救いが欲しけりゃ金を出せ | ナノ


▼ 5

―――数年後―――


その日、新たな柱が誕生した。鬼の討伐数50 下弦の肆1体 上弦の鬼を討伐こそは出来なかったものの、持久戦にて相手を退けることを成功させる。そして、その柱が参加した任務の隊員死者数――――零。
その驚異的な数字は瞬く間に鬼殺隊を駆け巡った。

彼が任務に参加する前に死んだ人間いれど、彼が任務に就いた後に死んだ人間は一人もいない。

彼の戦い方を見た柱はこういった




――――アレは金にこそがめついが実力はある。そして、他者を守ることにおいて他の追随を許さないほどに卓越している
――――攻撃型こそ少ないですけれど、彼の本分はそこではなく、持久戦であると、私は思います。
――――上弦の鬼すらも通せぬ鉄壁の守り。奴の守りを破る者がおるのか、俺にはわからない
――――なぜ、あの人が今まで柱じゃなかったのか不思議なくらいです




幾人もの柱たちが憶測を述べ、それぞれの想いを口にする中で、主人に向かい平伏していた男は顔を上げた。その顔が差し込んできた太陽の光により照らされる。

男にしては細い体躯。一見女と見まごうばかりの美貌は初めて目にした者ならため息をつく歩道ほどには美しく、どこか挑発的な色を放つ赤みを帯びた瞳に呑まれてしまいそうだと誰かはこぼす。隣に鎮座する青龍偃月刀も太陽のひかりを受けてその刃を光らせた。


「―――貴殿を、鬼殺隊柱に任命する。柱名を、守柱としよう」


屋敷の主。産屋敷耀哉がそう宣言したとき、その男は美しい顔をめんどくさそうに歪めて首を振った


「柱になればそれだけ制約だの仕事だのが増える。銭にならないのなら俺は今までのままでいい。鬼を倒して報酬がもらえて月収までついてくる今のままが楽だ」


その言葉に本来なら激昂するであろう柱たちも、隠でさえも苦笑した。彼のこの性格とがめつさには慣れたもので、その返答すらもとうに数十回を超えていたから。いつもは産屋敷が「それならしかたないね」とまるで悪い子を見るように声を発して終わるのだが、今日は違ったらしく、ころころと笑いながら問いかけた


「ふむ、そうだね、それならこうしようか」
「?」
「私は君が柱になってくれたなら毎月君の給金を20円増やそう」


ピクリと確かに男の指が動いた。けれどまだその瞳は揺れていない


「さらに、君が柱になり名前と出自、年齢を公開するなら今月の給金は上乗せで10円だ」


次は肩が揺れる。スッと産屋敷の目が細まったのを柱たちは見た
この時点で柱になれば男の懐には確実に30円(15万円)がきまっている


「もう少しだけ粘ってみようか。柱になって君が任務を受けるごとに2円上乗せ、さらに鬼を倒すごとにいつもの給金に4円たそう」
「乗った」


迷いのない言葉に産屋敷は満足げに頷いて笑う。やはり食えない方だなと尊敬を込めて平伏した人間に「私は疲れたから少し横になるよ」と、奥の方に敷いてあった布団へとその身を任せる


「君は今をもって柱になった。さあ、君のことを教えておくれ」


優し気な声で諭され、男は髪を撫でると背筋を伸ばし、口を開いた


「ま、改めて自己紹介ってやつだな。俺の名前は門竈 道幸。年齢は今年で21だな。出身は土佐。っていえばわかるか?その山奥の小屋で育てられたよ。で、俺を育てた爺が御屋形様の先代で柱やってたらしい。岩の呼吸を習ってたわけだから岩柱だったんじゃねえかな」


めんどくさそうなのを隠しもせずにそう言い切った男、道幸は赤の交わる瞳を細め、柱に向かい。いつの日か見たような笑みでこういった


「まあ、俺に頼むときは金を出しな。そうすれば、守ってやるよ。鬼からでも、上弦からでもな」



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