「俺、確かに鬼だけどお前らの追ってる鬼じゃないと思う」 | ナノ


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何とか禰豆子を無害と認識させ、ぐずる炭治郎を隠と呼ばれる人の子に預けた俺は今、太陽の下、拘束されていた。いやー、この結び方に悪意を感じるー。俺の武器とか全部巻き上げられたんですけどー…。ちなみにガッツリ首に刀を押し付けられててちょっと嫌。にこにこと楽し気に微笑むこの家の主に、殺意というか困惑が混ざった表情でこちらを見下ろす柱、そうだよね、行きつけの甘味屋の看板娘に似た男の鬼が居たら困惑するよね。わかるわかる。




「で、君は、酒呑童子といったね、私の記憶が正しければ平安時代、源頼光によって倒されたはずなんだけど…」
「監禁されてました」




何とも言えない雰囲気がその場に広がった。




「ええと、監禁、ですか?それはどのような…」
「太陽の光も浴びれないような地下牢に両足を分厚い足枷で繋がれ、与えられる食べ物は奴が己の手で調理し、俺の力の源である酒をほどほどの所で取り上げ、持ってくる衣服は女物…」
「狂ってやがる」
「ほんとにねー。」




あ、やっぱりそう思う?俺もめっちゃ思う。やっぱり狂ってるよね、言葉にすれば存外やべーやつで草。普通人間の天敵監禁してうっとり眺める?絶対眺めないでしょ。人間がミミズを三時間眺めるか?眺めないでしょ普通さ。禰豆子に血を見せていた男の言葉に頷けば首元に置いてあった刀にあたって皮膚が少しだけ裂けた、驚いたようにずらす蛇柱に罪悪感。




「ああ、気にしなくていいよ、俺、肉体がぐっちゃぐちゃになって再起不能になっても天上の神々からまた新たに肉体作ってもらえるから」
「?神々?」
「さっき言ったでしょ、信じなくてもいいけど、おれ鬼神、鬼の神って書いて鬼神ね。本来の目的は悪さする妖共の監視及び躾なの、言い訳がましいけど、お前らが追ってる鬼じゃないんだよ。わかってるとは思うけどさ」




お前らの知ってる鬼は太陽の下じゃ無事にすまないんだろ?首を傾げて笑って見せれば、頭を抑えた彼らが目に入る。でも鬼なわけだし捕まえときたいって感じなんだろうな。ごめんね。まさか身内に鬼が二人もいるってことになるなんて思わなかったでしょ。まあ、それにしても、こんな彼らを受け入れるあの御屋形様って人の顔、どうも見覚えがあるし、蟲柱という彼女にも聞きたいことがいくつかある。だからこそ、あらかたの尋問が終わった今、今度は俺が答えてもらう番だ。どうやら彼らも俺という鬼がいることは知っていたらしく、代々鬼殺隊のことについて記した記録にも載っていたらしい。ソレも結構初期から登場している。おれって結構有名人だったんだなぁ




「ところで、今度はこっちから質問いい?あと縄はずして、流石に痛い。」
「私は構わないけど、君たちはどうだい。先程から酒童子に見覚えがあるような反応をしているね」




穏やかに言い切った彼に、蟲柱が頭を押さえて頷いた




「…ええ、まあ、そうですね、外すのは構いませんが…」
「うむ!では斬るぞ」
「えっ、待って!?まさかの直斬り!?それで俺の手飛ばしたらお前死後の裁判覚えとけよ!?」




あー!あーーー!!本当に直に斬りやがりましたね!?笑顔で満足そうにしてるけど絶対許さないからな!?いまだ何も言わずに無表情でこちらを凝視する義勇も怖いし、おびえる蛇を庇ってさっさと離れた蛇柱は可哀想だし、静観を突き通してる他の柱も怖い。ええええ、俺どうなるの、コレ質問していいの?御屋形様とか呼ばれてる男の顔について質問していいのこれ??ダメだよね、雰囲気的に絶対だめだよね。よし、無難な方から行こう




「あ、じゃあ、質問ね、蟲柱に聞きたいんだけど、姉がいない?胡蝶カナエって名前の」




その瞬間、俺の目が彼女の刀を捕らえ。無意識のうちに庭にあった松の上へと退避する。え、こわい、いまだひゅんひゅんと手元で柄を回しながらこちらに狙いを定める蟲柱怖い。笑顔じゃん。俺何もしてないのに。よく見れば柱全員、俺に対して捕獲体制を取ってる。えっと、まってね、これってあれだよね、胡蝶、もしかして自分が生きてることを教えていない??うそでしょ、あれだけ家族大丈夫なのって聞いたら笑顔で大丈夫ですよって答えてくれたじゃん。時々悲しい顔してた理由コレか、コレなのか??えええええ胡蝶さん?ちょっと胡蝶さん!!?蟲柱が笑顔で質問してきてるけど、これって絶対見せたほうが早い奴だよね??腰にかかる瓢箪を一つだけ手に取って潰す。そうすれば俺の目の前に風が吹いた、花弁が混ざるその風の中央から、頭を垂れた状態で出てくるのは火種になった人物で、屋敷に動揺が走る。呼び出された理由がわからないのか、キョトンとした彼女は空中で首を傾げると、下を覗き込み、「あらあら」と声を上げたのだ。いや、あらあらじゃないと思います…胡蝶さん…。

その後のことを簡素に説明するなら、まず、蟲柱が泣いた。それももう、かなり号泣だったと思う。泣き出した蟲柱に胡蝶が慌てて降りていき抱きしめると、その羽織を掴んで声を上げて泣くのだから、周りの柱はもちろんのこと俺も胡蝶も混乱した。次に俺のことを事細かに説明した。ちなみに自分が甘味屋の看板娘であることも説明すれば、なんとも言えない気まずい雰囲気になったし、義勇に謝罪すれば、最初から気づいていたと言われてしまい、どんな顔をすればいいのかわからない。お前、女装した男に櫛やら簪を貢いでたって相当やばいんだけどな??しかもそれが分かってたってどういうことなの…困惑は困惑を極める。この会議の様子が鱗滝に行き、必然的に錆兎にも届いたのが俺の運の尽きだったと思う。俺は基本的に甘味屋で働く以外は炭治郎の近くにいるのだが、そこで捕まえられた。脇に抱えられた挙句の果て、廊下に連れて行かれると、無理やり俺の頭に自分が持ってきた簪を差し込む。くるりと簪で髪をすくい、結んで、満足げに頷くと、笑ったままこう言った




『女の時の初めては義勇に譲ったが、男の時の初めては俺がもらったぞ』




と、何のことかもわからなかったし、俺の髪が長くなければこの簪は無駄だったんだぞとも言いたかった。けれどサイコパスにしては珍しく、その無駄に整った顔を赤く染めて吐き出した言葉に、まあ、持っていてやろうと思ってしまったのも事実だ。その現場に遭遇した義勇さえいなければそれでその話は終わりだっただろう。どこかむっとした表情でまた新たな簪を買ってきたらしいそいつは錆兎の簪とは反対側にソレを挿して微笑むし、居心地が悪い。あの、すみませんけど、俺は男です。炭治郎の元に戻った俺に、首を傾げた炭治郎は俺に向かって問いかけた




「あれ、どうしたんですか、酒呑様、顔、赤いですけど…」



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