胡蝶




脳内で聞こえた声に、声を出さず、目の前に現れた無数の肉塊を切り捨てながら応答した。胡蝶の周りに動いてる人の気配がするな。それが理由か?煉獄がいるにしては静かすぎる




―――はい。駅員の方が切符を切った瞬間に、皆が不自然に眠り出しました。
―――みんな?
―――はい。おそらく血鬼術かと、私も真似るように目を閉じましたが、どうしましょう
―――待機。かな。こっちは鬼と交戦中。おそらく今回の黒幕。お前ひとりじゃ乗客全員は守れないだろう
―――全員?今回の鬼はこの汽車ということですか?…それならば、できても4両です
―――なら待機。最悪ほかの乗客は見捨てていい。けれど、鬼殺隊の面子を取りこぼすな
―――はい。




ぷっつりと繋がっていた糸が途切れる。それに加えて加護を通し、炭治郎に揺さぶりを―――、ん?なんか見覚えのある気配がもう一つあるな。これって、昔ちょっかいを掛けた黄色の髪の子か。ならこの子にも少しだけ揺さぶりをかけておこう。世間は狭いな


―――――見えた。


肉塊を切り捨てた先、鬼の頸に刃を喰い込ませて飛ばした。それなのに




「……、本体は別ってことか。」
「その通りだよ。それにしても人じゃないね、鬼でもない」
「神だよ」




それ以外に伝える言葉なんてないね。刀を鞘に納めながら、炭治郎の起きた気配がする方を向いた。鬼が不思議そうにこちらを見ている。




「お前を倒す役目はあの子に譲ろうかな」
「倒す?おかしなことを言うね」
「倒されないと思ってる、お前ほどじゃないさ」




それ以上に、もう一つ、ヤバい気配がするからね。どこか見知った気配。それは鬼だ。止めなければいけない。すごい速さで走ってる。下手するとこの汽車よりも早いんじゃないんだろうか。下駄で車体を蹴り、俺は地面に飛び降りた。一瞬だけ見える炭の子に笑みを向けて気配のする方へと向かう。どこかで覚えがある気配だ。どこだっただろうか。何度も交えた気がする、何度もーー…なん、ども・・・????

思わず己の脚にブレーキを掛けた

ちょっとまて、落ち着け俺。何度も、交えた(人間にとっては)ヤバい気配…???それって俺と同じ時間を共有できる奴じゃないと無理だ、つまり鬼か神。神、神、……なぁ?ないだろ。あの人たちが下界に降りてナニカするってだけでも珍しいのに、ないだろ。ってことは鬼だよね、鬼ってことは、二択。この気配からして多分、猗窩座の方。あーーー!!行きたくなぁい!!数十年めんどくさくて見つからないようにしてた努力を無駄にしたくないいいいい!!!純粋な戦闘狂である所もポイントだよね。でも俺はもしも錆兎と猗窩座、どちらの相手をするって選択肢なら猗窩座を選ぶ自信がある。純粋な戦闘狂と性欲含んだサイコパスなら比較にもなりませんね。はい。あ、そう考えるとちょっと楽になってきたぞ、よし、猗窩座の相手頑張ろ~~~!!

そう決めたら早かった。息を吸い込んでどこにいるのか音で探る。結構遠いな。もう少し汽車に乗ってればよかった。でも、俺の脚なら届くよ。息を吐く。そして、跳躍した。月明かりがあたり一面の林を照らす。

―――見つけた

相も変らぬその姿に鬼とはつくづく可哀想な生き物だと思う。人であり人でなくなったその姿。果たして本当にそれは本人が望んだ形だったんだろうか。だから




「引導を、引き渡してあげないと」




地面に降りて、一直線に猗窩座を追う。途中で気配が変わった。多分気づいたんだろう。なら、ちょうどいい。息をひそめる。気配を殺せ。音を消せ。己の存在を薄めろ。あの汽車の鬼には俺の姿が視えなかった。視えなかったということはどうあがいてもあの鬼は死ぬということだ。でも今から殺すやつは違う、偶然が重なれば殺せない。だから。全力の一撃をぶつけろ。

地を蹴る。
空気を裂く
視界に入れる

そして力いっぱいに足で猗窩座の脇にけりを入れた。


視線が交わり、驚愕に目を見開かれ、飛んでいく。その先を知っておれは息を飲んだ。ヤバい。あっちって、炭治郎達がいる方角だ。うわやっべ。強者見たら見境なく襲う子だったよなあの子!!


脚を動かして飛んで行った方へと走れば、林から抜けて視界が開ける。結構飛ばしてる…って、あーーーー!やっぱり!やっぱりちょっかいかけてる!!




