救いが欲しけりゃ金を出せ | ナノ


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主人公目線

行かないでとすすり泣く声が聞こえた、鬼を探索していた俺は声の聞こえる方に足を向ける、そうすれば一人でただ泣く黒髪の少年を見つけて声をかけた。どこか意志の弱そうな黒い瞳に眉を潜める。纏うオーラは明らかに強者なのにどうして泣いているのだろう。持っていた偃月刀を地面に刺して流れる涙を袖で拭いた。


「おい、どうした」
「――ッ!―――ッ!」


何度も何度も言葉にしようと口を開くがさっきまで泣いていたせいか喉が引くついて言葉にならないらしい。己のふがいなさにさらに泣きそうになるその頭を撫でながらどうするべきかと頭を抑えた。さらにぼろぼろと零れている涙はさらなる悪循環を生んでいる気がして…


「さっき、行かないでって、泣いてたろ」
「!!」
「誰かが、先に行ったのか?」


鬼が来そうにないこの場所で、行かないでと泣いていた理由なんてそれしかない。


「たすけて」
「?」
「錆兎を、一人で、すべての鬼倒すって、アイツ…!」


まともに話したかと思ったら人助けを乞われ。俺は眉を潜めた


「なら、金をよこせ、命がかかってるかもしれんソレに、俺は俺の命はかけれない」
「――っ!」


信じられないようなものを見る目だった。だけど


「ここの鬼は鬼の中でも弱い奴らだ。弱い奴にやられるようなら鬼殺隊になど、鬼になど立ち向かわないほうがいい。それでも俺に助けに行けというなら金を出せ。」


こんな、小さな少年に言うのは、きっとひどく酷だろう。けれど俺には俺の信念がある。俺は、無駄な働きはしない。あの時からそれは決めていた。
どうするんだと問えば、その少年は俯いてから口を開いた


「俺がいっても、この怪我をした身体では無理だ、だから、貴方が望む額を払おう。何年かかっても、だから、錆兎を、助けてくれ…!」
「…依頼完了だな、そいつの特徴は」
「狐の面と、変わった髪色をしている」
「了解、お前はここにいな、たぶん安全だ」


地面に刺した偃月刀を走りながら抜き、肩に担ぐ。そのまま勢いをつけて木の枝に飛び乗り、五感を研ぎ澄ませばどこかで何かを斬る音が聞こえた。その音の方向に走れば、異形の形をした鬼と狐面の変わった髪の少年がいる。けれど、結構追い込んでないか?と木の上で見つめていれば、刀が不意に、嫌な音を立てた


―――考えるよりも前に身体が動く。


折れた刀のかけらが飛び散り、異形の鬼が彼の頭に手を伸ばす前にその体躯を抱き込んで前方の木の上へと退避した。


「あーーーーっぶねぇ…!!」
「あ、なたは…?」


問いかけに応えずに彼の持つ日輪刀に目を向ければ刃こぼれと刃に油が付着していた。これでは刀も折れてしまうだろう。


「なぜ、邪魔をする」
「頼まれたもんでね。おい、しっかり捕まってろ、その刀じゃ戦えないのはわかってるな?」
「――っ!だけど!」
「見失うなよ、お前の命と、この異形倒すの、どっちが大切か分かんねえのか。置いてきてた少年、泣いてたぞ」


その言葉にわずかに息を飲んで、目線を下げたその頭を撫でる。


「でも、逃げるのは…」
「お前刀無いんだからどうしようもないだろう」
「――っ、だけど!」


言い募ろうとするそいつに俺は頭を押さえて、問いかける


「いくら払う」
「は?」
「あいつを倒した場合、いくら払う」
「…???」


思いっきりわかりませんという顔をされて、俺はため息をついた。


「1円だ。あの少年からの依頼代とこの鬼の討伐代、それにプラスしてお前を守り抜く代金。合わせて1円だ。払えんだろ」
「い、いや、急に言われても!」
「ぐだぐだ言ってんじゃねえ!来るぞ!!」


飛んできた腕をまっすぐ見つめ、少年の胴体を担ぎ、次の枝に移る。複数の腕を操る鬼、さっきの少年との戦闘を見ていて思ったが、地面からも腕を生やすことが出来。頸が異常に硬い。だけれど、動きは単調。


「行くぞ、青龍偃月刀」
「ちょ、ま、俺怪我して…!ていうか、アンタ俺を担いだままじゃ、不利だろう!!」
「あ?なめんなよ、素手で殺せるわ」
「いやいや、――っ!来てる!」
「知ってる」


だから、まだ鬼に対抗できる武器がある分、楽なんだよ。手の武器を持ち換えて、大刃を下に振り下ろす。そのまま飛び上がって生えてきた数本の腕をまとめて切り裂いた。溢れる血飛沫に薄茶色の羽織が塗れる。腕の少年にもかかったみたいで、顔を顰めていた。


さっさと終わりたいけどな、まあ、守ってる腕ごと、切ればいい話だ。





         ――――守の呼吸 肆ノ型 滅ノ陣」


片腕だと少し負担があるが、できないことはない。気を高めて深く息を吸う。そうすれば体温の上昇と脈拍が急激に上がり、一種の興奮状態に持っていく。腕の中で「腕が来る!」と叫ぶ少年に耳を貸さず、ただ鬼の頸を飛ばすべき地を蹴る。



そして。



守られている頸に狙いを定め、身体を捩じり勢いをつけてその首を飛ばした




一瞬だけ、誰かを求めて寂しそうに泣く、少年を見た気がして、俺はひそかに息を飲む。が、それ以上に己の身体の状態に気づいて、冷や汗をかいた


「あ…」
「え、どうした!?」
「腕折れた」
「…はあああああああ!!???」



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