「俺、確かに鬼だけどお前らの追ってる鬼じゃないと思う」 | ナノ


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笑顔よし、髪型よし、服装よし、髪型よし、つまり完璧。一度だけ満面の笑みを浮かべながらくるりとその場で回り、下駄を鳴らす、拝啓、前世のお父さんにお母さん、熱中症とかいう阿保の極みたいな死に方をした息子は今、




「いらっしゃいませー!ようこそ!甘味屋藤の家に!」




神となったにも関わらず女装をして接待しております。本当にこの顔に産んでくださりありがとうございます。ばれたら変態の一言じゃすみませんね。はい。俺だって女装したくてしてるわけじゃないから。ただ、炭の家の子が結構任務で開けるって聞いて、初任給で禰豆子への髪飾りとか着物を買うって聞いて、じゃあ誰が炭治郎にモノを買い与えるんだよってなって、俺が稼げばいいってなっただけだし!しかし、神様パワーで性別すら変わるのすごい。俺めっちゃ美人だよ今。顔のパーツは変わってないらしいので、俺の顔はきっと元から整ってたんだと思う、だって誰も教えてくれないんだもん。平安なんて醜悪な外見とか記述されてる書物呼んだからそりゃあさ、自信失くすやん???ところで全部が全部人を貪り食ってる描写なんですけどそれは…。やめよう考えない。俺は何も考えない。…考えないのはヤバいな。客に笑顔で注文を聞いたりお茶を運んだり、店の前で蒔き水をしながら客を呼び込んでいた時、がっつりとどこかで見覚えのある顔をした青年と目が合った。固まるな俺。いや、私。固まるんじゃない。隙を見せるな。見せた瞬間に切りかかられるぞ。人間に擬態してるとはいえあの鱗滝の弟子だ、つまり錆兎と同じ生産元の人間だ、発想がサイコパスの可能性を捨てるんじゃない。此方を視て猫が驚いたような顔で固まる青年に笑みを浮かべて近づいた。その手を握ればぎょっとしたように身を引く。逃がすな。




「はじめませて素敵な方。よければ私の働く店でお茶でもいかがですか?」
「……?????」
「みたらし団子がおススメなんですけど、お嫌いです?」
「????」




何が起こってるのかわからない人間の反応がヤバい。罪悪感が半端なくてするりと手を放そうと力を緩めれば慌てたように手を握られた。そして少しだけ青みのある瞳をさ迷わせてから男は、―――義勇は言葉を放つ




「いや、いただこう…。あと、藤の屋の主人に会わせてくれ」




お前、昔に比べてえらく口数減ったな、とか、なんでそんなに目が死んでるのとか聞けない。だって俺の知ってる義勇って笑顔めっちゃ浮かべてたし、よくしゃべってたし、何なら目が輝いてた。夜中に泣き出すこともあったみたいだけれど、俺はそれを知らない。女らしく間延びた返事をしてから店へと連れ込めば、なぜか主人が頭を下げて部屋の中へ案内した。あのすみませんそれお客の予定なんですけど。ご主じーん???疑問符を浮かべる俺の思考は注文を頼む客の声に消される、この時よく考えなかった俺を誰か叱り飛ばしてほしい、藤っていうワードに引っ掛からなかっただけでも随分とアウトなんだと後に知った。


その日から、だっただろうか、義勇がよく店に顔を客として出し始めたのは、最初は無言で食べて無言で金だけを払い去っていくのに、いつの間にか特等席が出来て、食べるものもだんだん固定化してきた、そこから数日たつ頃には数回に一度なぜか俺への手土産を持参してきた。それは一重に髪飾りだったり耳飾りだったり、最近流行りと聞いたからとレースのついた純白のハンカチを渡されたときの俺の気持ちを誰か代弁できるだろうか。罪悪感で押しつぶされそうだったわ。お前がものを買って捧げてる相手、男です。しかも鬼です。いや、お前らの追ってる鬼じゃないけど、鬼です。昔、仮にも可愛い可愛いと言いながら剣を教えていた相手が悪い女に騙されてるのを目の当たりにした感じがすごい、悪い女俺だけど。少しでも断る素振りを見せれば肩を下げて捨てられた子犬のようにこちらの気配をそっとうかがうのだ、誰がそんな奴の手土産を拒否できようか。たまにつけて接客すれば顔は無表情でも空気がすごくうれしそうになるし、何なら花を飛ばす。その日の滞在時間はいつもの二倍くらいには長い。初めてつけて接客した日なんかは鎹烏っていうのだろうか、しゃべる烏が突き出すまで動かなかったな。罪悪感ヤバい…。一月もすれば今度は彼の同僚らしき人々が顔を出すし、その中の一人、髪型が偉く派手な赤系の男を俺は知ってる。多分息子。でも本人に会ったことはないのでセーフだと信じたい。というかめっちゃ食べるな??え、一度に50本食べるって何だろう。負けじと注文しようとした義勇を止めながら信じられないものを見る目で見てしまった。わっしょいじゃないんだよなぁ。うまいじゃないんだよなぁ。義勇の同僚が来てから店の主人やその家族は毎回死んでる。ちなみに尊死。こいつらはアイドルか何か何だろうか。箱推しですか、素敵ですね。そんな彼に続いてよく食べてるのが桜餅みたいな色した女の子。なんというかすごく胸を強調する衣装を着て、宇治金時やぜんざいをかき込むさまは見ていて気持ちがいい。けれど時々胸やけがするのはなぜだろう。その横で蛇を身体に巻き付けた中二病ちっくな男はその様子をどことなく楽しそうに見ているし、蝶の髪飾りを付けた顔だけで食べていけそうな美女は義勇に対して当りが強い気がする、けれど口調に見合わず、存外可愛らしいものが好きなようで、新作の商品が出ればそれに手を付けるし、何もないときはウサギの型をした饅頭をよく頬張っている。…全員柱ですね、知ってる。俺、知ってるよ、今代の柱に斬りかかられたことはないので、実物見たのは初めてだったけど。―――、まあ、だから、その、ね?




「酒呑様っ…!」
「あ、うん、よしよし」




うえええええん!!と泣き出す炭の家の子を宥めながら、目を丸くしてこちらを見つめる人間、通称『柱』たち。なんというか、その、さぁ…呼ぶ、場所と時間を考えなよ炭の子…。というか君、そんなに泣けたんだね。まだ禰豆子救ってないから泣くのはちょっと早いかなって思うんだよ。ほら、禰豆子がおろおろしながら目の前で血を流す男の人放置してるから、日が当たらないぎりぎりの場所で畳みバンバンしてるから、禰豆子もそれ他家の畳みだから痛めるようなことしないでー。泣き止まない炭治郎の頭を撫でながら俺は彼らに向かって、へらりと笑みを送る




「えっと、こんななりで悪いけど、俺の名前は酒呑童子。大江山を拠点とする鬼の始祖にして鬼神、妖たちの首領を務める者、なんだけど、いまは御覧の通り、炭の家の子、竈門家の守り神的なことをしてる、どうぞよろしく?」




とりあえず真っ先に刀を抜いた煉獄の家の子は納めて頂いてよろしいですかね???




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