「お前の相手は!俺でしょうがっ!」
「おお!酒呑童子!ひさしいな!まさか蹴りをまともに受けるとは俺も驚いた」




交戦していた胡蝶と煉獄の前に立ち、猗窩座をもう一度蹴り上げれば、次は腕でカードされ、横にずれる。転ぶ列車と炭治郎達の安否を確認し、怪我をしてる煉獄へと駆け寄った




「大丈夫か煉獄!」
「うむ、柱として不甲斐無し!」
「相手鬼だからな、気を付けろ。胡蝶は」
「私は花の妖ですから、斬られても花弁が散るだけですよ!」
「そうだった!」




大丈夫です!と両腕を胸の前で持ってきて振り回す彼女に笑いかける。っと、そろそろ起き上がるよね。




「さてと、人の子たち、ゆっくりしてなさい、そもそも夜は妖の時間だ。胡蝶、これを煉獄に飲ませておくように」
「わかりました。神酒ですね」




小さな小瓶を胡蝶に渡して、向き直る

んー、やはり鬼だから回復するの速いなぁ。徹底的に潰して頸を斬れるかどうか、だね。まあ、朝日まで耐久するのもやぶさかではないのだけれど

どっちが効果的だろうか

飛んできた猗窩座の技、『空式』を素手で受け止めて引き寄せる。そのまま反対の手で頸を斬ろうと刀を滑らせれば、掴んでいた方の腕が蹴られ、鈍い痺れが走った。咄嗟に離れ、手を離した隙に脚が降ってくるのを扇で受け止める。さすがに刀で受け止めると折れるよコレ。

あー、めっちゃビリビリする。これ絶対に『破壊殺』発動した後だよね。




「さすがだな!酒呑童子!!」
「俺は目も耳も鼻もいいからね。お前の動きがゆっくりと見えるよ。」
「そうか!だが悪いな酒呑童子、俺は杏寿郎を殺さねばならんのだ。叶うならそこの女もな。鬼にならないなら若く強いうちに死んでほしい!」
「お前もサイコパスかっ!!!!」




思わず叫んだ。だって「俺のものにならないなら死んでくれ(意訳)」である。十分ヤバい。なんだこいつ。なんだこいつ。




「お前ら鬼はいっつもそうだな!気に入らないとすぐに壊す!」
「壊すことの何がいけない!思い通りにならないのなら壊すしかないだろう!」
「マジで単細胞だな!?若いということはそれだけ技を磨き、次へ繋ぎ、継承していく。人という尊いものを繋いでいく!それがわからぬから俺(神)とお前(鬼)はわかりあえまいよ!」




強くなれる可能性の芽を自分で消していくってどうなんだお前は。次々に繰り出される技を受け止め、流し、叩き込む。確実に力を衰えさせろ、自分本位に戦うな。後ろには守らねばいけないやつらがいる。神としての意地を見せろ。神なら守って見せろ。俺にはできるだろう。

隙が見えた。

刀を捨て、扇を広げて細い隙間を通り、その頸を、確かに捕らえる。

流れるようにその頸に鉄の刃を喰い込ませ、引き抜くが、血が噴き出ても落ちてない。自分でも自覚するほど鋭い舌打ち。呆然と、少し固まるその身体に蹴りを入れた。踏みとどまろうとしても遅い。その足はすでに、地を離れているのだから


木の幹にぶつかる猗窩座の身体、それでも好戦的に笑うそいつに声を掛ける




「狗は家に帰る時間だよ。―――もう、人の時間だ」




朝日が昇る。雲一つとしてない晴れた空に。




よかった。天照大神様聞いてくださってた。というかこのやり合い、絶対天上の方々見てただろう、あああああああ!伊邪那美様におこられそう!!(※案の定怒られた)










猗窩座の去った後↓











「イイイイヤァアアアアアアアアアアアア!!!たんじろぉおおおおおお!こいつ鬼だよぉ俺をたすけてよぉおおおおおおおお!!!(汚い高音)」
「こら、善逸、酒呑様の前で恥をさらすな。酒呑様は俺たちを守ってくれたんだぞ!」
「いやはや、黄色い子は元気だな。昔も叫んでた」
「知り合いですか?」
「昔馴染みの弟子の子でね」




滝のように涙を流しながら炭治郎に抱き着くその子の頭を撫でながら、俺は胡蝶に支えられた煉獄に目を向ける。そしてふと、そのそばに立つ女性を見た。涼し気な目元をする黒髪の美女。ゆっくりと、頭を下げられた。縁が見える。太く繋がれた、親子の縁
なるほど、彼女は彼の母親か。死してなお。子供が不安で仕方ないのだろう、なれば。少しだけ。奇跡を上げよう人の子。俺が来るまでの、ほんのわずかな間を耐え抜いた褒美として、少しの会合を許そう

俺の血と神気で作り上げられた酒を飲んだからこそできる。強制技。短い間、語り合ってくるがいいさ

聞くような、野暮な真似はしないから。





「さてと、炭治郎お前もよく頑張ったね、流石は炭の子だ。でもボロボロじゃないか」
「それ以上に煉獄さんが助けてくれたんです!」
「そうか、それで、善逸はいつまで泣いてるんだ。人として恥ずかしくないのかお前」
「ああああああああああ!!どことなく炭治郎みを感じるよぉおおおおおお!」
「こら!神様に失礼だろう!」




でも少しだけ嬉しそうにしてくれる炭の子が好き。
にっこりと微笑み、二人の頭を撫でてから、横に置かれた禰豆子の箱を少しだけ叩く。返事をするようにカリカリと音がして可愛らしかった。




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